豪華な露払い

 時間が動き出すと、あたしはランクルの陰から助手席側に戻った。荷台の上に立っていたジュニパーが、新しく手に入れたショットガンに目を止める。


「シェーナ、それは?」

「新しい武器だよ。なんていうか……下手くそでも当たる銃だ」


 首を傾げている爆乳ケルピーを尻目に、あたしは頼みの綱の散弾銃を肩から降ろして赤い筒の大粒散弾を装填する。八発入れると機関部横のチャージングハンドルを引いて初弾を薬室に送り、マガジンチューブに一発追加した。

 合計九発。本来は四発プラス一発を装填可能なことから“オート5”という商品名らしいが、爺さんの改造により“オート9”とでも呼ぶべき大火力の散弾銃になっている。

 引き金を引くだけで九発連射可能なのは頼りになるけど……これ、かなーり重いな。体感で細身なカービン銃マーリンの三割増し。四、五キロくらいはある。移動しながらの射撃は難しそうだ。


「あ、あの」


 ようやく目覚めた幼いエルフの子が、あたしたちを見て怯えた顔をしている。盗賊のオッサンにさらわれた直後となれば当然だろう。


「おう、大丈夫か? どこか痛いところとか、あったらいえよ?」

「は……はい。わたし……あの」

「少し前、ヒゲ面の男に攫われたのは覚えてるか?」

「……いいえ。とりで、で、うられて……」

「砦? それは、“暁の群狼ドーンウルフパック”の?」

「はい。それで、ばしゃ、のせられて……わたし、かったひと、ころされた、です」


 商人に売った後で、わざわざ襲って殺して商品は奪う? それが盗賊団としての判断だったら、無駄な手間を掛けずに砦で殺せばいい。

 このヒゲ面の個人的犯行か。


「襲ってきた相手は見たか?」

「はい。おとこのひと、よにん」

「えー」


 ややこしいな。あたしはヒゲ面男の死体を見て、ジュニパーに目を向ける。


「さっき、死体は七つくらい見えたよ。いまはもうゴブリンが運んでっちゃったと思うけど」

「仲間割れか、裏切りか?」

「だね。その四人が“暁の群狼ドーンウルフパック”の上前はねて、その内またひとりが上前はねて、最後はシェーナに殺されたんじゃないかな」


 馬鹿は死ななきゃ治らない、か。こんな奴らの都合なんて、どうでもいいや。


「シェーナ、ジュニパー」


 助手席で監視していてくれてたミュニオが、あたしたちに北側を指し示す。キーキーいう声が聞こえているから、状況はわかった。ゴブリンの群れが向かってきているんだ。


「右から四体、左から七体まとまって来てるの。ほとんど岩陰で、まだ狙えないけど」

「わかった、ミュニオはマーリンをいつでも射てるようにしといて」

「シェーナ、後ろからも来てる。バラバラに三体、こっちが本命かも」

「ジュニパー、運転頼めるかな。あたしは、ショットガンこの銃に慣れたい」

「任せて」

「エンジン掛けて、すぐ出られるようにして待機ね」

「シェーナ、左右の十三体が岩陰での」


 ジュニパーの読み通り、囮か。エルフの子は、運転席のジュニパーと、助手席でカービン銃マーリンを構えたミュニオの間に座らせる。


「アンタ、名前は」

「……ミフル」

「エルフって、ミが付く名前が多いのかね? まあ、いいや。ここに座って、おとなしくしてな。何がきたって、もう怖いことはないからな」


 ミフルはブンブンと頷くけど、理解したというよりも“服従するから酷いことしないで”、みたいな感じなのが痛々しい。ふと気付いて、ミフルの胸元から拘禁枷シャックルを収納で剥ぎ取る。


「え」

「ほら、アンタはもう自由だ。ちょっと待ってな、お仲間を拾ったら、好きなとこに連れてってやるから」

「シェーナ、来るよ!」


 あたしは荷台に上がって、ショットガンオート9を構える。いま最も接近しているのは左側からの七体だ。


「ミュニオ、右からの群れを頼む。他はこちらでやる」

「わかったの」


 岩場の陰から現れたゴブリンとの距離は十五メートルほど。引き金を引くと、肩付けした銃床にかなりの衝撃がある。嫌らしい笑みを浮かべた小鬼の頭が吹っ飛んだ。半ば重なった二体が一発で即死。跳ねた散弾か岩の破片か、周囲の二体ほども悲鳴を上げて転げ回る。戦果の確認は後にして、動いているゴブリンを着実に仕留めてゆく。

 魔物とはいえ剥き身の人間と大差ない肉体のゴブリンに、大粒散弾バックショットの威力は過剰なようだ。とはいえ、いまさら小粒散弾バードショットに入れ替えている暇はない。

 こちらから少し遅れて、助手席のミュニオが射撃を開始する。右から接近する一団は距離が三十メートルはあったが、着実に頭を撃ち抜かれてパタパタと倒れてゆく。

 さすが射的の名手エルフ。あたしも、自分の責任を果たすだけだ。使った分の散弾を込め直しながら、後ろから来る三体を待ち構える。


「ゴアァッ!」


 威嚇の咆哮の後で姿を現したゴブリンたちは、前から群れで来た奴らよりも体躯がいくぶん大きい。心なしか顔付きも偉そうに見える。それぞれに岩を乗り越えると、こちらを怯えさせようとでもいうのか手にした武器を掲げてひけらかす。

 雑魚モンスターの、小ボスってとこか。

 身体には薄汚れた木や革の胸甲を重ね着けしているものの、どうやら手下との格の違いを表すものらしく急所を守るという知能はないようだ。金属の防具を持っているのは、最も身体が大きな個体だけ。それも、文字通り持っている・・・・・という以上のものではない。

 これなら、結果オーライ。大粒散弾バックショットの本領発揮だ。引き金を引くと、散弾が一体目の胸板に叩き込まれる。当然ながら、革やら木は銃弾の前にまったく意味がない。もう一体も同じように胸板を撃ち抜く。小ボスゴブリン二体は勝ち誇った顔のまま血反吐を吐き、岩の上から転がり落ちて死んだ。

 残るは、金属甲冑の残骸を盾みたいに持った個体。そのガラクタで守りを固め、デッカい金属製の棍棒モーニングスターを振り回そうと力を溜めている。

 飛び上がる瞬間を捉えて、ショットガンを二連射。一発目は武器を持った右腕に当たって粉砕し、二発目は少し逸れて太腿の肉を引きちぎった。


「もぼぉおおおぉ……ッ‼︎」


 まだ死なないか。さらに一発、転がったゴブリンの顔面に叩き込むと頭部が丸ごと粉微塵に吹き飛んだ。

 あたしは周囲を警戒しながら、使った分の散弾を装填する。やはり事前に込めておくなら大粒散弾バックショットだな。火力不足で痛い目に遭うくらいなら、過剰火力の方がずっと良い。


「お待たせジュニパー、もう出していいよ」

「了解♪」


 なんでかご機嫌なジュニパーの運転で、ランドクルーザーは前進を開始する。

 目指すは、囚われのエルフたちが待つ“暁の群狼ドーンウルフパック”の砦だ。

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