第六羽 蔵書編

 春、雨上がりの早朝は肌寒かった。


 生徒たちはゆっくりとした歩調で学校の門をくぐる。


 その学校の裏庭にある一本の木の枝に鳥の巣箱が設置されていた。


 それにはある噂がある。悩みを書き込んだ紙を入れると叶うと言われているのだ。知っている生徒たちはそれが真実なのか半信半疑で悩みを鳥へ打ち明ける。



 そしてその日も一羽の鳥が一人の生徒の悩みを受け取った。


 タンチョウは依頼の書かれた紙を読んでいた。その依頼の紙が入った封筒には千円札が二枚入っていた。


 神社でもないのに賽銭のつもりだろうか。姿の無い物を繋ぎとめようとするかのような願いさえも見えるようであった。


 スマホを手に取ったタンチョウはアプリで所属するグループの中にメッセージを送った。



≪集合だ。依頼が来たぞ≫



 数分経ってから続々と反応が来た。



≪了解≫


≪分かった≫


≪どうしてこうもタイミングが悪いのか。またイベント中だよ!≫


≪ならゲームだけしてればいいだろ。いちいちここで言わなくていい。退室しろ≫



 またも個性的なメンバーが集まった。タンチョウを含めて五人の生徒たちが現れた。



≪怖いー。SNS弁慶だよ。普段はド陰キャなのに≫


≪あ?≫


≪止めなよ、二人とも。弁慶同士じゃん≫


≪火に油を注ぐな、アオゲラ≫


≪いい子ちゃんは黙ってろよ、タンチョウ。正義の使者気取りかよ?≫


≪タンチョウ、放っておいて依頼の詳細をくれ≫


≪分かった≫



 タンチョウは依頼の書かれている用紙を広げて写真に撮るとそれをグループ内に共有できるようにアップロードした。


それはこのような内容だった。



[こんにちは。私は3年2組、近藤由佳です。巣箱の神さまの噂を聞いて投稿しました。どうか、お願いを聞いて下さい。


 図書館のある本が蔵書処分となりそうです。私はその中の一冊を読みたいんです。今はもう全国の施設に贈られる事になっています。


 顧問の先生に借りられないかお願いしましたが断られてしまいました。

 神さま、どうかお願いです。この蔵書処分を中止にして本を図書館に取り戻してください。]



≪リミットはいつ頃だろう?≫


≪貸せないって事はすぐだろうよ。分かれよな、ちょっと考えろ≫


≪その辺もしっかりと調べよう。今、知らないといけない情報はリミットと本がどこに保管されているかだ。まあ、念のためにこの近藤さんの事も調べておいてもいいだろう≫


≪おいおい、マジかよ。見るからに時間がないって状況でそんな呑気な采配でいいのかよ? 真面目なタンチョウさん≫


≪情報が少ないからな、仕方がない。手紙から受け取れる情報も少ない。これが現状に出せる行動指針だな≫


≪タンチョウがリーダーなんて認めてない。俺はその指針には従わないぞ≫


≪俺はリーダーだなんて思ってない。任じられた覚えもないからな。リーダーなんていない。ひとつの組織だ。ヤマセミはどうするつもりなんだ?≫


≪リーダーがいない組織なんて成り立たない。生徒だけしかいない学校なんてありえない。俺は俺で行動する。ここもこれを最後にミュートにするから≫



 それきりヤマセミは会話に入ろうとしなかった。


 リーダーの不在はどんな組織にも打撃だろう。誰がリーダーなのか、どんな方法で選ばれるのか、組織に属する者たちが考えなければないない難問だった。

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