第4話 美魔女

京都弁の緩いイントネーションが、微妙な感じを与える。細い指を軽く握り握手した。厚化粧なのに、薄化粧に見せているのもテクニックの一つなんだろう。ヒアルロン酸や高価な施術をしてくれる美容整形や、エステにかかっているとこうなるのだろうか。


「西崎美咲です。遠い所からご苦労様」

そう言って、こちらを値踏みするように上目遣いで見てきた。抜群のスタイルをしている。まるで頭から蜂蜜を垂らしたような体とでも言えばいいのだろうか。クリーム色のジャケットの内ポケットから、名刺入れを取り出すと、西崎もそれを見てテーブルの下の引き出しからピンク色の名刺入れを取り出して互いに交換を行った。


名刺と、こちらをチラチラ見ながら西崎が言った。

「いい男じゃないの?」

テーブルの向かいの席を案内した。向かいの席に腰掛けた。

「コンコン」

西崎がいるすぐ後ろのドアがノックされた。若い女性が会釈をして入って来た。秘書だろうか?おうすを2つ漆塗りのような盆に載せ持ってやってくると、それぞれを目の前に置いた。

「どうぞ」

西崎がそう言うと、秘書が頭を下げて出て行った。

「大阪府警はどうしてお辞めになったの?」

作法通り、おうすを手前で回しながらいただく。

「組織には、向いていない男なんですよ」

絶妙な味加減だった。


「それだけ?」

目を細めながら訊ねた。

「逆に、どんな理由ならいいですか?風俗事業者から、警察からの手入れがある日時を、教えるかわりに賄賂を貰ったためクビになったとでもいえばいいですか?」

「ははは」

西崎が弾けるように笑った後、美しい顔を歪めて言った。

「本当、食えない男ね。副社長の藤澤からの推薦だったから仕事の依頼をお願いする事にしたけれど」

「藤澤?存じませんが」

「藤澤は、大阪府警の知り合いから推薦されたのがあなただったのよ」

外れだったと言いたいのだろうか?


勾玉型のテーブルの下にある引き出しを開けると、クリアシートに挟まった紙の束をこちらの目の前に放り投げた。

「これを見て」

クリアシートから用紙を引っ張り出すと、Googleの口コミ評価に書かれていた内容をプリントアウトした物だった。

「それらは、私の持つ店や、経営している会社に対してのGoogleの評価よ」

株式会社ハンナリマッタリーの所有する店、店舗の物だった。不動産グリーンハウス、居酒屋海鮮満載、美容サロンさくらはなふぶき、カフェミルク35とというのが、西崎の経営している会社や店舗のようだ。それに対する口コミ評価は、どれも異常なくらい評価が低くく酷いコメントばかりだった。

それも数ヶ月前の高評価から、突然ここ1ヶ月は連続しての低評価の書き込みばかりだった。まるでオーナーが替わって、経営方針や店舗の運営が一気にひっくり返ったかのような内容だった。










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