第70話 呉越待舟
「このままじゃあ、蛇喰さん。あんた、モンスターペイシェントだぜ」
「そんな大袈裟過ぎる」
「あんた、先まで警察と呉越同舟と言っていたんじゃないのか?」
ニヤリと安に微笑んだ。
「まだ舟に乗ってない。呉越待舟だよ。つまり舟に乗るのを待っている状態だって事さ。舟を待つ間は、色々な考えがあるし自由にやる余地がある」
安がそれを聞いて呆れたような顔をした。
「蛇喰さんよ。あんたは、前から困った人だなと思っていたが、今ハッキリとわかったよ。あんたは、最悪だと」
「そう褒めるなよ。照れるじゃないか」
安が頭を押さえながら首を左右に振った。ズボンを着替え、安に言った。
「病室を出るぞ」
「支払いはどうする?」
「今、会計に行けば、ドクターに確認を取りますとか、色々面倒だろう?」
「だから?」
「ブッチする。どうせこちらの住所はわかっているんだ。後で請求書を送ってくるだろう」
「何処まで最悪なんだ。超が付くレベルだな」
足早にエレベーターに向かう。安が思わず呟いた。
「巻き込まれているよな、俺」
「安よ、川に流される枯れ葉に乗ったアリンコの気分だと言うのか?まさか。止めろよ。おまえはそんなタイプじゃない」
1階に降りるとそのまま病院を出た。病院の駐車場に安がフェアレディZを停めていたため、駐車券の割引を貰いに受付に安が行っている間に、1本電話をした。
「ああっ、頼む。そうしてくれ」
そう言って電話を切った。安が戻って来た。
「入院の費用を本当に払わないつもりなのか?」
「生憎今は持ち合わせもない。それよりも急がなくてはならない」
「何処に行くつもりだ?」
「四ツ橋に向かってくれ。そこでたった今、会う約束をした人物と待ち合わせをしている」
安のフェアレディZに乗り駐車場代を支払い、四ツ橋に向かう。交差点で信号待ちで、安がこちらの様子を伺った。
「どうした?」
「本当に大丈夫なのか?」
「多分」
そに答えると、四ツ橋にあるコメダ珈琲の駐車場に車を停めると店内に入った。向かった。奥の席に座ると、スマホにショートメッセージが入った。「今から向かう」という事だったので、奥の席で待っている事を伝える。金のアイスコーヒーを2つ注文する。スチール製の容器がよく冷えていて旨い。待ち合わせていた人物が、キョロキョロしながら店内奥までやって来た。
東大阪新聞記者板垣次郎だった。手を上げて案内する。板垣が、B4の茶色い封筒を脇に抱えながら、例の如く虚弱体質の青白い顔つきで現れた。席に着くと「何を飲んでいるんですか?」と訊ねて来た。
「金のアイスコーヒーだ」と言うと、顔をしかめた。
「砂糖入って無いじゃないですか?絶対に無理だわ」
そう答えると、普通のアイスコーヒーを注文した。
「板さん、安は初めてかな?」
「ええ」
「今、仕事を手伝ってもらっている」
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