4話 全て消し飛ばす力の前だと小さな弱点なんて効果ないの
シーナ、マシェ、アデルと共にパーティを組むことが決まって数日が過ぎた。
座学の方は小屋で勉強していたようなことだったので、僕は特段困るようなことはなかった。ただ……。
「うぅ……。何これ? 火が水で炎の氷?」
本を見ながらシーナが目を回していた。
「リーノくん、ここに書かれていることって分かる?」
シーナが本に書かれた部分を指差してくる。
そこに書かれていたのは、魔法の種類についてだった。
「えっと……、これって魔法の基礎だよね?」
魔法にはさまざまな種類の魔法がある。その属性もさまざまでその都度使う魔法を決める……。というおおよそ魔法を知ってる人にとっては知っていそうな情報だったが、シーナは笑って誤魔化そうとしていた。
どうやらシーナは知らないようだ。
それでいて普通に魔法が使えるのだから天才肌なのかもしれない。
しばらく教えていたのだが、結局机に突っ伏してしまった。
「うぅ……、全然わかんないよー。魔法は高威力をぶっ飛ばせばいいんじゃないのー?」
「……細かい調整は必要なの。あと、相性はすごく大事」
マシェが小声で呟く。彼女なりに同じパーティのシーナを思いやってくれたのだろう。
ただ、言葉で言ってもなかなか通じないだろう。
「それなら実戦で試すしかないよね……」
「そういうと思ってライズ先生から訓練所を使う許可をもらってきたよー」
アデルが髪をかきあげ、ウインクをしてくる。
「助かったよ、ありがとう。それじゃあ早速行ってみようか」
◇
訓練所にやってくるとシーナとマシェが向かい合っていた。
「えっと……、やっぱり僕が相手役をした方が……」
「だ、ダメだよ。リーノくんの相手なんてとても務まらないよ」
必死に首を横に振って断られたので、少し落ち込みながら審判を務めることにした。
「まぁ、リーノ相手なんて学園長しか務まらないだろうからね」
アデルが肩を叩きながら言ってくる。
「学園長?」
「あぁ、学園長だ。聞いたことないか? 伝説の大魔法使いとまで言われたマリン・ライゼンフォルト。どんな魔法でも使いこなすと言われてるこの学園一の魔法使いだ。もちろん、僕の目指す先も彼だよ」
へぇ……。そんなにすごい人がいるんだ……。
「もう、早く始めの合図をしてよ」
口を尖らせてシーナが言ってくる。
「あっ、ごめんね。それじゃあ始めて!」
僕のその合図とともにシーナが詠唱する。
「天を穿つ雷よ、大空より来たりて、かのものを薙ぎ払わん。
試験の時にシーナが使った中級の魔法だ。
ただ、それを目の前にしてもマシェは冷静だった。
「
マシェが魔法を使うと彼女の近くにいくつも岩の壁が現れる。
「そのくらい、私の魔法の前じゃ敵じゃないよ」
シーナが微笑みながらいう。
その宣言通りに岩の壁を軽く壊すシーナの魔法。
ただそれでもマシェは岩の壁を出し続ける。
そして、三つ壊したところで雷が消えていた。
「うそ……。初級の魔法に……」
「……これがさっきやってた魔法の相性。いくら強い魔法を使っても、相性次第だと簡単に破れるの」
「それなら相性さえ理解したらリーノ君にも勝てるの?」
「……それは別の話。全て消し飛ばす力の前だと小さな弱点の魔法なんて効果もないの」
「うん、そうだよね……」
「そんなことないよ。僕だってうまく相性を突かれたら負けるかもしれないよ……」
一応誤魔化すために言葉を挟んでおくが、全く信用してもらえなかった。
「でも、なんで勉強するかわかったよ」
「それならこれからは頑張れるね」
僕が微笑みかけるとシーナが首を横に振る。
「それとこれは別問題だよ……」
◇
そして、次の日。
僕たちは学園の地下にある扉の前にやってきていた。
「今日からはダンジョンに潜ってもらう。このダンジョンには魔物が生息しているので、決して無理をせずにダメなら引き返してくるんだぞ」
僕たちの前に立つとライズが言ってくる。
「ダンジョン?」
「そういえば、そのことから説明しないといけないんだな。と言っても詳しい原理はまだわかってないんだ。奥に行けば行くほど強い魔物が現れる場所……とだけ覚えておくといい。とはいえ新入生であるお前たちは地下五階くらいまでが限界だろうな」
こんな魔物が現れる場所が学園にあっていいのだろうかと思うが、入り口に強力な魔力壁を感じた。
おそらくこれで魔物が外に出ないように封じているのだろう。
そして、その奥から沢山の魔力の反応を感じる。
あまり強そうな魔物はいないもののその数は膨大で今尚増え続けている。
「うん、これは面倒かも……」
弱い魔物ばかりだけど、ばらけてるせいで一度に倒すことができない。
しかもダンジョン内は入り組んだ迷路のようになっている。
ただ、それとは別に加護のようなものもあるようだった。
なんだろう、これ?
意識をそれに集中させてその正体を探る。
どうやらそれはこのダンジョン自体にかけられた魔法のようだった。
命に危険が迫るとこの部屋に転移させるという伝説級の魔法……。
ただ、そのことをライズは教えようとしない。
緊張感がなくなるからだろうか?
それならば僕が下手に何か言うのは良くないよね。
視線をライズに戻すと彼の目が光ったように感じた。
やはり黙っていろと言うことかな。
「ではまずはリーノのパーティに入ってもらう」
まさかの一番初めに入るように指示される。
「ふっ、俺のかっこよさを見せつけてやろう」
アデルは相変わらずの様子だった。
その様子に苦笑しながらシーナとマシェに声をかける。
「それじゃあ行こうか」
「うん」
少し強張った顔で声を出すシーナとただ頷くマシェ。
◇
ダンジョンは薄暗くまるで洞窟のようだった。
その中を僕が先頭で、シーナ、マシェ、アデルの順番に進んでいた。
ダンジョン自体にはアデルが初めに入ったのだが、気がついたら一番後ろにいて、青白い顔をしていた。
「アデル、大丈夫? 無理なら休んでても……」
「お、俺がこ、こんな暗闇を怖がるはずが、な、ないだろう……」
なるほど、暗いところが苦手なんだ。
それならと僕は手のひらを上に向ける。そして、光の魔法を使う。
それは周囲一帯を明るくさせる。
「り、リーノ君。こんなところでそんな目立つことをしたら魔物に襲われるよ!?」
驚きのあまりシーナが声をかけてくる。
「大丈夫だよ、ここならまだ弱い魔物しかいないから……」
「でも……」
シーナはどうにも納得していない様子だった。
「それにこうしておいたら僕達から魔物を発見するのも早くなるよ。こんな風に……」
通路の先に魔物の気配を感じたので氷の魔法を使い、あっさりと倒してみせる。
「……Dランクのウルフが一撃――」
マシェが驚いた様子を見せていたけど、ウルフくらいならここにいるみんな倒せるよね?
ちょっと動きが速いだけの魔物なんだし……。
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