祝宴と別れ
収納で預かっていたほぼ半身の野豚肉と、サリタさんキーオさんによる調理済みの野豚料理が入った大鍋がふたつ。弓矢やら剣やら戦鎚やら、敵から奪った余剰武器もゴソッと。
収納の在庫処分で適当に出したら前に渡したときより増えてる気がするけど、気のせいだ。どのみち、あたしたちは使わないもんだし。
ついでに爺さんから調達した食料品のなかで、子供受けしそうなものをいくつか出す。ドライフルーツやナッツ、粒チョコや駄菓子にデカいフルーツの缶詰も。
ここでの水の確保は川から汲むか雨水を沸かしてると聞いたんで、
「おいしぃ……」
ちっこい子がふたり、木椀によそわれた野豚の肉だくスープを食べながらホロホロと涙を流す。
いっぱいいる子供らをみんな把握はしてないけど、たぶん隠れ家から逃げてきてゴブリンに殺されかけてたエルフの子だ。色々と込み上げるものはあるんだろうが、あたしに慰められるものでもない。事情は聞かず、慰めもいわず。あたしはふたりの子供たちに笑顔で話しかける。
「いっぱい食え。そんで、早く大きくなれ。このひとたちと一緒なら、きっともう大丈夫だからな」
「……ぅん」
小さく、ポソッと返事があった。小声でどこか自信なさげなのは、ここまでが未来なんか想像できない暮らしだったからなんだろうなと、あたしは切なく思った。
◇ ◇
翌朝、昨日の豪雨が嘘みたいに空は晴れ渡っていた。
「そんじゃ、ミスネルさん。元気でな。サリタさんキーオさん、料理すごく美味しかった」
「みんなに出会えて、良かったの」
「ありがとね。ヤダルさんも、あんま無茶しちゃダメだよ?」
「シェーナ、ジュニパー、ミュニオ」
ヤダルさんがあたしたち三人を抱き締めてグリグリと頬擦りしてくる。けっこう痛いが、気持ちは伝わってくる。このひと、案外……というか見た目そのまま、良くも悪くも直情的なのだ。泣きそうな顔してるのを隠してるつもりなのか、荒っぽくガシガシと頭を撫でる。
「またな」
サラッとそれだけ言い残して、さっさと隠れ家のなかに入ってしまった。残されたミスネルさんとサリタさんたちが呆れたように笑う。
「ごめんね。ヤダル、本当は泣き虫だから。本人はバレてないつもりなんだろうけど……ねえ?」
「「「わかる」」」
ランドクルーザーを出して、隠れ家前から出発する。手を振るひとたちの姿が見えなくなって、前を向いて無言のまま静寂を味わう。
また三人になった。ここまでに、何度も繰り返したことだ。いろんなものを手に入れて、いろんなものを残してきて。自分たちのなかに積み重なってきたものが、きっと先へと進む力になってる。良いことも悪いことも、楽しいことも辛いことも。みんな後ろに置いてきた。それを振り返るのは、もっと後でいい。
いまは少しずつでも、前に向かってくんだ。
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