第25話 アパッチ族
「9時頃、車で行くわ。谷河口さん、準備しておいてね。ではいいわ。車を出して」
そう言うと、こちらに振り向いた。谷河口が、ハンドルを握り締めながら左右を確認すると北山通りに出た。
「大阪の天下茶屋再開に関わっているんだけど、端田ビルのオーナーと私たちの会社、ハンナリマッタリーの共同ベンチャーでやって行く予定だった。ところが、最近間簡易宿泊所を買取り、ゲストハウスや、民泊事業に手を伸ばしている成型開発グループと大規模に事業規模を更に拡大し、周辺をも巻き込んでイメージを変えようとする方針になったようで、今更ながら私たちとは組めないと言って来たのよ。そんな土地が持つ因縁を切り離すようなやり方には反対するわ」
「天下茶屋なんて、大阪の下町の雰囲気が残ったところだからな」
「地域開発によってガラリと雰囲気を変えてやろうとしているみたいで、私はそんなフィロソフィーの無いやり方には反対してきたの」
「端田ビルって、肥後橋とか御堂筋にあるビルの不動産屋か?」
「そう。元々はアパッチという会社名だったらしいけど、10年ほど前に端田ビルという名前に改名したそうよ。大阪の淀川のマンション群を開発した際にね」
「大阪の人間にとっては、アパッチというの名前は印象強いな」
そう答えると、思わず苦笑いをした。
「端田ビルのオーナーの祖父の時代に、闇市でパッチ屋をやっていたとかで、それが会社名になっていたと聞いた事があるわ」
「まさか、パッチって、ズボン下の事?」
「ええ。一枚のパッチだから、ア パッチ」
それを聞いて、思わず苦笑いをした。
「何故、1枚の所だけが英語なんだ?また戦後、旧陸軍工廠の広大な敷地から鉄屑を盗んだ集団をアパッチ族とも呼ばれていた。そこからもとっていたのかもな」
「在日の流れも組み、大阪再開発を謳う政党とも関係が良好で官から民への流れを作ったともいえる会社よ。選挙民としても組織票集めに奔走し、3代続いた実力者の系譜があるわ」
「ハンナリマッタリーの共同開発に乗りながら、もっと資本が投下出来そうな企業が現れたので、そちらと組んで一気に何もかもを壊して変えてみようというんだな?」
「ええ。金が正義じゃないわ。私は海外の民泊事業を通して、管理運行して行こうとしていたけど、それでは旨味を感じないみたいで、私たちを排除する動きが出て来たのよ」
そう言って、西崎が胸の下で両腕を組んだ。胸の膨らみが強調される。車が夕方のラッシュに巻き込まれ何度も信号にひっかかった。
「明日、その端田ビルの社長に会うわけだ。それで何とかなるのか?」
「過去に大国町の不動産取引で一緒に動いた事があったけど、端田ビルで代替わりが起こったから、それがわかってくれるかについてはわからない」
軽く首を左右に振った。
「まさかね。こんなに不動産関係に外国資本が入って来て、私たちの仕事が脅されるなんて思わなかったわ。競争が激化している。ここ数年で様相がガラリと変わって来たのを感じるわ」
何かの気配を感じ外を見ると、赤い車体のHONDAのCRFが並走していた。先程、ボヌールフィギュエールの反対車線側にいたバイクだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます