第38話 100年早い
安がそう言っても、聞く耳を持たずに五十幡が向かって来た。
「どうしてもかかってくるのか?伊達に似合わず義理堅い奴だな。まずは実力を見させてもらうか」
安は、五十幡がかかってくるのを両腕でガードして身構えた。「ガツッ!」と、安の太い腕に殴りつける。2、3発と受けると、安が両手が痺れたのか、後ろに下がりながらガードを外し激しく両腕を振った。それを見た五十幡がチャンスとばかりに前に踏み込んで来た。
城島が、安の不利な状況を見ると、突然体が動き出したようだ。側面から飛びかかろうとしたため、安が左腕のラリアットで1本で粉砕する。一瞬体が宙に浮いたと思った瞬間、無重力状態が瞬時に解かれたかのように床に落ちた。
崔は、顔を引きつらせながら慌ててタバコを灰皿にもみ消し逃げようとした所を、後ろの襟首を持って引きづり下ろした。服で首元が詰まり、「グウェ」とカエルを踏み潰したような声を上げた。その拍子に麻雀台の脚に後頭部をぶつけた。
安は五十幡が繰り出すパンチを受けながら、距離を取りジリジリと後ろに下がった。ついに壁で行き止まりになった。その瞬間、五十幡がニヤリと笑った。
五十幡が安のガードの腕から殴りかかった時、体を左に半身に開いて体をかわしながら、右拳を五十幡の左の顔面に叩きつけた。「ガツッ」と、列車と列車が繋がるような音を立てた。次は左拳を五十幡のボディに叩きつける。メガトン級の衝撃だっただろう。闘牛が何本も剣が刺さり最後の断末魔の雄叫びを上げるかのように、一度体を真っ直ぐ起こすとそのまま床の上に落ちた。「ドシン!」と床の音が大きく響いた。突然死したように床に倒れた。安が両拳を痛みで振っていた。
崔が、喉が詰まったのか「ゲボゲボ」と古びた流し台のような音と共に咳を何度もしていた。そして首元をさすりながら「ううっ」と呻いた。
「五十幡は頭は悪いようだが、いるだけで何らかの役に立つだろう。あんたらよりマシな使い方が出来ると思う。崔さんよ。あんたも、コイツが無くてはならない必要な人間っていう訳じゃないんだろう?」
安がこちらの言葉に頷いた。そして、床に伸びている五十幡の顔を覗き込みながら言った。
「五十幡を貰っていくぞ」
安が、五十幡の頬をピシャピシャと叩きながら「起きろ!おい、起きろ!」と声をかける。五十幡が、モゴモゴ何かを言って目を覚ました。
「喜べよ。おまえを蛇喰探偵事務所で雇ってやるってさ。だが、選ぶのはおまえだ。俺らと一緒に来るか?ここで馬鹿扱いされながら覚えられない麻雀のルールに苦しみながら過ごすかのどちらかだ」
五十幡は、回りを見渡して驚いていた。さっきまで仲良く麻雀していたメンバーがみんな芋虫みたいに床で蠢いていたからだ。
「な、何故、俺なんだ?」
「こちらが聞きたいよ。麻雀のルールがわからない奴が、何故雀荘で働いているんだ?」
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