第6話 西崎弘宗

その突然の依頼に困惑しながらも、受けるしかないだろう。月500万という大金を受け取れるのだ。それくらい彼女は何かの恐怖にかられ、怯えているのかもしれない。

「契約書や、重要事項説明書はどうしたらいいですか?」

「後で構わないわ」

勾玉型のテーブルの下に椅子に座ったまま身体を潜り込ませると、何かの扉を開けていた。そしてテーブルから顔を上げると、帯のついた現金を500万円をテーブルの上に置いた。


「前金よ。人を雇うのに金がいるでしょう?」

即金の魅力をよくわかっていた。さすが祇園で元ナンバー1だけはある。今の探偵事務所開設したが、経営的には非常に厳しい状況におかれていた。金の力は凄い。だが、全てでは無い。そこが重要だった。札束をジャケットの内ポケット200万と、右のポケットに200万を入れた。ズボンの尻ポケットに残りの100万を入れた。


インカムのボタンを押し、「嶋田、私のスケジュールを持って来てくれる?」というと、若い女性の声で「かしこまりました」と返答した。そして、蛇喰に向き直るとこう言った。

「今からここに、私の会社のネイリストが来るのよ。ネイルの施術のためにね。ネイルを綺麗にした後、出かけるわ。恐らく昼からで、美容サロン開業の打ち合わせに14時頃から出かけなければならないの。それまでに今後のボディガードのプランや契約書やその他諸々の手続きは出来るかしら?」

即断即決だった。男でもここまで大胆に決められないだろう。

「わかりました。出来るだけ要望には、お応えするつもりですよ」

「ではよろしくね」

そう言った途端、自分が入って来た後ろのドアが突然、開いた。思わず後ろを振り向くと、若い男女がもつれるようにして部屋に入って来た。そしてお互いの顔を見つめ合うとゲラゲラ笑っていた。酒に酔っているのか、キャプを緩く被ったメガネ姿の男は少し足元がふらついていた。


肩を抱かれた女の子は、掛け算の3の段がわからないような顔をしていた。顔の中心から集中力の無い顔をしていた。女の子もキャプを被り両サイドに垂らした髪の毛は、この部屋に合わせたかのようにピンク色をしてた。右下の唇の下側に銀色の玉のようなピアスを2つしていた。

「ヒロ君、お客様ですよ」

嗜めるように西崎が言った。


「ママ、ごめんなさい。ちょっと車のホィールを買いに行くのでお金が欲しくってさ」と答えた。

「息子の弘宗です」

これが1人息子の西崎弘宗のようだ。西崎美咲は、引き出しの中から封筒を取り出すと、席から立ち上がって弘宗に手渡しした。弘宗が抱える女の方をじっと見つめると、「この子は何処の子なの?」と訊ねた。

「フルタヌキで知り合った子だよ」

「フルタヌキって?まあ、お酒臭い。今まで飲んでたの?」

 そう言って、顔を背けた。










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