7話 ドラゴンの肉って美味しいんだよね……。
◇◇◇◇◇
(冒険者)
「俺たちはAランク冒険者なんだぞ……。それがここまで苦戦するなんて……」
緑の硬い鱗に覆われたドラゴンと対峙しながら四人組の冒険者は苦悶の表情を浮かべていた。
周りにはすでに何人もの冒険者たちが倒れている。
それもそのはずで、ドラゴン一体で町を滅ぼせるとまで言われるほどの能力を持っているのだ。
そんな相手が現れたものだから何人もの冒険者パーティに声をかけられた。もちろん、何人も倒されることを想定して……だろう。
結果は想像通りで、自分たち以外のパーティはすでに倒れてしまった。
しかし、ドラゴンの方もすでに虫の息だった。
「よし、これでトドメだ!」
冒険者が剣をドラゴンの首に突き立てる。
すると、ドラゴンが命からがら最期の咆哮を上げてくる。
そして、そのまま地に伏していた。
「はぁ……、はぁ……、これでもう……」
息も絶え絶えにドラゴンを見ていた冒険者。
ただ、その時に遠くから先ほど聞いたものと似たような咆哮が聞こえた。
その声の方向へと振り向くとそこには五体ものドラゴンが向かってきていた。
「そんな……。一体でも冒険者総出でかかったんだぞ……。それが五体も……」
冒険者は顔が青ざめ、途端に町へ向けて駆け出していた。
どう考えても勝ち目はない。
もうあの町は放棄しないと全滅しかねない……。
「と、とりあえず早く知らせないと……」
後ろを振り向かないようにしながら冒険者は必死に駆けていった。
◇◇◇◇◇
ダンジョンから戻ってくるとこれで授業は終わりと言われてしまった。
どうやら想像以上に早く五階層までたどり着いてしまったらしい。
「リーノくん、この後どうする?」
シーナが聞いてくる。
「昨日みたいに部屋に戻って過ごそうと思うけど……」
「それなら一緒に町の方へ行ってみない? マシェも誘おうと思ってるけど」
確かに初日にシーナに案内されたきりでろくにこの町については知らなかった。
流石に今ダンジョンに入るのは目立つだろうし、もう一度入るのは夜の方がいいよね。
それなら時間があるわけだし、街へ出るのはいいかもしれない。
「それなら一緒に行こうか」
僕が頷くとシーナが嬉しそうに笑みを浮かべていた。
そして、マシェの姿を見つけると駆け寄っていった。
「マシェ、一緒に町の方へ行かない?」
「……んっ、私は魔法の――」
「リーノくんも行くよ」
「……行く」
何か言おうとしていたマシェだが、僕が行くと分かるとすぐに頷いていた。
やっぱりみんなで行くのはいいよね。となると僕もアデルを誘った方がいいかな。
どこにアデルがいるかを探してみる。
すると別のクラスメート達に対して色目を使っているようだった。
「この俺と一緒に町でデートをしないか?」
髪をかきあげ、ウインクをしていた。
しかし、クラスメート達は冷めた目でアデルを見ていた。
そして、彼のことを見ないふりしてそのまま去っていった。
アデルの周りに誰もいなくなったタイミングで、彼に声をかける。
「アデル……、今大丈夫?」
「おや、リーノ君じゃないか。はははっ、みんな恥ずかしがって逃げていってしまったよ」
いや、恥ずかしがってたわけじゃないと思うけど……。
ただ、アデルがあまりにも堂々と言ってのけるのでそれ以上何か言えなかった。
「それより、これからシーナ達と町へ行くんだけど、アデルはどうする?」
「いや、俺は別の子との約束を作るから一緒にはいけないよ。それに馬の脚に蹴られたくないからね」
満面の笑みを見せると軽く髪をかきあげてからアデルは去っていった。
馬の脚? 馬なんて乗らないんだけどな。
僕は苦笑しながらシーナに近づいていった。
◇
早速僕たちは町の方へと出向いてきた。
「さて、どこに行きたい?」
シーナが振り向きざまに聞いてくる。
「僕はあまり詳しくないからなぁ。マシェはどこか行きたいところある?」
「……冒険者ギルド」
まさかそこの名前が挙がるとは思わず、一瞬焦ってしまった。ただ、それを表情に出さないように注意する。
でも、ギルドに行くとなると僕がSランク冒険者であるということは隠さないといけない。
流石にそれがバレてしまったら今の生活が壊れてしまう。なんとかごまかさないと……。
でも、いかないと言うのも変な話だよね。
「うん、わかったよ。それじゃあシーナ、案内を頼んでいいかな?」
「任せて!」
嬉しそうに前を歩くシーナ。
その後ろについていくとマシェが不安そうに聞いてくる。
「リーノは良かったの? なんだか険しい顔してたけど」
どうやらマシェに見られていたようだ。
僕は安心させるように微笑みかける。
「大丈夫だよ。それよりも行こうか」
◇
町の冒険者ギルドへとたどり着く。
相変わらず中は酒場のような雰囲気なのだが、少しだけ中に違和感を感じた。
中にいるはずの冒険者の姿はなく、受付のお姉さんが慌てふためいているように見えた。
「何かありましたか?」
まっすぐお姉さんのところに行くと尋ねてみる。
「ど、ドラゴンが襲ってくるのですよ。そ、それで冒険者の人たちが総出で出ていったのですが、既にほとんど全滅で……。唯一生き残った人が教えてくれたんですよ……」
ドラゴンかぁ……。ドラゴンのお肉って美味しいんだよね……。
一人違うことを考えているとシーナが腕を引っ張ってくる。
「り、リーノ君、早く逃げないと!」
「えっ、でも、ただのドラゴンだよね?」
黒龍王みたいな名前がついてるドラゴンを相手にするとSランクだとバレてしまうだろうけど、ただのドラゴンなら別に問題なさそうだ。
「もちろんドラゴンだよ!?」
シーナが慌てながら答えてくる。
なんだか意見が食い違ってる気がする。
「今、町から避難の誘導をしてますからすぐに行ってください!もうドラゴンが襲ってきますので」
「でも、そんなこと学園では言われなかったよね?」
マシェが疑問を告げてくる。
「まぁ、学園は魔法の結界で覆われていて、外敵からの攻撃は防げるからね」
さも当然のように答えると、マシェとシーナがぽっかり口を開けていた。
「どうしてそんなことを知ってるの?私たち全く知らなかったよ?」
「えっ!?」
普通に見たらわかるよね?
でも、学園内は安全だから何も言ってこなかったんだな。
「と、とにかく早く逃げてください!」
お姉さんに注意されてしまう。
一応魔力を探知してみると確かに他の人よりは大きい魔力の反応がこの町へと向かってきている。
ただ、少し大きい程度で以前倒した黒龍王には遠く及ばない。
これならさっと行って倒してきてもいいかも……。
多分ドラゴンの中でも弱い種類だろうし……、それにドラゴンのお肉が食べたくなってきた。
「シーナたちは早く学園の方に逃げておいて。僕は少し行ってくるよ」
「り、リーノ君!?だ、大丈夫なの!?」
不安げな声を上げるシーナ。
「うん、ただのドラゴンならそこまで強くないからね。お土産期待してて」
それだけシーナに言うとドラゴンたちが向かってくる方へと急いでかけていく。
◇
ちょうど外門のところでドラゴンと遭遇した。
数は五体もいるようで、それぞれが思い思いに門を壊したり、人を襲ったりしていた。
とりあえず、町に被害が出ないように威力を調整して……。
パチッ。
軽く指を鳴らすと五体のドラゴンが炎に覆われる。
ドラゴンたちは必死になってそれを払おうとしているようだったが、消すことができずにそのまま力尽きて、地面に落ちてきた。
「五体……。こんなに食べられないよ……」
僕のこの言葉を聞いて、ドラゴンに襲われそうになっていた人たちがポカンと口を開けていた。
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