5話 リーノ君は見てて! 魔物は私たちで倒してみせるから!

「えっと……、ウルフって動きが素早くて魔法がなかなか当たらないから普通は魔法使いの天敵なんだけどね……」


 シーナも苦笑を浮かべていた。

 そうか……、他のみんなは詠唱をわざわざ唱えているんだもんね。その間にウルフの姿を見失ったら倒すのが大変になるのかも。


「別に詠唱をしないで魔法を使ったら簡単に倒せる相手だよ。それに遠くにいる間ならあまり警戒してないから」


 そういうと再び同じように氷魔法でウルフを倒す。

 まだ、シーナ達がウルフがいることに気づいていないタイミングで倒してしまう。

 もちろんウルフの方も気づいていないのであっさりと倒すことができた。


「こんな風に簡単に倒せるよ」


 僕としては実践して見せたつもりだけど、シーナ達は再び口をぽかんと開けていた。


 ◇


「だから、あんな簡単に倒せるのがおかしいんだよ!」


 先に進んでいるとシーナが強めに言ってくる。


「そう言われても……、きっとみんなできるよ。次見つけたらやってみる?」

「リーノ君じゃないんだからそんなに簡単に――」

「……なら私がする」


 話をするシーナを差し置いてマシェが小さく手を上げていた。


「えっ、で、でも私たちにリーノ君みたいなことなんて……」

「……でも、いざって時はなんとかしてくれる。だから思い切ってしたらいいの」


 それを聞いたシーナはハッと何かに気づいた様子を見せてきた。


「それもそうだね。リーノ君がいれば万が一もないよね」

「……そういうこと」


 僕なしで勝手に話を進めないで欲しいな……。


 まぁ実際に試してもらえたら簡単にできるだろうし、気が乗ってるうちはなにも言わないでおこう。

 ただ、いつもならここで前に出てくるアデルが妙に静かなのが気になった。


「アデル? どうかしたの」

「い、いや、き、気にするな……」


 乾いた笑みを浮かべてくるアデル。

 ただ、どこか無理をしてるように見えた。


「大丈夫?」

「ほ、本当に大丈夫だ……」


 アデルがここまで強くいうなら本当に問題ないのだろうと納得することにして、シーナたちの方へと近づいていく。


 ◇◇◇◇◇

(アデル)


 ダンジョン内に入った瞬間にアデルは周りの魔力反応からここに多数の魔物がいることを感じていた。

 しかも一体一体がかなり強い魔物たちで、どう考えてもこんな中で生き延びられる気がしなかった。


 ここに入る前の意気揚々とした気持ちはその瞬間に消えてしまい、恐れと恐怖で足がすくんでしまった。


 ただ、そんな自分の気持ちと裏腹にリーノは現れる魔物たちをいとも容易く倒してしまう。

 確かに彼ならば魔物にも普通に対抗できるかもしれないとは思ったが、ここまで圧倒的に倒してしまうとは予想外だった。


 やはり彼と同じパーティを選ぶ選択をした自分は間違いなかったようだ。


 その喜びから笑みが浮かぶが、相変わらず恐怖で足がすくんでしまう。

 するとそんな自分を心配したようでリーノが声をかけてくる。


 すでにやる気になっているマシェやシーナ。

 自分が彼女らに遅れを取るわけにはいかない。


 気合いを入れ直したアデルはリーノたちのそばに寄っていった。


 ◇◇◇◇◇


 少しアデルのことを心配していたのだが、どうやら本調子を取り戻してくれたようで、僕たちの前を歩き始めていた。


「はははっ、これから先の魔物は俺に任せておくといい。た、ただ、もし何かあったらリーノに任せるからな……」


 やっぱりまだ腰が引けている様子だった。

 そんな様子に苦笑していると先の方に魔物の気配を感じる。


 ただ、そのことに誰も気づいていないようだった。


 気づいていない時に魔物と出会うと危ないもんね。

 僕はこっそり風の魔法でその魔物を倒しておく。


「全然魔物が出てこないな」


 先頭を歩くアデルが呟く。


「うん、そうだね。リーノ君が倒した時はすぐに出てきたのにね」

「……だって、全てリーノが倒してる」

「えっ!?」


 どうやらマシェには気づかれていたようだ。

 なるべく気づかれないように風の魔法で倒してたのにな……。


「もう、リーノ君は見てて! 私たちで倒してみせるから!」


 勝手に倒していたことをシーナに怒られてしまう。

 たしかに訓練でこのダンジョンに入ってるのに僕だけが倒してたらダメだよね。


「うん、ごめんね」


 素直に謝るとシーナは満足そうに笑みを見せる。


「でも、何かあった時はリーノ君に任せるからね」


 ◇


 さらにダンジョン内を進んでいくと再び魔物の気配を感じる。

 でも今度は倒してしまわないようにただ眺めているだけにする。


 でも一切魔物に気づいていないその様子を見て、僕はソワソワとしてしまう。


 これは教えたほうがいいのかな?


 ただ、さっきなにもするなと言われたところだもんね。

 下手なことはしないほうがよさそうだ。


 でも気になるなぁ……。


「……リーノ、どうかしたの?」


 僕の様子を不思議に思ったマシェが尋ねてくる。


「えっと、その……」


 ダンジョンの奥に視線を向けながら、それでもなにも言わないように口をつぐむ。

 そんな僕を見てマシェも同じようにダンジョンの奥に視線を向ける。

 そこで驚いた様子を浮かべていた。


「……ま、魔物!?」


 その言葉を聞いたシーナは嬉しそうに詠唱を始めていた。


「天を穿つ雷よ、大空より来たりて、かのものを薙ぎ払わん。雷の槍サンダージャベリン


 詠唱を唱える間に気配があった魔物、ウルフも僕たちに気づく。

 そうなるともちろん当たるまで待っていてくれない。

 素早い動きで僕たち目掛けて駆け出してくる。


 それと同時にシーナの魔法が発動する。


 その瞬間に雷の槍がウルフ目掛けて飛んでいく。

 しかし、それをあっさりかわすとそのままウルフがシーナ目掛けて飛びかかってくる。


「きゃっ!?」


 小さく悲鳴をあげるシーナ。

 するとその瞬間にマシェが詠唱する。


岩の壁ロックウォール


 その瞬間にシーナの前に岩の壁が現れて、ウルフの攻撃を防いでいた。


「あ、ありがとう……」

「……油断しないで。相手はそう簡単には倒せないウルフだから」


 あ、あれっ?


 思ったより苦戦をしてる二人に僕は乾いた笑みを浮かべる。

 ウルフ……そんなに強くない相手なんだけどな……。


「俺がとどめを刺してやる。業火の炎よ、かのものを焼き尽くせ。火の玉ファイアボール


 アデルが火の魔法を使うと、そのままウルフ目掛けて火の玉が飛んでいく。

 それを再び避けようとするウルフ。


 さすがにこれ以上戦闘を長引かせるのもよくないよね。


 指を軽く鳴らすとウルフの足が凍り付く。

 ただ、アデルがそれに気づいた様子はなかった。


 これで動きは抑えたから倒すことができるだろう。


 それに一瞬気を取られたウルフはそのまま火の玉に飲み込まれていた。

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