9話 ドラゴン討伐、金貨十枚は妥当な値段らしい

 お姉さんとの話が終わると僕はすぐにシーナたちのところへ向かう。

 するともうドラゴンの肉はなくなって骨だけになっていた。


「このドラゴンの骨はどうしようか……」


 持ってても仕方ないし、かといって捨てておくには邪魔になるよね。

 首を捻って考えているとおじさんが言ってくる。


「それじゃあこれは俺が貰っても良いか? ドラゴンの骨は良い素材になるんだ。売り物になるから町の復興に使えそうだ」


 あっ、そうなんだ。

 どうせ僕には使い道のないものだしもらってくれるならありがたいね。


 僕が頷くとおじさんは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そうだ、一応君たちのための装備もこの骨で作ってあげよう。魔法使いとは言え、護身用の短剣くらいは必要だろう。邪魔にならない範囲で作ってきてやるから」


 そこまでして貰えるならありがたいな。マシェやシーナもどことなく嬉しそうだし……あっ。


「それなら普通の剣も一本作って貰っても良いですか? お金は払いますし」

「いや、このドラゴンの骨でおつりが来るくらいだ。ではできたらまた連絡させて貰う。学園へ連絡させて貰ったら良いな」

「はい、それで大丈夫だと思います」

「それじゃあありがたく貰っていくぞ」


 ドラゴンの骨を担いで去って行くおじさんたち。それを見送った後に僕はシーナ達に目配らせをする。


「そろそろ僕達も戻ろうか」


 時間は夕方。さすがに遅くなると学園の中には入れなくなってしまう。それは困る。


「そうだね、なんだかバタバタした一日だったね」


 シーナは苦笑を浮かべる。


「……でもリーノのすごいところが見られた。あとおいしかった……」


 マシェが頬を染めて微笑んでいた。


「気がついたら一瞬でドラゴンを持ってきたもんね。そういえばリーノ君、ギルドの人と話してたけど、いったいどんな話だったの?」

「なんかね、ドラゴン討伐の報奨金をもらっちゃった……」


 そう言いながら金貨の入った小袋を見せる。


「ドラゴンを倒したんだもんね。かなり大量に入ってたんじゃないの?」

「ちょっと多いくらい入ってたよ」


 すると中身が気になったのかマシェが袋の中を覗き込んでくる。


「……うん、妥当」


 金貨十枚がマシェ的には妥当な値段らしい。

 どう見ても多すぎるのに……。


 ◇


 学園へ帰ってくるとライズがそわそわした様子で待っていた。


「お前たち、町に行っていたのか?」

「えぇ、そうですけど……。何か問題がありましたか?」

「いや、町にドラゴンが現れたと聞いて、生徒の無事を確かめていたんだ。よほどのことがない限りお前たちなら何もないと思ったが……」


 もしかして、僕たちが町に行った後にドラゴンのことを知って探してくれていたのだろうか?


 それは悪いことをしたかなと思う。


「それじゃあお前たちも見つかったことだから俺はそろそろ町へ出向いてくるな」


 よくみるとライズは腰に剣を携え、装備が万全の状態だった。その状態で町へ行く理由なんて一つしかないよね。


「もうドラゴンは倒しましたよ?」

「いや、ドラゴンは一体じゃないんだ……」

「えぇ、五体いましたね。全て倒しましたよ?」


 それを聞いて驚くライズ。ただ、僕の顔を見て深々とため息を吐いた。


「そういえばお前はそうだったな……。あの的を軽々と壊せるくらいなんだ。ドラゴンくらい倒せてもおかしくないよな」

「もしかして、仕事を取ったらまずかったですか?」

「いや、俺の仕事ならどんどん取ってくれ……。俺はのんびり過ごしたいんだから」


 それだけいうとライズは去っていった。


 ◇


 学園にたどり着くと寮の前で僕達は別れた。


 一応性別ごとに寮が分かれており、また、一生徒に一部屋与えられている。


 もちろん僕にも一部屋与えられているのだけど、部屋の中には机と椅子、ベッドくらいしか置かれていなかった。


 ただこの部屋は寝るだけなのでそれ以上必要に感じなかった。むしろ、宿で寝泊まりするより広くて、ベッドも高級なものだったので寝心地がいいくらいだった。

 そこに使わない荷物を置くと軽く準備運動をしてからダンジョンの入り口がある地下へと向かっていく。


 流石に夜だと誰もダンジョンへ入ろうとしている人はいないよね。……っ!?


 僕は慌てて姿を消す魔法を使用する。

 するとやってきたのはアデルだった。


 ただ、その様子はいつものひょうひょうとしてる感じではなく、真剣そのものであった。

 何かあったのだろうかと僕は姿を消したまま彼を追いかける。


 するとアデルはそのままダンジョンへ入っていく。

 一人で大丈夫なのだろうかと心配になりながら僕もその後を追いかける。


 ◇


「はぁ……、はぁ……、このくらいの相手、リーノなら余裕で倒せるんだ……」


 アデルはウルフを相手にしていた。

 その様子は今までに見たことがないほど真剣で、手を出すことなんてできなかった。

 でも、アデルの方が劣勢でウルフの素早い動きの前ではアデルの攻撃は全く当たらなかった。


「くっ、昼はもっと楽に当てられたのにな。やはり俺一人だとこの程度なのか……」


 腰に携えた剣を抜くとそれでウルフに斬りかかっていく。

 ただ、実戦の経験が少ないようでその単調な動きはあっさりウルフに避けられていた。


 このままだとアデルが倒されてしまう……。


 今度こそ手を貸そうとするが、苦悶の表情を浮かべながらもアデルは微笑んでいたのを見て、考えを改める。


「このままじゃ攻撃が当たらない……。魔法は詠唱中に避けられる。こんな状況で彼なら……」


 ぶつぶつと呟きながら目を閉じているアデル。


 できるだけ手を貸さずに協力する……。動きの速い相手なら詠唱なんてしないで無詠唱で魔法を使ってしまえば良いんだけどね。

 詠唱はあくまでも魔法を使うサポートをしてくれるだけで、うまく魔力のコントロールができるならできるはずなんだけど……。


 それをどうやって伝えようかと考えているとちょうど良いタイミングでアデルが目を閉じていた。

 今なら――。

 念話の魔法を使い、アデルにそのことを伝える。


(詠唱をなしで魔法を使えば良いんだよ……)


 突然脳裏に響く声に驚いたアデルは目を開けて周囲を見渡していた。

 しかし、周りに誰もいないことに気づくと不思議そうにしていた。


 ただ、僕の言葉で何かひらめいたようでその目は決意がこもっていた。

 大きく深呼吸をするとアデルは魔法を使う。


「くらえっ、火の玉ファイアボール


 呪文名だけ唱えたアデル。すると彼の手から火の玉が飛び出していた。

 詠唱を短縮した魔法が出てくれたことにアデルは微笑みを浮かべていた。


「くくくっ、そうか、こうすれば詠唱の短縮ができたんだな……」


 何かをつかんだようで口元を吊り上げながらウルフの方を見ていた。

 そして、一度に大量の火の玉を出して、ウルフの逃げ場を塞いでいく。最後にアデルの前に飛び出したウルフに対して、剣を切りつけるとウルフはその場で倒れていた。


「よし、勝った……あれ……?」


 ウルフに勝ったのはいいもののアデル自身もその場に倒れてしまう。

 気を失ったアデルを見て僕は慌てて彼に駆け寄った。特に外傷があるわけでもなく、ただ魔法を使いすぎただけのようだ。

 使い慣れてない詠唱破棄を連発していたわけだからいつも以上に魔力を使ったのだろうな。


 僕は苦笑をしながら彼に回復魔法を使っておく。


 すると先程までの戦闘音に引きつけられたのかウルフたちが多数現れる。

 流石にここにアデルを置いたままにしておくわけにはいかないよね。あとは――。


 現れたウルフたちは邪魔なので軽く手を振る。するとそのウルフたち目掛けて指先サイズの火の玉が飛んでいく。

 ただ、その速度はかなり速く、ウルフたちが気づく前に彼らを撃ち抜いていた。


 そして、僕は一旦アデルを担いで地上へと戻っていった。

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