予兆

第21話 事情聴取1

警察に電話をし、現場に駆けつけてもらった。鑑識の服を着た2人が写真撮影を様々な角度から行っていた。防犯カメラは、内部には設置していたが、外部には取り付けていなかった。

「被害金額はいくらくらいですか?」

警察官が質問する。西崎が一瞬考えてから答えた。 

「わからないわ。直輸入で当時のレートで数枚を特注したのでね」


それらを少し離れて見ていると、安が近付き訊ねて来た。

「何者だろう?」

「全くわからない。メールの脅しや、Googleの書き込みと関連しているかどうかも含めてわからないな」

「今までの苦情、文句の類から、直接的な行動に移って来たのかどうかもわからないということだな」

「そうだ」

「俺はここにいてても仕方がない。SONETエレクトリックカンパニーに行って来る」

「慎重に頼む」


安が頷き出て行った。50代くらいの警察官が、西崎の話を聴き終え、今度はこちらにやって来た。

「あのう、お名前を聴かせてもらえますか?」

「蛇喰探偵事務所の蛇喰誠治です」

そう答えると、名刺入れを取り出し一枚引き名刺を引き抜き渡した。書き込みをしているバインダーに名刺を挟み、それを見ながらバインダーのコピー用紙に警察官が住所、電話番号を書き留めた。


「私立探偵の方がどうしてここにいるのですか?」

既に西崎から話を聞いているはずなのに、確認するためなのか同じ話を何度も訊ねて来るのが警察というものなのか。

「西崎社長からの依頼で、最近、おかしなメールや、酷い中傷のGoogleでの口コミの書き込み事が続いているというので、何らかの危険を感じてボディガードとして雇われた」

「失礼ですが、私立探偵事務所を開く前は何を?」

「大阪府警で刑事をしていた」

警察官が「ほう」とため息とも感心したともつかない呟きをしてこちらを見た。


「何年ほど働いたのですか?」

「10年くらいかな」

「なるほどね。それで、あなたの過去の経験からも含めて今回の依頼はどう感じたのですか?」

「今の状況で、ボディガードが必要な情勢とまではいかないが、依頼人が安心出来るのならという事で引き受けさせてもらったんだ。メールの内容や書き込みの感じからでは、苦情の類だったし脅迫というほどでもなかった。まさか今回、このような投石が起こるとは想像もしていなかった」

警察官が、「うんうん」と頷きながらバインダーに挟んだ紙に何かを記入していた。

「メールを見せてもらってもいいですか?」

上目使いで訊ねる。

「西崎社長が持っているはずだ」

西崎が、星倉、笹岡、南棟と4者で話し合っている所に声を掛けた。

「警察が、苦情メールを見せて欲しいと言っているのだが‥‥」

西崎が、その言葉に頷くと星倉に指示をした。星倉が、笹岡と一緒に事務室に入って行った。


「投石される前に何か変わった事でも?」

警察が再び尋問する。

「嵐山の西崎社長の自宅兼事務所を出てから暫くして、YAMAHAのバイクでつけられている気がしていた」

「YAMAHAのバイク?」

「そう。反対車線側にいたYAMAHAとHONDAのバイクのうち1台に間違いない」

「YAMAHAの何というバイクですか?」

「XSRですね」

「バイクに詳しい?」

警察官が、帽子の庇から覗くように訊ねた。

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