Ep.33 思わぬ助っ人
カナリアがアンナに“親友”認定され数日後、週末に商人風の軽装で待ち合わせ場所の古書店にやってきたイグニスは、店主に通された客間に入るなり肩を下げた。
待ち合わせ場所は裏道に小さく佇む古書店。目的は当然、リヒトとメリアに取り付いた悪魔ーー‘“
しかし、カナリアの隣に掛けていた想定外の来訪者にイグニスは頭を抱える。
「カナリア、お前……」
「待ってイグニス、言いたいことはわかってるの。でも、どうしてもと押し切られてしまって……!」
「だからってさぁ……」
明らかに気安いそのやり取りに、静かに聞いていたアンナは瞳を輝かせ両手で口元を隠した。
「まぁまぁまぁ!カナリア様が婚約破棄の原因となったあの娘の正体について調べていらっしゃると仰ったので協力したいと馳せ参じましたが、まさか協力者の方がイグニス殿下でしたなんて!!そういう事でしたなら話してくだされば良かったのに……逢瀬のお邪魔をしてしまいましたわね」
「ちっ、ちょっとアンナ!何か勘違いしてない!?」
「既にカナリア様は晴れて自由の身ですし、お隠しになること無いではありませんの!聡明なカナリア様と豪胆なイグニス殿下!お似合いですわぁ、何故周囲はこれまで気づかなかったのかしら……」
「だ、だから違うったら……!」
(この話の聞かなさ……、昔の俺を思い出すな……)
いつの間にこんなに仲良くなったのだろう、とか、万が一リヒト派の間者であったら不味いなとか、色々思うところがあれど。女子二人の盛り上がりを制する術など知り得ないイグニスは、出された薄い茶を啜りながら二人のやり取りを眺めるのだった。
「さてと、ではわたくしにも仔細をお聞かせ願えますこと!?」
「……いいのか?アンナ嬢。俺達に付くと言うことは、王太子であるリヒトに反旗を翻すことになるぞ」
イグニスの神妙な様子に、アンナも先程までのはしゃぎようが嘘のように真剣な眼差しで頷いた。
「元より我が家は、婚約破棄以降リヒト殿下の圧力により幾度も交易や社交で妨害を受けました。あの厚顔無恥な聖女もどきに入れあげていく様を両親にも全て報告し、既に我が家は王太子派から脱退しております。ご心配には及びません」
『それよりも、こんな大切なお話をここでしていて大丈夫なんですの?』と尋ねるアンナに、カナリアが頷く。
「大丈夫よ。ここの店主は元々、イグニス様の影の護衛として仕えていた方だそうなの」
「出逢いは割愛するが、幼い時に縁あって助けてな。恩を返すと長く尽くしてくれたが、足を悪くしてしまい暇を出した。元より歴史に精通していた事を活かし、今は表に出回らない重要な書を集めてもらっている」
要するに、この店に居るのはイグニスの側に付いている王室の“影”達ばかりだと言うことだ。こんなに密談に良い場所はない。
「鏡像についてだが、メリア嬢は演劇祭の辺りまでは普通…………ではないが、少なくとも本来の性格だっただろう。明確に変貌した日付まではわからないが、恐らく取り憑かれたのは俺とリヒトが参戦した魔物討伐の一件から、カナリアによるメリア嬢の特別指導が始まったここ。この一週間の間で間違いはないと思う」
「“鏡像”と言うくらいだから恐らく、鏡を介して取り憑くのよね。彼女は確か学園の寮ではなく、リヒト様が与えた小さめの屋敷に寝泊まりしているのよね。そこに充てがわれた備品が一番怪しいのではないかしら」
「そう思って密かに調べたんだが、屋敷にあるドレッサーや手鏡の類は特に異常無くてな。もしも取り憑いた後にその鏡が割れてしまうのだとしたら、もう処分されたあとかも知れない。カナリアのくれた絵の手鏡も、該当する物は見当たらなかった」
「そう……困ったわね」
カナリアは今回の捜査にあたり、ゲームの挿絵で見ていた“鏡像”の宿る手鏡の写し書きをイグニスに預けていた。確か、年代物の金細工だったはずだ。
鏡面が割れたとしても、純金ならば再利用の為に高値で売れる。いや、もしかしたら黒幕である誰かが回収したのかもしれない。そうだとしたら今のところ手詰まりだ。
身を乗り出してあぁでもないこうでもないと次の手を練るカナリアとイグニスの隣で、アンナが手鏡の絵を手に取る。
「あら、こちらの細工はヴァルハラ産の金細工ですわね。ずいぶんとアンティークですけれど……我が家の支援している商会に、似た細工品を仕入れている者がおりましてよ?」
思わぬところからの手がかりに、二人で顔を見合わせる。
押しかけ親友は、まさかの強力な助っ人になりそうだ。
破滅フラグを回避する為に完璧な淑女になったはずが、何故私は婚約者の兄にライバル視されてるんですか!? 弥生真由 @yayoimayu
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