密かに燃えるもの
魔王の
ちなみに中央の立方体っぽい建物が物資保管庫と整備スペースで、左右の円柱っぽいところが防衛施設と居住区だそうな。いまいる場所は、防衛施設の二階にある会議室のような場所。
「ミスネルさん、もしかして拠点は引き払ったの?」
「戻ったのは、わたしとビオーだけ。シェーナたちがミキマフの城から消えたって、連絡があったから」
ミスネルさんの視線を辿ると、オーウェさんによく似た印象の美女が立っていた。モデル風のスレンダーボディで、栗色の長い髪を後ろで束ねている。畳んだ翼が見えているが、見るまでもなく有翼族なのはわかった。
“魔王のお仲間”の連絡役は彼女たちが担当しているようだ。
「メイヴよ」
「あたしはシェーナ。こっちはジュニパーと、ミュニオ」
「よろしく」
「お騒がせして、申し訳ないの」
気にするなという感じの笑顔で、メイヴさんは首を振った。
「シェーナ、ジュニパーとミュニオも、ちょっと見てくれる?」
ミスネルさんにいわれて、あたしたちは会議室の壁に向かった。そこには、ソルベシアの詳細な地図が掛けられている。前にエリからもらった手書き風の地図とは精度も詳細さも桁違いだ。
「ここが、いまいるデポね」
あたしたちが上陸した軍港は、特徴的な半島の形ですぐにわかった。そこから内陸に目をやると、ミキマフの城があった場所に城っぽい記号とバツ印が書き込まれていた。
「ここが、転送魔法陣のあったミキマフの城か」
「そう。そこから転送された先が、これ。旧ソルベシアの王城跡ね」
縮尺からの概算で、七、八十キロはあるか。ずいぶん飛ばされたな。あたしたちが気になっていたことを、ジュニパーがメイヴさんに尋ねる。
「ねえ、メイヴさん。ぼくたちが消えたって伝えてくれたのは、あの城にいたひとたち?」
「そうよ。あなたたちのおかげで、みんな無事だったわ。いまは近くの人狼の村で預かってもらってるけど、体力が戻ったら自分たちの暮らすところに帰ることになると思う」
「「「よかった」」」
思わず漏れたあたしたちの声に、栗毛美女がふわりと笑う。
「あのとき助けてくれなければ死んでたって、みんな感謝してたわ。転送魔法に巻き込まれたと知って、ずいぶん心配してた」
そらそうだ。すぐ戻るから一緒に逃げよう、とかっていっときながら帰ってこなかったんだもんな。
まあ、捕まってたひとたちが無事でなによりだ。
◇ ◇
「こちらに来るわね」
通信を終えたミスネルさんが、あたしたちに告げる。
いま上空で偵察してくれてる有翼族からの報告によると、傀儡のミキマフは焼け焦げた身体を再生させつつ森を通って南下し続けているようだ。
現在の進路だと、オーウェさんが言っていた山中のルートには向かわない可能性が高い。
「ミスネルさん、あの傀儡ミキマフを仕留める方法って、あるのかな」
「ないこともないわ。ハイダル王子から聞いたので、確実性もあると思う」
その情報によれば、いちど動植物から引き離して、逃げ場がない状態にする必要がある。
“恵みの通貨”で生まれた森と接点を持ったままだと、傀儡にダメージを与えても森から再生してしまうのだ。
「……それ、もしかして、いっぺん阻止線を超えて、
「そうなるわ」
ミスネルさんも、顔を曇らせている。せっかく“
「大丈夫よ。そのためにここを、南下の
ボトルネックを作って、防衛陣地を置く。考え方としては、わかる。その必要性と先見の明も理解する。
けど、オーウェさんがナパーム弾を二発も直撃させても殺せなかったのだ。あの巨大な化物をどうやって倒せば良いのかが思いつかない。そもそもがツタやら草やら樹木やらでできた身体だ。あたしたちの持つ銃やショットガンじゃ話にならない。
「お待たせ、ミスネル」
「ありがとうビオー」
クマ獣人のビオーさんが、武器を運んできてくれた。前に会ったときは死にかけてたっっていうのに、いまはピンピンして力仕事に精を出している。
なんだかふたりの間にはホンワカと薄いハートマークが透けて見える気がするけど、見なかったことにしておく。他人の恋路に干渉する気はないし、そんな余裕もない。
「シェーナたち、これは見たことある?」
なんだろ、これ。鉄パイプと三脚が合体したみたいな。
首を傾げるあたしたちに、ビオーさんが組み立てて完成状態を見せてくれた。それでなんとなく、正体はわかった。わかったけれども、見るのも初めてだし用途も映画でしか知らん。
「ケースマイアンで大活躍した面攻撃兵器、60ミリ
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