第54話 チンピラゴボウ

「おまえのやって来た仕事がややこしいんだろうが。金貸しの取り立て屋、夜の水商売の人材派遣会社、バカラ賭博の用心棒。どれかまともな1物が1つでもあるのかい?」

白石がそう訊ねた。安が冷静な顔付きで答える。

「それは在日コリアンの働き口の無さが問題なんだ。またそれは日本社会の問題でもある。そして勿論、あんたら警察の偏見に満ちた行為も含まれるけどな」

そう言って、ギロリと睨みつけた。


「安は、あんたらみたいに組織に飼われていない分、サバイバル能力も高い。今回は被害者だ。日本刀とか、ゴルフクラブを持ったバイクの連中に襲撃されたんだ。普通なら怪我をしていただろう。安がいてくれて助かったよ」

白石の顔が思っ切り歪んだ。

「何故、襲撃されたんだ?」

「それを調べるのはあんたらの仕事だろう?」

その言葉に安が頷いた。それを見て犬神が言った。


「絶妙なコンビネーションだな?やさぐれた元デカと、チンピラのコンビか」

安がそれを聞いて笑うと、身体のバランスが崩れ、突然つんのめって「ああっ」と体がよろめいた。そして倒れないように踏ん張ろうとして、犬神の右足の甲を思い切り踏みつけた。

「ギャー!て、てめー、い、痛えなあ。な、な、何をしやがるんだ?!」


犬神が、足の甲を上げてピョンピョン飛び跳ねた。

「こ、公務執行妨害で逮捕するぞ!」

「あっ、申し訳ない。犬神さんが笑かすからいけないんですよ。久々に思い切り笑ってしまったら、バランスをくずしてしまって、つい転けそうになってしまった。思わず犬神さんの革靴の甲を踏んでしまい申し訳ない」

「う、嘘つけ!」

「犬神さんが、やさぐれ純情派元デカと、チンピラゴボウなんか言うから。爆笑しちゃったんじゃないの」

そう安が申し訳なさそうに言った。

「そ、そんな事、言ってないだろう?おい、テ、テメーわざとだろう?」

足を一旦地面に下ろしてみる。余りの痛さにすぐ足を上げた。

「まさか。や、辞めてくださいよ。そんな恐ろしい事を言うのは。安全靴を入っているものですから、痛い思いをさせて申し訳ない」

安が自分の胸の前で手を合わせそうになりながら、平身低頭で謝っていた。


「お、折れてないか?お、俺の足、お、折れてないか?」

白石に聞きながら、片足を上げて飛び回る姿は滑稽だった。少しマシになったのか、足を下ろすと引きずるようにグルグル歩き回って「クソッ、ふざけるなよ」とブツブツ言いながら歩いていた。


「わかった。キチンと話を聞かせてくれ」

白石が怒鳴るように言った。

「あんたたちがイチャモンをつけにきたんだろうが?違うか?」

先程の2組の警察官がベンツの西崎らから話しを聞き終えてこちらに戻って来た。

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