異世界サープラス

「回収した小銃が使えるなら、俺にもらえないか」

「ああ、“いちきゅーぜろさん”か。良いけど、タマはあんまり残ってねえぞ」


 階下に降りると、人狼男性ペルンさんがヤダルさんと話しているのが聞こえた。

 近接戦闘が得意なビオーさんが隠れ家に入ってきた敵を倒し、遠距離攻撃に慣れたペルンさんはライフルだか機関銃だかで包囲・接近する敵を射殺していたのだとか。

 ここに来るまでに見かけた死体がそれか。いくらかはジュニパーとヤダルさんが仕留めたのも混じってるんだろうけど、ものすごい数だったな。よく生き延びられたもんだ。

 いまペルンさんは銃を持ってない。二階にはテラスみたいな場所があって、遮蔽付きの銃座があるとかなんとか。ちょっと気になるのは、包帯が巻かれた左手だ。怪我をしたようだけど、そこだけという状況がよくわからない。


「自分の銃はどうしたんだよ。問題でも出たか?」

「ああ。さすがにRPKは限界だ。AKも撃ち過ぎでガタが来てる。百を超える敵の襲撃があったから、そろそろタマも切れそうだ」


 ……あれ? えーけー、つったか?


「ねえ、ペルンさん。それってさ、カラシニコフとかいう銃のこと?」

「ああ、たしかヨシュアがそんな呼び方してたな」

「そんじゃ、これ使ってよ。あたし要らないから」


 サイモン爺さんから押し付けられた銃と弾薬缶詰を収納から出して手渡す。AKよんななが二挺と、弾倉七本。弾薬は、表記によれば七百発。デッカい缶切りが付いてたけど、使う予定がなかったので開封もしてない。


「このAK、少し形が違うが、持った感じ俺のより頑丈そうだな。弾薬は同じものだ。助かる」

「あと、拳銃も要る?」


 サプレッサー付きのマカロフ自動拳銃が十五梃に換えの弾倉が十七本、弾薬は箱入りとバラのと合わせれば三百発以上ある。正直、使いどころもわからんので持て余していたものだ。爺さんから渡されたダッフルバッグごと、脇のテーブルに置いた。

 ペルンさんとヤダルさん、サリタさんたちが顔を見合わせて困惑した表情になる。


「どうしたんだ、これ?」

「さあ、その魔王の知り合いの商人から押し付けられた。音が静かな銃だっていうけど、あたしには使い道がない」

「大変にありがたいが、こちらには返せるものがないぞ」


 ペルンさんがヘニョリと困った顔で眉尻を下げる。強面の人狼だと思ってたけど、そんな顔すると意外に子供っぽい。


「いいよ、特に要るものもないし。前に停めたサバーバンも、良かったら使って。あたしたち三人なら、もう必要ないから」


 ヤダルさんが、あたしたちを見た。


「シェーナたちは、北に向かうのか?」

「そうだね。そのために来たんだから。どうなろうと、最後まで行くべきかなって、思ってる」

「そっか。寂しくなるな」


 柄にもないこといって、虎姐さんはあたしたちを抱き締める。変な話だけど、猫を抱いてるような安心感があった。柔らかくて、モフモフしてて、日向で干した布団みたいな匂いがする。


「たぶん、ミキマフはあたしたちが殺すことになる。その後に起きる混乱がヤダルさんたちにどう影響があるかは知らないけど……」

「心配すんな。あたしたちは、あたしたちで出来ることをやるだけだ。結果がどうなろうと、それはそれだ」


 エラく割り切った考え方だけど、そういうもんらしく他の大人たちも揃って頷きながら静かな笑みを浮かべる。


「ほんじゃ、メシにしようか。なあ、みんな腹減っただろ?」


 あたしが声を掛けると、子供たちが笑顔で頷いた。

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