第七羽 蔵書編

≪言うだけ言って何も解決してないしー。結局、イチャモンつけて去って行くなんてカッコ悪―。バーカバーカ≫


≪ヤマセミも難しいねえ。私もうお腹がグーグーなってるよ。どうしよ?≫


≪まだ1時限目も始まってないぞ。空腹は最高のスパイス。そのスパイス、昼までとっておいた方がいいんじゃないか?≫


≪オオルリは自分が発言する時に一回文面を確認しよ? アオゲラちゃん、わたしお菓子あるよー。ヨーグル≫


≪最高。もらいに行く。屋上で食べよ?≫


≪いいよー≫


≪待て、どうしてお菓子があるんだ?≫


≪タンチョウ、うるさい。調査は任せたぞよ≫



 タンチョウはスマホを閉じると調査に乗り出した。


 廊下に出ると1時限目の準備を始める生徒やあれやこれやと話をする生徒で溢れていて騒がしい。どんなことでも起こりそうな不思議な雰囲気がそこにはあった。


 リミットはどうとでもなる。まず知らなければならないのは贈られる手筈になっている本がいくつあってどこに保管されている事だ。


 タンチョウはまず図書室へ向かった。


 10分という短い休み時間では図書室は開いていない。鍵がかけられている事は分かり切っている事だった。


 図書室の出入り口は3つある。タンチョウたちの高校は市内でも大きい図書室を有しているのが宣伝文句のひとつだった。


 図書室の3つの扉が閉められている事を確認したタンチョウは他にもあるはずの多数の蔵書の本がどこにあるのか知らない事に気が付いた。


 調べる事が増えていく。


 鐘が鳴った。1時限目が始まる。


 教室に入った時に屋上で本当にヨーグルを食べていたらしいキセキレイとアオゲラが大急ぎで階段を駆け下りてくるのを見てため息をついた。



「まったく何をしているんだ、あいつらは」



 現国の教員が教室へ入った。


 教科書を開いたタンチョウはスマホを見ようとしなかった。通知を報せる振動は無かったからだ。


 図書室の鍵は職員室にあるはずだ。それをどうにか手に入れなければならない。タンチョウはその方法を考える事で頭を悩ませていた。


 ポケットの中のスマホが振動した。誰かがメッセージを送って来たのだ。



≪近藤さんはバレー部員でなかなか優秀らしい。体育委員会に所属している。進路は進学で理数系。ザッと調べて来たがこんなものだろう≫


≪オオルリ、ストーカーみたい。ていうかストーカーだね。捕まらないでね≫


≪俺はストーカーじゃない。必要だから調べたんだ≫


≪パーソンズ・ブックで名前を調べてたらアウトだねー。ダメだよ、足跡が残っちゃうからね≫


≪そんな事はしない≫


≪キセキレイ、本当にヨーグルを持って来ていたのか?≫


≪え、何のこと? さっぱり分かんない≫


≪二人が階段から下りてくるのを見た≫


≪え、タンチョウ、まさか私たちをストーキングしてたの?≫


≪するはずがない。教室に入る時に見えたんだよ≫


≪ヨーグルが欲しかったなら言えばよかったのに≫


≪そうじゃない。持ってきちゃダメなんだぞ≫


≪美味しかったよ。久しぶりに食べたなあ。ありがとね、キセキレイ≫


≪いいよー≫



 タンチョウは調査が進んでいないような気がして真っ先に考えた。リミットはやはり重要だと。


 そして体育会系である近藤さんが蔵書処分される本を神頼み的に依頼するまで必要とする理由も少しだけ気になった。

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