第20話 ステンドグラス

隣のもう1台の単車はHONDAのCRFだった。モトクロスの要素も含まれた車体で機能性を重視した仕様になっていた。そのもう1人のライダーもフルフェイスのシールドが黒くて顔つきがよくわからない。安が戻って来たので、受付とエステシャンに礼を言って離れた。安がこちらに近づき、他に聞かれないように囁くように言った。


「何の目的なのかよくわからないが、向かいの道路に2台のバイクが停まってこちらを見ている」

「あのバイクのうち1台はYAMAHAのXSRで、途中から離れたが後をつけて来たのは間違いないようだ」

その言葉を聞いて、安が右の眉毛を上げてこちらを見た。

「外で待機をしている運転手の谷河口から訊ねらたよ。あんたからここに来る途中、急に細い通りに入れと言われて驚いたと。何が起こっているんですかってね?って」


「あのYAMAHAのXSRにつけられている気配がしたので、確かめるために大きな道路から横に逸れてもらったんだ。何て答えたんだ?」

「立小便でもしたくなって、適当な路地を探したんじゃないのか?って答えといたよ」

「そんな言葉では納得しないだろう?」

そう言って、安に首をしゃくって合図をした。安が窓越しに様子を伺う。

「その時のバイクなのか?」

「かもしれない」

「奴らが何者で、何のためにここにいるのかはわからないが、あんたの車に追いついて見張っているという事か?じゃあ、確かめてみるか?」

安の言葉に思わず驚いた。

「待てよ。確固たる証拠が無い」

「だから?」

その反応に驚いた。


「その石器人みたいな発想はよせ。まさか殴れば吐くと思っているだろうな?」

「そうじゃないのか?」

苦笑いするしかなかった。

その時だった。突然、2台のバイクが一気に反対車線を突き切りこちらに向かって来た。

店舗にぶつかる直前にハンドルを切ると、ステンドグラスが「バン、バン」と割れる音が響いた。思わず店内にいた全員が身を低く構えた。女性スタッフの悲鳴が聞こえた。


安と一緒に外へ駆け出す。2台のバイクは、既に道路を走り去る所だった。後ろタイヤな上にあるナンバープレートは、見えないように上に折り曲げられていた。外で待っていた谷河口が呆然とした表情で、バイクの後ろ姿を追っていた。

「だから、早く締め上げれば良かったんだ」

安がそう言って顔を歪めた。店内に戻ると、安否確認を行った。


「誰も怪我はしてないか?」

ロビーで、笹岡と南棟が2人抱き合いながら怯えてた表情で「コクリ」と頷いた。

西崎が、ロビーから出てくると、狂乱するかのように言った。

「誰よ!犯人は?あのステンドでどれだけ高いと思っているのよ!ドイツからの直輸入よ!」

床に落ちた割れたステンドグラスと一緒にテニスボールくらいの大きさの石が転がっていた。

「何のためにあなたたちを雇っていると思っているの?こういう事にならないために雇っているんじゃない?」

西崎の怒りの矛先が、こちらに向かって来た。刺すような目で安とこちらを見た。喉元にグイグイ突き刺さるようで、とても息が苦しく感じて来た。

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