第24話 弱い目に祟り目

「安は今、SONETエレクトリックカンパニーの前にいるのだが、人の気配が全くしないとの事だった」

「法人には、500名くらい従業員がいると聞いているわ。女性が結婚、出産育児で会社を離職しないように福利厚生を魅力にしたいという事で、私たちのグループ店舗と契約し、飲食、ジム、エステなど、3割引きで利用出来るようになっているのよ」

「500名?1つの会社にか?」

「滋賀の瀬田にも支社があって、それを合わせて500名だったかしら?」

「安に、瀬田の方にも確認してもらう必要があるな」

「しかし、本社は京都なのよ。不思議よね。それが全く人の気配が無いなんて」

「たまたま安が向かった時には誰も居なかったのかな?安には、もう少し張り込んでもらう事にした。SONETエレクトリックカンパニーの会社の業態を調べてみよう。何かおかしな感じがする」


嶋田のスマホが鳴った。自分たちがいる側から少し離れて電話に出る。

「えっ?どうして?そうね。何とかならないの?」

焦った口調で電話に語りかける。

「わかったわ。弱ったわね」

右腕に鞄のストラップを肘関節に引っ掛けながら、ばんじきゅうす片目を手の平で覆った。電話を切ると、西崎に近づいて残念そうにこう言った。

「社長、こちらに」

西崎が何事かといた風に少し離れた場所に移動し、嶋田が報告を行なった。嶋田よりも背が高い西崎が背中を曲げて話を聞いていた。

「えっ?!どういうこと?」

西崎の言葉が聞こえた後、ボソボソ声になった。嶋田と何かを話し終わった後、こちらに近づいて来た。


「今日みたいな事件の後に、それは聞きたくない話ね」

西崎は、ため息混じりにそう言った。こちらの心配な様子を察したように「うんうん」と頷い後、こちらに向いて「嵐山に帰るわ」と言った。

星倉に「後の事は任せるわ」と付け足し、ボヌールフィギュエールを出た。


運転席で待機していた谷河口が、慌てて車から出てきた。

「ご無事で何よりでした」

後部座席のドアを開けながら、安堵した顔を見せる。

「そうでもないわ。谷河口さん」


谷河口は、「さん」付けで呼ばれて、感動しているかのようだった。滑り込むようにしてベンツGLEの中に入った。先程と同じように嶋田が助手席に乗り込む。後ろ座席の反対側のドアの前に立つと、谷河口がこちらに来てドアを開けようとしたので、右手の平を広げて静止して自分でドアを開け乗り込んだ。谷河口がそれを見届け運転席に座った。後部座席に滑り込むと同時に西崎のため息が迎え入れた。


「どうしましたか?」

シートベルトをしてから訊ねた。

「明日急遽、大阪に行かなくてはならなくなったのよ。谷河口さんも聞いておいてね」

運転席側のシートベルトをしようとしていた谷河口の手が止まる。



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