第34話 スカウト

安が「納得しているんだな」と、もう1度念を押した。松川が何も言わず頷いた。

「よし、これで3名になったな。後1人、揃えば交代でボディガード出来るようになる」

そう言って2人に頷いた。

「あと1人か。五十幡眞三郎はどうだろう?」

松川が言った。

「同じ大阪出身の元K1ファイターだ。彼ならボディガードの仕事もこなせるだろう」

「ただアイツは、禁止薬物を使用してK1を3年間試合に出る事を禁じられた男で、今は実質引退状態じゃないか。ましてブルドック並みの脳味噌しか持っていないらしいじゃないか?」

安が思わずそう言って苦笑いをした。


「今ではすっかり生活に困っていて、大国町の雀荘の崔オーナーに世話になっているらしいが、とにかく麻雀の役が覚えられないので代打ちも出来ないっていう噂は聞いた事があるな」

「地獄耳だな」

呆れるようにそう言うと、安が顔を歪めてこう言った。

「仕事熱心って言ってくれよ。噂では、カンをしてドラをめくりにいって、ニコニコで上がろうとしたのは有名な話だからな。チートイツ(7対子)という役の名前ではなくなってパトイツ(8対子)になるからな。それでは上がれないというとドラをカンしたのにと言って、店の中で暴れ回ったらしいからな。全自動の雀卓を打ち壊したので、弁償させられたというのを聞いた」


松川は、安がよく知っていると感心した。

「そんな逸話までよく知っていますね」

「雀荘の崔オーナーとは、同じ在日仲間だからな。そこで五十幡の笑い話しを色々と聞かされているんだ。使えないから、麻雀の賭け金の取り立てなんかをやらせているという話しじゃないか」

「まあ、使い用だとは思うんだけどね」


松川が、そう言って肩を外人みたいにすぼめた。

「今日西崎社長のボディガードで大阪に行った時に、1度見てみるか。会議中なら会社にいるなら、ボディガードは1人で充分だろう?」

そう言うと、安と松川が頷いた。

「よし。出発しよう」

事務所の相談室の鍵を掛け、待合室の鍵は開けておく事にした。外に出ると、駐車場が砂利になっているが、鍵の掛かる車庫に行きシャッターを開け、SuzukiのGSXカタナのイグニッションキーを回した。バイクが咆哮した。


安がフェアレディZに乗り込む。松川も助手席に乗り込む際に「うわあ、Zだあ」と喜びの声を上げた。車庫のシャッターを降ろした。単車に跨ると、フルフェイスを被り顎紐を締める。レザーグローブをはめ、サイドスタンドを足で跳ね上げ道路に出た。朝の車の渋滞が少ない時間で走りやすかった。安は後ろから適切な距離を走りながら後を追いかけた。何事も無く朝8時前に嵐山の西崎の自宅兼事務所に着いた。

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