第37話 ニヒルか、アヒルか?

「それは残念だな」

「親父は、俺に雀荘や、風俗店、闇金にまあそれなりに資産は残してくれた。尊敬もしているところもある。またその反面、親父は女にはめちゃくちゃだらしなかった。倒れてからわかった事だが、外に腹違いの兄弟が2人もいた」

「親父さんは、確かに女にもモテただろうな。情が深かったからな」

「今じゃ、相続争いとか、面倒な話しになりついる」

「今がか?」

「ああ」

そう言って、タバコをくわえると、立ってニキビ面の男が腰を屈めライターで火を点けた。タバコの煙を肺の奥まで深く吸い込み吐き出した。

「五十幡に用があるんだ。あんたがや雇うより高値で雇えるかもしれない」

五十幡の体が前のめりになった。


「おいおい、さっきも言っただろう?俺がここのオーナーだ。そして五十幡は、俺の管理下に置かれている。まず俺に話せ。よそ者が、突然やって来て今までのルール掻き回すのは良くないだろうが!」

そう言って、崔がタバコの煙を顔に絡める。

「わからないなら、わからせるしかない」

崔がタバコを右手の指先に挟んだまま顎をしゃくると、

麻雀を打っていた連中が一斉にこちらに近付いで来た。

「麻雀で体が鈍ってきた時で、いいレクリエーションになりそうやな」

前歯の歯が抜けたところから空気を漏らしながら近付いて来た。


「レクリエーション?高齢者のデイサービスでやるような物を望んでいる訳ではないらしい」

こちらも、安に話しかけながら身構える。

「おいおいニヒルか、アヒルか知らんけど何か知らんけど、気取った奴やな、あんたは、それはユーモアのつもりか?それとも俺たちを馬鹿にしてるんか?」

霧山が眉間に皺を寄せて怒鳴るようにそう言った。そして、こちらの胸倉を掴もうとした瞬間、しゃがみ込んで右フックをボディに叩きつけた。「くの字」になって、後ろに飛んで行った。


「城島!何見てるんだ?!」

崔が怒鳴っていた。白髪混じりの城島の足に釘を打たれたかのように動かなくなった。足元がブルブル震えていた。霧山のこんな姿を見たら、誰だって怪我をしたいとは思わないだろう。

「渡瀬!やれ!」

その声に、歯抜け男は自爆を選んだらしい。突然やけくそになって「うわーっ」と言って飛びかかって来た。歯抜け男が跳ねた。安が見事な蹴り上げるような蹴りを見せた。鈍い音がした。歯抜け男の顎が折れ、貌が半分になった。下の歯が口の中で突き刺さり、口から血飛沫が飛び散る。

城島は、賢かった。一向に動こうとしない。無茶な勝負をしないだけマシだった。


「城島!五十幡!」

ヒステリックに崔が叫びまくっていた。五十幡がカウンターから出て来た。孫悟空に出て来た牛魔王みたいな体型をしていた。

「おいおい、五十幡。俺たちは、おまえの給料をあげようと言っているんだ」


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