第27話 馬面

「何が言いたいの?」

西崎が両手を腰に当てて訊ねた。

「フルタヌキのことだよ」

「フルタヌキ?」

「クラブ。クラブを買収する件だよ」

「その話し、今必要なの?」

弘宗が、「いやいや、そうじゃない」とでもいう風に頭を左右に振りながら言った。

「いや、必要でしょう?いつまでこのままなのか?交渉を進められないままじゃないの?なあ、世良さん?」

世良は、銀縁のメガネを上に持ち上げながら頷いた。外国人が、「馬面」という日本語を勉強する際に、世良の顔写真を見せればみんなが、なるほどと唸りそうだった。


「今は明日について大切な話をしている時なのよ。また今度にして頂戴」

「これは会社にとって重要な案件について話している。俺の個人的な趣味で話しているんじゃない。いいか、俺はフルタヌキを買い取る。その交渉は来週からするんだよ」


「買い取ってどうするつもりなの?」

西崎が険しい顔付きで言った。

「本気で、あのクラブに25億で買い取る価値があると思っているの?」

「あるよ。このままでは、中国資本の不動産屋にどんどん京都の街が食い荒らされるのを黙って見ているだけしかないのかい?この会社の事業もこのままジリ貧になって、潰れるのを待つしかないじゃないか!」

「そうならないように努力しているじゃない!クラブを25億も出して、それを買って何になるのよ!」


西崎か喚くように言うと、弘宗が力強く断言した。

「京都の若者のアミューズメントを変える。そのためには、京都で1番人気のクラブを買い取るんだよ。何処が間違っているというんだ?」


嶋田は、下を向きながら親子喧嘩なのか、新しい事業展開なのかわからずに黙っていた。

ドアがノックされ、副社長の藤澤が入って来た。何やら社長失業者内でもめていると、外の秘書から連絡をもらったのだろうか。

「失礼します。どうされましたか?」

「クラブを買えというのよ。この子」

「この子って何だよ。俺は常務なんだよ」

今、大変な時期に何をやっているんですか?」

そう藤澤は言うと、2人の間に割って入った。

「辞めましょう。こんな事をしている場合ではないですよ」

藤澤の言葉に嶋田が頷いた。谷河口が心配な様子で2人を見ていた。

「こんな事って何だよ」

弘宗が、そう言って間に入って来た藤澤を突き飛ばすようにどけようとした。

「ボヌールフィギュエールの件は聞きましたか?」

こちらから弘宗に訊ねた。

「ああ。投石があったんだろう?」

「あれは、ただの投石ではなく襲撃だったかもしれない」

「今はクラブ買うのが適切なのかどうなのかより、原因も無くエステが襲撃されるだろうかという事を考える方が重要だろう?」

「警察には言ってあるんだろう?」

「勿論」

「犯人の検討はつかないのか?」

「わかっていたら、警察がサッサと捕まえるさ」

そう言って、ウインクをした。弘宗がニガ虫を噛み潰したような顔になった。




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