第5話 Google評価

『賃貸の相談に店舗に伺ったが、余りにも不親切な案内だったので2度と利用しません』

『味は不味いし、従業員の接客の態度も良くないし、なんだこれ?という店でした』

『エステ利用しましたが、サービスがどれも最低評価で、高い金を出して施術してもらいたいとは2度と思いません!』

全てにサッと目を通してから、彼女を見た。

「酷いでしょう?」

思わず頷いた。


「Googleの評価は消せないし、本当に困っているのよ。それらを削除しますという業者もいるけど、そんな業者に頼むのもねえ。ここ1ヶ月が特に酷いわ。何者かに集中攻撃を受けているみたいな感じだわ」

「思い当たる節は?」

ため息混じりに答えた。

「ある訳ないじゃない」

「原因も考えられず、Googleに口コミに酷評を投稿されるんですか?」


「確かに、全体の店の売り上げも先月に比べて10%ほど落ちて来ている。原因もわからずに、売り上げがら10%も下がるなんて死活問題よ」

顔を歪めてそう言った。


「私はシングルマザーで、1人息子の弘宗を抱えて馬車馬のように働いて来たわ。そしてここまでの会社にした。それなのに、この酷評は何?誰を信じたらいいの?何か、悪い予感がするのよ。良くないことが起こりそうで怖いのわ。蛇喰さん」

声のトーンが絶妙だった。震えるような声で言われると、思わず彼女のか細い肩に手を回し「心配するな。あなたを絶対に守ってやる」と抱き締めてしめて言いそうになった。


「仕事の依頼の内容は?」

感情に流されないように冷静に言った。彼女は、少しアテが外れたと言った顔になった。

「Googleの評価を誰が書き込んでいるのか身辺調査をして欲しいということと、私のボディガードとして同行する事」

彼女の言葉に頷いた。

「なるほど。その依頼には、3つの点でクリアしておきたいのですがいいですか?」

今度は西崎が頷いた。


「まず第一に、ネットの書き込み相手が見つからない可能性が高い。身辺調査はしますが、これもまた何も見つけ出す事が出来ない場合もある。そして最後のボディガードについてだが、あなたの勤務時間とプライベートの時間を合わせると、1日14、15時間になる場合もあるでしょう。1人でその時間帯をカバーするには無理がある。少なくとも他に3人は雇う必要があります。いいですか?」

「あなたの他に?」

西崎が、少し怯えたような表情になった。


「ええ。元大阪府警とはいかないが、こちらからとすると信頼の置ける人間が、あと3人は必要だ。これら先程の件と人員のことも含めて、全てを任せられないのならこの契約は残念ながらお受けする事は出来ない」


しかし、よくぞ言ったもんだ。ボロは着てても心は錦というより、これはハッタリだ。本当は、今すぐにでも仕事が欲しかった。喉から両手が出るほど欲しいくせによくこんな勿体ぶった事が我ながら言えたもんだ。背中から汗をかいてきた。

おかしな間が開いた。そして、彼女のねっとりとしたルージュを塗った唇が開いた。

「チーム蛇喰を編成するには、人数がいるという訳ね」

「ええ。1人でカバーするのは難しい。その点については異存はないでしょう?」

「それでいいわ」

「第二に、費用だ。必要経費込みの月350万でどうだろう?」


西崎が、少し間を開けた。

「いいわ。では、今からでいいかしら?」

「たった今から?ボディガードをですか?」

「ええ。その代わり月500万払うわ」

何という急な話だ。着替えのパンツも、電動歯ブラシも持って来ていない。





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