14話 バレる前に全滅させてしまうしかないね
とりあえず僕はアデルに剣を教えて貰うことになった。
絶対魔法を使うなと念を押されながら。
そして、二人で訓練場へとやってくる。
「じゃあ、剣の練習をするけど、その、絶対に魔法は――」
なんでそこまで怯えているのか分からないけど、アデルのその言葉に頷いておく。
「でも、この剣を振り回す以外にどうしたらいいのかな?」
アデルの前で木剣を軽くふるってみると彼は冷や汗を流していた。
「い、今……、剣を振った……よな? み、見えなかった……」
僕の顔をじっと見てくるアデル。
「今、魔法も何も使わなかったけど、こんな感じでいいのかな? もう一回試してみる?」
「い、いや、も、もう十分だ。そ、それよりも今の、魔力を込めてないって本当なのか?」
「うん、本当だよ。魔力を込めるってこんな感じだよね?」
あまりやりすぎると騒ぎになるかもしれないと木剣が壊れない程度に魔力を込めてみる。
すると、木剣が青白く輝き出す。
「えっ、そ、その光は……ま、まさか、聖剣?」
「いや、ただの木剣だよ?」
アデルは何、冗談を言ってるんだろう。
いくら魔力を込めたところで木剣が最高級の切れ味を誇ると言われてる聖剣に届くはずもないのに……。
「でもその輝きは間違いなく聖剣の……、いや、考えるのはやめておこう。リーノならその程度出来て当たり前だもんな」
「それよりもここからどうしたらいいのかな? 僕はただ振る以外できないんだけど……」
以前にアデルが見せていた綺麗な動き方……。あんな風に僕もできるのかなと少し期待していた。しかし、アデルは首を横に振る。
「もう俺に教えることはなにもない……」
がっくりとうなだれるアデル。
トボトボと自分の部屋に帰っていく彼を見て僕は首を傾げていた。
◇
そして、対決の日。
僕は一人で町外れの草原へ来ていた。
「どうせだったら訓練所を借りてしたらよかったんじゃないの?」
「そんなことをしたら怒られるでしょ。剣術クラスの私と魔法組のあなたが戦っていたなんて知られたら……」
そういうものなんだ……。別に訓練ならいいと思うんだけどなぁ。
「それで勝負は剣で……と言ったけど、あなたのは?」
「えっと、木剣だよ?」
剣自体を持っていないので、今あるものを……ということでこれを持ってきた。
でも、それが癪に障ったようで少女は怒りで肩を震わせていた。
「そう……、私には木剣で十分……ということね。それなら後悔させてあげるわ!」
少女は腰に携えていた剣を抜き、両手で構える。
それと同時に僕も木剣を握りしめる。
と、その瞬間に何か魔力の気配を感じた。
少しそちらに振り向いてみると、やはりはっきりと高威力の魔力がこちらを目掛けて飛んできているのがわかった。
しかし、少女はそのことに気づいていない様子だった。
とにかくこのままじゃまずいね。
飛んでくる魔力に意識を向けると少女がムッとした様子で不満を告げてくる。
「……そう。私はよそ見してても余裕……と言いたいのね。それなら遠慮なくかからせてもらうわ」
少女がまっすぐ剣を振りかぶってくる。
このままだと飛んでくる魔力に少女が当たってしまう……。
僕は手に魔力を込めて、少女の剣を片手で受け止めると反対の手で魔力の塊を受け止める。
「えっ! な、何!?」
僕が魔力を受けとめると、少女は驚きの声を上げていた。
すると、ゆっくりと人影が現れる。
背丈が大きく、長い爪と捻れたツノ、長い白髪をした魔族。それが今回魔力を飛ばしてきた張本人だったようだ。
「くくくっ、あの攻撃を防ぐか……。でも、すでに満身創痍であろう」
傷一つないんだけど……。しっかり受け止める時に防御魔法を使っていたし……。
でも、魔族の男は完全に防がれるなんて思っても見なかったのだろう。普通に話を続けていた。
「今楽にしてやる……。覚悟しろ……」
再び魔力を込め始める魔族。もう倒してしまってもいいんだけどね……。
「どうして僕たちを狙うのですか?」
「お前ら……というより、お前だな。黒龍王すら倒せる人間。それを倒したとなると俺の評価はうなぎ登りだからな。他にも多数の高ランクの魔物や魔族が狙っていると聞くが、まだ生きていてくれて助かったぞ」
つまり、最近やたらと魔物が現れたのも、今この目の前に魔族がいるのも僕がSランク冒険者で、以前依頼をこなしてしまったせいってこと?
もし、今後も襲ってくるようなら僕がSランクである……ということがバレるのも時間の問題だろう。
……つまり、バレる前に全滅させてしまうしかないね。
僕は静かに魔力を貯める。
「それじゃあ、そろそろとどめを刺してやる。恨むならお前がエス……」
ドゴォォォォン!!
少女の前でバラそうとした瞬間に魔族の男は爆発に巻き込まれる。
「な、何があったの!?」
少女が驚いて僕に聞いてくる。
「勝手に爆発したように見えたね……」
本当は僕が魔法を使って爆発させたのだが、そのことは言わなかった。
余計な詮索をされても困るもんね。
「そ、そういえば、あなた、さっき私をかばって爆発に……。だ、大丈夫なの?」
心配そうに僕の手を見てくる少女。
「うん、あの程度大丈夫だよ。心配しないで」
「ありがとう……」
少女は頬を染めながら小さく呟く。
◇
そういえば、この魔族の他にも僕を狙ってる魔物たちがいるって言ってたよね。
僕は目を閉じて意識を集中すると周りの魔力を感知してみる。
すると数十くらい、ドラゴンほどの魔力を感知できた。
ただ、そのクラスの魔力が最大で、それ以上強い魔物もいないようだった。
これなら放っておいてもいいんだけど、僕がSランクとバレても困るし……倒しておこう。
さっと手を振り下ろすと魔物たちに雷が降り注ぎ、一瞬でその魔力反応が消えていた。
それを確認した後、僕は少女に聞いてみる。
「そういえば、訓練が途中で中断されちゃったね。もう一度する?」
すると少女は必死に首を横に振っていた。
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