第71話 非合法

「そうなんですね。でも蛇喰さんとの仕事はなかなか大変でしょう?」

そう言って、何とも言えない嫌な顔をして笑った。

「これが必要だったんですよね」

そう言って、茶色のB4の封筒を渡した。封筒には、東大阪新聞の住所が印刷してあった。


中身を見る。3年前の西成区でカラオケバーを経営する中国人女性が殺された出来事の新聞記事と、板垣の取材メモが入っていた。新聞記事には事件の概要が書かれているだけだった。事件は怨恨とも、物盗りとも書いてなかった。しかし、取材メモにはその後の事が書いてあった。

「この事件の殺害方法は何だったんだ?」と訊ねた。

「確か、刺殺だったと思うんですが。取材メモに書いてなかったかな?」

取材メモを見る。

「刺殺となっているな」

安に、新聞記事のコピーを読み終え渡した。安がそれを受け取ると黙って目を通す。


取材メモには、「中国人経営者殺人事件の犯人像は、現場は何かを探していたのか、室内は荒らされ現金数万円が入っていたと思われる財布の中身は抜き取られていたが、中国人経営者の貴金属類がなくなっていない点からも見ても、物盗りの犯行ではないのではないか」と書いてあった。

また「物盗りといった単純な犯行の割には、手口が巧妙で確実に一突きで殺害しているところ見ると、怨恨とかではなくプロの犯行が考えられる」と締め括っていた。取材メモも安に渡した。財布をズボンの後ろポケットから抜き出す。

「剥き出しで悪いが情報料だ」

そう言って、2万円を財布の中から取り出すと渡した。板垣が、頭を下げるかのように恭しくお金を受け取った。

「蛇喰探偵事務所を襲った男と、中国人経営者を襲った犯人と一致させたDNA鑑定は、何処から手に入れ調べたんだろう?中国人経営者を一突きで仕留めているので、殺した犯人はプロとしか思えない。何処から中国人経営者の殺害事件ではDNAを採取出来たんだろう?」

安がそう言って首を傾げた。


「女性経営者が抵抗する際に、どうやら相手を手か、顔かはわからないが、激しく引っ掻いたようなんだ。経営者の爪と指の間に相手の皮膚が残っていたのを採取する事が出来たんだ」

「殺された経営者の執念か」

安が感心するように呟いた。

「そして、その男は中国人ギャンググループ九龍団のメンバーだった」

板垣がそう言ってシロップ入りのアイスコーヒーを飲んだ。

「九龍団?」

「ああ。日本にいる中国人同士の助け合いの中から、最初は産まれたようだ。金の貸し借り、保証人、人手。それがどんどんでかくなって非合法の事までやるようになったようだ」

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