第26話 新たな危機

被っていたフルフェイスのヘルメットの色も全く一緒だった。全身に悪寒が走った。こちらの恐怖に満ちた顔を見て満足したのか、CRFがスピードを落とし離れて行った。


一体全体何を仕掛けて来ているのだ?何を目的にしている?奴らは「お前たちを監視している。忘れるなよ」とでも言いたいのか?それを無言の圧力で示そうとしているのを感じる。一体全体、相手の目的が何を意図しているのかわからない。

「どうしたの?」

「いや、何でもない」

運転席側の後ろにいる西崎が、前の屈みになってこちらを見て心配そうに訊ねた。西崎に余計な心配をかけないように今はバイクの事は黙る事にした。


その後、嵐山の自宅兼事務所に戻る間に、バイクが後をつけている様子は見られなかった。ベンツから降り、建物の中に入った。社長室に入ると、明日の予定について嶋田と谷河口と共に話し合う事になった。

「大阪に行くコースは、どこを通るつもりだ?」

「京阪道路を通って、阪神高速に入っていくつもりですが、大山崎インターから名神の方がいいですかね?」

谷河口が答えた。

「どちらかしかないだろうな」

そうこちらが呟くと、嶋田が訊ねた。

「明日は、171号線沿いの本社ビルには行かれないんですか?」

「藤澤に先程会って話しを訊いたら、どちらでも構わないと言われたわ。だから、本社には行かなくていいでしょう。それよりも明日の天下茶屋の件、よろしくお願いしますと言われたわ」


今度は西崎が訊ねる番だった。

「あなた方は、どう守ってくれるのかしら?」

「2台の単車で襲われているので、自動車と相手が単車とでは機動力的に不利だ」

ほぼ全員が頷いた。

「1人は単車に乗りサポートし、1人が西崎社長の横でガードする」

「単車のガードは誰がしてくれるの?」

自分自身を指差した。

「安にそっちに乗り込んでもらうようにする」

「わかったわ」

西崎が頷いた。

「何時出発になる?」

「時間的余裕を見て、朝6時半には出発したいの。渋滞も避けたいわ」

「朝、早くから大変だな」

そう言うと、西崎がニヤリと笑って答えた。

「大丈夫よ。他にも会いたい人がいるのよ」

その時、社長室の机すぐ側のドアから、何か止めるような声が聞こえて来た。

「大丈夫だよ。大丈夫」

そう言いながら、ドアが突然開いた。弘宗が入って来た。


「か、母さん。いや、社長だ。この間、話していた件どうなった?」

「じ、常務」

嶋田が思わず呟いた。弘宗が、「先生、どうぞ」と呼び掛けると、1人の紺色のスーツ姿の銀縁メガネを掛けた男性が社長室に入って来た。

「みんなにも紹介しておく。税理士で、ビジネスコンサルタントでもある世良昭宮さんだ」

「ヒロ君、あなたが個人的に雇ったの?」

西崎が、眉間に皺を寄せ訊ねる。弘宗が呆れたように両手を広げた。

「いいかい?監査役の税理士でもある下條さんは、あくまでも税に対する支払いをどうするのかっていうのに長けている。コンサルタントとしては不適任なんだよ。ビジネスにおいてはいかに責めが出来るか?違うかい?」



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