閑話 リーノの過去。気がついたらSランクになってた

 物心ついた時に僕は一人、小屋の中にいた。


 周りは草木生い茂る草原。

 なぜかそんな所にポツンと立っている小さな小屋だったが、食料は豊富に溜め込んであったし、暇をつぶすための書物もたくさん置かれていた。


 なぜこんな所にいるのかは分からない。誰かと一緒に暮らしていた気もするが今は僕一人だけだった。ただ、小さいときに教え込まれたのかこの小屋の外は危ないとだけは理解していた。


 そんな所にいたものだから僕は全ての書物を読みふけり、気がつくと独学で魔法を取得していた。

 それができるようになると実際に試したくなる。


 気がつくと僕は小屋から外の世界へと飛び出した。

 青々とした空。心地よい風。

 そして、目の前に群がってくる凶悪そうな魔物の数々。


 その魔物も弱い魔物ならなんとかなりそうだが、素人目で見ても勝ち目が無いような……一匹で数十人は軽く蹴散らしそうな魔物が複数体いた。


「えっ⁉︎」


 はじめての外出に心躍っていた僕は一瞬で顔を青ざめていた。


「や、やばいよね……」


 慌てて家へ入ろうとするが、そのまま魔物たちが突撃してきても困る。

 ここは追い払わないと……と覚えたての魔法を使う。


 使ったのは広範囲高威力の爆発魔法。

 僕の目の前で破裂音が鳴り響く。


 ドゴォォォォン!!


 はじめて使用する魔法は想像以上に高威力で驚いたが、それよりも今の間に家の中へ……。

 僕は慌てて小屋へと戻っていく。


 ただ、爆発の煙が晴れてくると後には何も残っていなかった。

 小屋の近くでそのことに気づいた僕は恐る恐る近づいてみる。


 爆発に驚いて逃げたのだろうか?


 流石にあれだけ強そうな魔物が消し飛んだなんて考えられないもんね。


 少し安心した僕はこれから魔物が近づいてきたらさっきの爆発魔法で驚かせていけばいいんだと理解した。


 ◇


 初めて歩き回る森の中。

 僕はウキウキしながらスキップ混じりで謳歌していた。


 すると、当然ながら魔物たちは近づいてくるが、得意の爆発魔法で驚かせて追い払う。


 ドカーン!

 ドゴォォン!

 ドガァァァン!


 森の中に何度も爆発音が響き渡る。


 それにしても爆発後の煙が晴れるまでの間に逃げていくなんて、逃げ足が速いんだな。


 すると、ガサゴソと草が揺れる音が聞こえる。


 また魔物かな……。


 再び僕は爆発魔法の準備をする。

 ただ、そこで現れたのは魔物ではなく、人間だった。

 少し古くなった剣や鎧を受けた人たち。そんな彼らが僕の姿を見て驚きの声を上げていた。


「ど、どうしてこんなところに子供が……。と、とにかくここは危ない。私たちについてくるんだ!」


 その人たちに連れられるように僕は街へと行くのだった。


 ◇


 その人達は冒険者らしく、そのまま彼らに連れられてギルドへとやってきた。

 ギルド内のテーブルに彼らと一緒に腰掛けると冒険者の一人が料理を持ってきてくれる。

 彼らはそれをつまみながら不思議そうに言っていた。


「あの爆発音は一体何だったんだろうな。俺は伝説級のSランクモンスターが現れたのだと思ったぞ」

「いやいや、そんな奴の調査なんて命がいくつあっても足りないぞ。いくらこの街の周りがBランクやAランククラスの魔物が生息する難所でもな」


 冒険者たちが笑いあっていた。


 えっと……、それって僕が使ってた魔法のこと……だよね?


 僕は乾いた笑みを浮かべながら小さく手をあげる。


「んっ、どうした、坊主。食わないのか?」


 冒険者の人から料理が差し出される。


「あ、ありがとうございます。……じゃなくて、その爆発……もしかしたら僕が使った魔法かもしれません」


 その言葉に一瞬呆けた冒険者たちだったが、すぐにまた笑い声をあげる。


「いやいや、お前のような子供がそんなすごい魔法を使えるはずないだろ」

「で、でも……、それを使うと魔物たちが逃げて行ってくれるんですよ。だから僕は何度も……」

「よし、それならこの地下で使ってみるといい。おいっ、エミリー。地下の訓練場を借りるぞ」

「はーい、わかりました」


 受付のお姉さんが返事をする。

 そして、冒険者ギルドの地下へと案内された。


 ◇


 地下だから少し薄暗いのかと思ったが、十分な明かりがつけられており、地上にいるのと遜色ないようだった。


「よし、かかってこい」


 僕の向かいに全身鎧にまとった冒険者が立つと盾を突き出して身構えてくる。


 本当にいいのかな……。でも、威嚇用の魔法だもんね。それに冒険者たちも笑ってる。

 よし、それなら大丈夫だろう。


 僕は大きく息を吸い込むと指をパチリと鳴らし、魔法を使う。その瞬間に鎧の冒険者が爆発に巻き込まれる。


 それを見た瞬間に冒険者たちの目の色が笑いから驚きへと変化する。

 向かいに立ち塞がっていた冒険者は盾を放り投げて爆発を逃れるように飛び避けていたが、それでも爆風に巻き込まれて地下の壁に激突していた。


「な、何があったのですか⁉︎」


 慌てて上から受付のお姉さんが降りてくる。


「えっと……」


 僕はこの状況をどう説明していいのかわからずにただ乾いた笑みを浮かべていた。

 すると、代わりに冒険者の一人が説明をしてくれる。


 どうやらこの魔法は僕が思っていた以上に威力があるようだった。


 立ち塞がった冒険者の盾は跡形もなく消し飛び、壁に打ち付けられた冒険者は回復魔法を受けていたが、ダメージが大きすぎてなかなかその傷は治らなかった。


「もしかして、お前は回復魔法も使えるのか?」


 冒険者が尋ねてくる。


「使ったことはないですけど……でも……」


 今見たことを真似すればいいんだよね?


 僕は鎧の人の前に立つと回復魔法をかける。

 その瞬間に周りの皆から再び驚愕の声が上がる。


「お、お……、な、治ってる……」


 動くことすらままならなかった鎧の人だが、その場で立ち上がり、嬉しそうに動き回る。そして、僕の手を掴んだ後に何度も上下に動かしてきた。


「ありがとう、ありがとう……」


 お礼を言われるようなことはしてないんだけど……。元はと言えば僕が悪かったんだもんね。


 そのお礼がむず痒く僕はただ鼻頭を掻いていた。


 ◇


 その後の後始末は冒険者たちがしてくれることになったので、地上の冒険者ギルドへと戻ってきた。ただ、先ほどの魔法は高威力すぎるから絶対に人に対して使うなと注意だけはされた。


 逃げたと思っていた魔物たちもどうやら粉々に吹き飛んで跡すら残らなかったのだろうと教えてもらった。


「なんだ、そこまで強い魔物じゃなかったんだね」


 微笑みながら告げると周りの冒険者たちから「はぁ……」と大きなため息を吐かれたのだった。


 それから熱心に誘われて冒険者になった。

 僕なんかがとてもできないと思ったのだが、受付のお姉さんに「簡単な依頼もありますから是非」と頼まれたので、それならと冒険者になることにした。

 それから頼まれるがまま弱い魔物を倒していたら気がついたらSランク冒険者と言われるようになっていた。

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