6話 地下五階が限界ってことはそこまで行かないといけないってことだよね?
「はははっ、どうだ、俺の魔法は」
自信たっぷりに笑い声を上げていたアデル。
それを悔しそうにシーナが眺めていた。
「つ、次は私が倒すんだからね!」
そんな二人をよそにマシェがジト目で僕のことを見てくる。
「ど、どうかしたの?」
「リーノ、今魔法使ったよね?」
二人に聞こえないように声を抑えてくれていたが、詠唱短縮までできるマシェはごまかせなかったようだ。
するとマシェがさらにグッと寄ってくる。
「今の魔法、教えて!」
すでに目と鼻の先まで近づいているマシェ。
よほど先ほどの魔法が使いたいようだ。それほど難しい魔法でもないし、彼女ならすぐに使えそうだね。
「うん、そのくらいなら……」
氷の拘束魔法……。部分的に凍らせる必要があってその精密な魔力操作は難しい。
でも、難しいと言っても上級魔法を使うくらいだし、このくらいなら問題ないよね。
さすがにこんな同級生のいる前で最上級魔法とか使うと怪しまれてしまうことくらい僕でも分かるし。
だから、このくらいなら別に普通かなとマシェにその使い方を教えてあげる。
「まぁ、この魔法はそこまで難しくないよ」
僕が軽く指を鳴らして、さっきの魔法と同じものを使う。
地面から小さな氷がいくつか出てくるとマシェが目を輝かせていた。
「……どうやるの? 呪文とかは?」
「呪文か……。僕使ったことないんだよね。普通に魔力でほとんどのことができるよ」
もう一度指を鳴らすと出ていた氷は溶けてなくなった。
「……こんな感じ?
マシェが呪文を唱えると先ほど僕が氷を出したところに箱状の氷が現れる。
「それじゃあ少し大きいね。もっと小さく、でも細かくね……」
拘束するには相手の体に合わせてその形を変えないといけないわけだから、同じ形で出せばいいわけじゃない。それに全身を凍らせれば良いわけでもないので、その大きさは小さい方が良い。
それを伝えるとマシェは眉をひそめた。
「……難しい」
それから何度か試していたようだが、結局うまくはいかなかった。
「リーノ君、何してるの?」
マシェと二人で魔法の練習をしていることを不思議に思ったのか、シーナが聞いてくる。
「魔法の――」
練習をしてると言おうとするとマシェが僕の口を塞いでくる。
「……ダメ」
どうしたか、シーナにこのことを教えたくないようだった。
僕が頷くとマシェはようやく手を離してくれる。
するとそんな僕たちを見てシーナが頬を膨らませていた。
「むー、二人で何をしていたの? 怪しいな……」
目の前に近づいてくるシーナ。しかし、僕とシーナの間にマシェが割り入る。
「それより早く先に行かないか?」
アデルが呆れた顔をしながら言ってくる。
「そ、そうだよ。まだここは地下一階なんだから。地下五階まで行かないといけないんだから急ごうか」
アデルに乗るように僕は彼のそばに寄っていく。
「えっ、地下五階が限界って言ってたんだけど……」
「……うんっ」
そんな僕の言葉を聞いて、シーナとマシェが驚いていた。
「地下五階が限界ってことはそこまで行かないといけないってことだよね? ちょうどそこに強い魔物がいるみたいだし」
むしろ地下五階にはその魔物しかいないようだ。まぁ強いといってもこの辺の魔物よりは……ってくらいだし、苦戦することはなさそうだ。
キリがいいからそこまでって言ったのかな?
まぁあまり時間をかけるのは良くないだろう。
とりあえず地下二階に下りる階段へと向かっていく。
そんな僕を追いかけるようにシーナたちが後に続いてくる。
◇
「本当に地下五階までついちゃったね……」
「……全てリーノのおかげ」
出来るだけシーナたちに魔物と戦ってもらうようにしてたのだけど、なぜかマシェは僕のサポートに気づいていた。
そして、シーナはこの階層までたどり着けたことを驚いていた。
「でも、流石にここまでだよな。この先から感じる気配……、俺たちじゃ勝てない。い、いや、俺だったら楽勝なんだけど、無理したくないもんな」
アデルは腰が引けながら言っていた。
「……うん、強い魔物だね」
「そうかな?」
そこまで強い魔物には見えないものの、何か僕の知らない力があるのかな。
とりあえず、まだ姿は見えないが軽く魔法を使ってみる。
あっ、倒しちゃった……。
まぁ簡単に倒せるくらいに抑えておいたんだろうな。初めてのダンジョンだから……。
「あれっ、気配が消えたよ?」
「……本当だ」
シーナたちは驚いた様子を見せていた。
とりあえずその魔物がいた場所へと行ってみる。するとそこには巨大なオークが倒れていた。
「Cランクの魔物だよね?」
怯えた様子を見せていたシーナ。そんな中、マシェがオークに近づいていく。
「……もう倒されてる」
「えっと……、あはは……」
マシェたちの様子を僕はただ乾いた笑みをしながら眺めてることしかできなかった。
すると、シーナが聞いてくる。
「もしかして、これってリーノ君がしたの?」
もう誤魔化しきれないだろうと頷いた。
「うん、それほど強い魔物でもなかったからね」
「強くないって、相手はCランクだよ!? でも、そっか……、リーノ君なら……うん、そうだね」
驚いていた様子のシーナだったが、なぜか僕の顔を見た後に納得していた。
「それでこの先はどうする?」
六階層以下も別に強そうな魔物はいなさそうだけど、ここより降りるなと言われてるんだから目立たないためにもここは抑えとくべきだよね。
「流石にこれ以上は行けないよ……」
シーナが不安そうに見せていた。
「そうだよね。それじゃあ学園に戻ろう」
◇◇◇◇◇
(ライズ)
ふふふっ、五階層までと言ったが、初めての魔物が相手なら一階層すら行けないだろうな。
ライズは口元を釣り上げながら笑っていた。
「何やら楽しそうですね」
「あっ、学園長。ちょうど、今新入生が初めてダンジョンに入ったところですよ」
年配の男性が部屋に入ってくるとライズはかしこまる。
「なるほど、そんな時期でしたね」
学園長と言われた年配の男性はダンジョンの入り口をじっと眺めていた。
「えぇ、能力はあっても実践はろくにしたことがない生徒ばかりですからね。ここで魔物の相手を慣れてもらわないと」
そういうとライズはニヤリと微笑んだ。
「確かに例年ならそうかもしれませんね。ただ、今年は違うかもしれませんよ。初日からダンジョンを走破してもおかしくない生徒がおりますから……」
学園長も楽しそうに微笑むと詳細も告げずにそのまま部屋を出て行った。
まさか、このダンジョンを走破するなんてありえないだろ。深くなればなるほど強くなるこのダンジョン。しばらくするとドラゴンクラスの魔物しか出てこなくなるんだぞ。自分ですらどこまでいけるか……。
学園長がそこまでいうならその可能性がある生徒がいるのだろう。
ライズの脳裏にリーノの姿が浮かんだ。
でも、そんなことあるはずないと首を振ってその考えを振り払った。
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