第33話 温故知新

「普通入れないでしょう?またプロティンをコーヒーの中にクリープを入れる物みたい言わないで欲しいですね」

安が、声を出して笑った。

相談室に置いてあるタンスの引き出しの中から、バイクを運転するために買っておいた黒のレザーの上下のライダースーツを引っ張り出し着替える。レザーグローブを引き出しから取り出し、そしてタンスの隅に置いていたライダーブーツに履き変えた。タンスの上に置いていたショーヘイのフルフェイスのヘルメットを手に取った。相談室を出ると、安と松川がコーヒーを飲みながらこちらをみて唸った。


「漫画のドーベルマン刑事みたいだな」

安がそう言って苦笑いをした。

「2度ほど、単車からつけられている。今回は、予防的措置で丸対(護衛対象者)をバイクで追いかけていく。しかし、もし彼らがバイクで仕掛けて来たら、後を追いかけなければならないだろう。バイクで襲撃された場合も考えての事だ。まさに備えあれば憂いなしということだ」


「昔の格言を言うようなタイプだとは思わなかったぜ」

安がそう言って、コーヒーを一気に飲み干した。

「温故知新だ。漢字を書けるか?」

「俺の辞書には無い言葉だな」

そう安が答えると、松川が笑った。

「今日、奴らが動いて来るかどうかはわからない。しかし、最善の準備はしたい」


「そのバイクの連中は、何者かわからないのか?」と松川が訊ねて来た。

「どうやら外国人のような感じがする」

安に松川に何も事情を話していないのかと言った風な目で見る。

「直接、蛇喰さんが話した方がいいと思ったから、松川君には詳しい事は話していないんだ」


「では、簡単に話そう。1ヶ月ほど前から突然、ハンナリマッタリーが経営する不動産屋、エステサロン、ショップなどのGoogleの評価に酷い書き込みがみられるようになった。それも強迫という形を取らずに、店の内容がチープだなどと難癖をつけて来るような内容の物だった。もしそこに店を潰すぞとか、火を放つぞとかいうことが書いてあるなら脅迫と取れなくはないが、そういった類いの言葉は上手く使わないようにしていると感じだ」


「この1ヶ月の事を考えると、徹底して抑制的に来ていると考えていいだろう」

安がそう言って腕を組んだ。春の小川ぐらいなら、その丸太ンボのような太い腕で堰き止めようかといったくらいの太さだった。

「危険はある。全く無いなんて事は言わない」

そう言って、松川の反応を待った。少し妙な間が開いた。

「道を歩いていて、ビルの上から物が落ちて来て頭に直撃することだっであるだろう。ならその危険を恐れて毎日家に引き籠るか?答えはNOだ。違うかい?」

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