8話 せっかくのドラゴンだし、ここで食べる?
さて、このドラゴンをどうしよう……。流石に全部持っていっても食べきれないし、かといって置いておくのももったいないよね?
ドラゴンをどうするか迷っていると、近くにいた人がおどおどと話しかけてくる。
「あの……、助けていただいてありがとうございます……」
腰が九十度になるくらい曲げてお礼を言われる。
ただ、その人もよくみると少し怪我をしてるようだった。
それなら……と僕は指を鳴らして回復魔法を使う。
「な、治った……。あ、ありがとうございます」
傷を治してあげると何度もお礼を言われてしまう。
よくみると周りにもたくさんの怪我人がいるね。
その人たちも同じように指を鳴らして回復魔法を使う。
すると他の人たちも一瞬で傷が治っていた。
「ありがとうございます。ありがとうございます……。俺たちにできることでしたら何でもしますので……」
なんどもお礼を言われる。
何でも……か。
「それだったらドラゴンを運ぶのを手伝って欲しいんですけど」
「えぇ、任せてください」
よし、これでシーナたちへのお土産がしっかりできたな。
◇
「あっ、戻ってきた……」
シーナが安堵の表情を見せる。
「……でもあれ――」
マシェがドラゴンを指差しながら驚いていた。
「ただいま。これお土産だよ」
彼女らの前にドラゴンを置く。
「もう倒したの……。だってドラゴンだよ?」
「うん、あまり強くないやつだったんじゃないかな」
「で、でも――」
まだシーナが何か言おうとしていたが、マシェが服を掴み、首を横に振っていた。
「リーノだから……」
「それもそっか……リーノ君ならおかしくないよね」
なぜか僕だからということで納得されてしまった。
「せっかくのドラゴンだし、ここで食べる? 熱々に焼いてきたから……」
僕がドラゴンを魔法で切り分けていく。するとシーナは呆れた表情を浮かべていた。
「リーノ君、さすがにそれは……」
注意をしようとしていたようだが、それより早くマシェが僕から肉を受け取り、口にくわえていた。
「……おいしい」
「でしょ。なかなかドラゴンが現れないから食べられないけど、美味しいんだよね」
僕も口に入れてゆっくりと噛みしめる。
ほどよい脂がとろけるようで、やっぱり美味しいな。ドラゴンは特別だね。
僕達がドラゴンの肉を食べていると一緒にドラゴンを運んできてくれたおじさんが言ってくる。
「な、なぁ、俺も食って良いか?」
どうやら僕達が食べているのを見て自分も食べたくなったようだ。
まぁドラゴン一体でも食べきれないほどの量があるわけだし、それが五体分……。とてもじゃないが僕とマシェだけでは食べきれないもんね。
「いいですよ。好きなだけ食べてください」
「そうか……。じゃあ遠慮なく――」
おじさんがドラゴンの肉を食べる。
「うおっ、これは本当にうめぇな」
おじさんもすぐにドラゴンの虜になったようでひたすら切っては食べてを繰り返していた。
すると、そんな僕達を見てシーナもうずうずとしていた。
「あの、リーノ君……。私も食べて良いかな?」
さっきは遠慮していたシーナも食べたくなったようで恥ずかしそうに聞いてくる。
「うん、もちろんだよ」
大きく頷くとシーナのために切り分けてあげる。
◇
それから僕たちはしばらく肉を食べていたのだが、流石に四人ではドラゴン一体も食べきることができなかった。
すると他にも食べたそうにしている人がいたのでその人たちにも配っていく。
「こ、これがドラゴンの肉……」
「う、うまいな……」
気がつくと周りには人混みができていた。
すると冒険者ギルドのお姉さんが手招きをしていた。
なんだろう? 僕に用事なのかな?
「ここ、お願いしてもいいかな?」
「うん、大丈夫だけど、リーノ君はどこいくの?」
シーナは頷いてくれるものの首を傾げていた。
「よくわからないけど、呼ばれてるみたいなんだよ」
「そうだよね、リーノ君はドラゴンを倒したわけだから呼ばれてもおかしくないよね。いきなりSランク冒険者とかになったりして……」
シーナが冷やかしてくるが、ただ、僕はもうそのSランク冒険者なんだよね……。
◇
「あなたがドラゴンからこの町を救ってくださったのですね」
受付のお姉さんが微笑みかけてくる。
「はい、そうですけど、別に問題ないですよね?」
もしかして、僕が先にドラゴンを倒したことを注意しようとしたのかと思ったので、眉をひそめる。
しかし、お姉さんが言いたいのはそんなことではなかった。
「いえ、お礼が言いたくて……。本当にありがとうございます」
頭を下げてくるお姉さん。
「本当ならあなたのような子に任せるんじゃなくて冒険者がなんとかしないといけなかったんだけど……」
「あっ、それなら僕も冒険者ですよ」
「えっ!?」
ちょうど今ならシーナたちは外にいる。
それにギルドの人に嘘を言っても仕方ないと僕は冒険者証をお姉さんに渡す。
「え、Sランク……。う、嘘……」
信じられないものを見る目で僕のことを見てくる。
「出来れば内緒にしてくださいね……」
「あっ、はい。それはもちろんです」
一応冒険者も個人に配慮して、無断で情報を教えたり等はしない。こうやって内緒にして欲しいと言っておけば、ギルドから漏らされることはまずなかった。
まぁ、冒険者になる人は基本目立ちたい人が多いので、むしろ広めてくれと言う人の方が多かった。
僕はむしろ広めて回ることはなかったが。
でも、遠目から見ていた人が、僕のことを見て六歳のSランク冒険者がいるとか言う話をしてるのは聞いたことがあるけどね。
「それじゃあ僕はこれで失礼しますね……」
シーナ達にドラゴンの肉を配ることを任せてしまっているので早く戻ろうとする。
するとお姉さんが更に止めてくる。
「もうちょっと待ってください。ドラゴン討伐の報奨金がありますので……」
もう誰かが依頼したのだろうか?
「でも、僕がドラゴンを倒したなんて証明がもうできないですよ?」
ドラゴンだったものは既にどんどんと食べられていた。
「大丈夫ですよ。見たら分かりますので。では、こちらをお持ちになってください」
お姉さんが小袋を渡してくる。その中には金貨がたくさん入れられていた。
「こんなにいただいてもよろしいのですか?」
ドラゴン相手なら一匹金貨一枚が妥当なところだった。
ただ、今袋の中を見てみると確実に金貨十枚以上入っていた。
「はい、被害が最小限で助かりました。また何かあったらよろしくお願いしますね」
「ははっ……、できれば僕一人の時にお願いしますね」
僕は乾いた笑みを浮かべる。するとおねえさんは元気よく「もちろんです!」と返事をしていた。
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