第2話 インターフォン

「うーん、ここらへんなんやけどなあ」

そう言って、やけに額の狭い運転手は、ハンドルにしがみつくようにしてごま塩頭の左右に振り、フロントガラスから外の風景を見ていた。

「何処やろうな」

アポの時間よりまだ少し早いとはいえ、道を探しているうちに「あっ」という間に時間が経ってしまうかもしれない。少し焦り始めていた。


自分自身でも、後ろの座席でスマホで検索してみる。自宅はこの辺りのようだ。

「降りて探すよ」

「この辺りなんやけどね。そうですか?助かります!」

まるで若い女の子から話しかけられたように嬉しそうな顔をして振り返った。タクシー料金を支払い、自動ドアが開いた。


タクシーを降りると、汗が吹き出て来た。長い白壁が続いていた。それを眺めながらタクシーを振り返ると、黒い車体に乗った運転手が何度も福島県の土産赤べこのように頭をヘコヘコ下げて走り去って行った。

「目的地周辺です」

スマホのグーグルマップがそう言って、音声案内が終了した。やはり、この白壁が、西崎美咲の自宅兼事務所のようだ。


しかし、想像を絶する家だった。家というより山だ。山の周りを白く長い塀が囲んでいた。白い塀を伝って行くと、そこにカバーの付いたグレーのインターフォンがあった。カバーを開け、インターフォンに付いているカメラに向かい、モデルコンテストのオーディションを受ける際の自己紹介のように最高の笑顔を作り話しかけた。


「大阪南港の蛇食探偵事務所の蛇食です。西崎美咲様のご依頼でこちらにやってきました」

「どうぞ」

そう女性の声で答えると、呆気なくその一言で電子ロックが外れた。白い塀に割れ目が入りドアが開いた。わざとこういうデザインにしているようだった。ドアか塀かわからないようにしていたのだ。自分の持つキラースマイルの効果なのかどうかはわからないが、呆気なくドアが開かれた。笑顔というのは、大切な要素だというのだけは確かだった。


ドアを通り抜けると、また中にドアがあった。ボタンを押すとドアが開き中に入る事が出来た。長い廊下を進む。白い外観のエレベーターがあった。三角の上向のボタンを押すとドアが開いた。まるで実写版のマジンガーZの光子力研究所かと思った。思わずエレベーターに乗り込む際、「マジンゴー!」と叫んでしまいそうだった。


中に乗り込むと、階のボタンは1Fと3Fしかなかった。ドアが閉まり、「プーン」と音が鳴り上に動き出した。西崎美咲は、アジアリゾートプランを計画していて、この自宅兼事務所は商談の場としても使われているのだろう。


日本から中国に渡った遣唐使が、帝のパワーに驚いたように同じような効果を醸し出そうとしているのだろうか。エレベーターが3Fについた。白く長い宇宙ステーションのような廊下の両側には、様々な観葉植物が置かれていた。




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