第72話 九龍団

「そのメンバーが、探偵事務所を襲い、阪神高速道路で亡くなったKawasakiのNinjaの女性ライダーの仇を取りに来たという事か」

何も言わずに頷いた。

「どういう繋がりがあるかだな。KawasakiのNinjaの女性ライダーと、九龍団との繋がりに関してはまだよくわからないことが多い」

板垣が不思議そうな顔をした。

「2度ほど襲われたんだ」

「襲われた?」

板垣は、そう復唱して現実感の無い言葉に一瞬ポカンとした。


「2度とも凌ぎ切った。さあ今からは7回裏のこちらから攻撃する番だ。ラッキーセブンと行きたいところだね」

安がそれを聞いて、「今の話から何かを感じる事があったのか?」と訊ねた。

「いや。現場は、足で稼ぐしかないんだよ。どれだけ歩き回れるか、這いずり回れるかで決まるんだ」


そう言うと、茶色の封筒と板垣の追加の伝票も持って立ち上がった。

「アイスコーヒー代、奢るよ」

そう言い残すと板垣は「うんうん」と、ストローを吸いながら頷いた。安が金のコーヒーを銅製のコップから直接飲み干す。すぐに立ち上がると後を追いかけた。精算を済ませて店を出る。安が後を小走りをするようにして店から出てくると訊ねた。

「次は何処へ行くんだい?」と訊ねた。

「カラオケ店の女店主が殺された現場に行く」

「何故?」

「ただの興味だ。周りで聞き込みをして何か拾えるかもしれん」


「今更か?」

「自分の目で確かめないと気が済まない主義でねえ」

「ならば、俺はあんたを信奉しているから、行くしか無いようだな」

安が車を停めた駐車場まで歩いて向かった。そして車に乗り込み、殺害現場になった西成区のカラオケバーに向かう。車内では、特に会話はしなかった。安が鼻歌混じりにハンドルを操作していた。


スマホが鳴り、電話に出ると松川からだった。

「西崎社長、今日も全ての予定をキャンセルし、自宅兼事務所で一日過ごしています」

「そうか。バイクで襲撃されてから外出が出来ていないか」

「僕たち、これでいいんですかね?」

「何がだ?」

「自宅兼事務所内にいる分には安全だし、ガッチリボディガードの仕事をする必要は無いのでね。まるで夏休みの課題が終わった子供が、な自宅でゴロゴロ過ごすみたいな感じですよ。本当にこんなので雇われていていいのかと思って」

「ああ、西崎社長からの依頼だからな。しかし、このまま自宅兼事務所から出られなくなると、会社の業績にも響いて来るな」

「ええ」

「いずれにしても良くない状態だけは間違いないな。また何かあれば知らせてくれ」

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