第八羽 蔵書編
1時限目が終わった。
現国の教員が廊下に出て行った。階段を下っていくところでタンチョウは教員を捕まえた。
「先生、図書室の本について質問してもいいですか?」
「うん、いいよ」
30代半ばといったところの女性教員は階段の途中で立ち止まった。
「蔵書の本てどこに保管されているんですか?」
「1階の進路指導室の隣にある部屋よ。それほど量はないみたいだけどね」
「分かりました、ありがとうございます」
タンチョウが礼を言って立ち去ろうとすると女性教員が引き留めた。
「待って、それだけなの?」
「はい」
「もう、授業の内容で分からない事はなかったのね?」
「はい、分かりやすい授業でした」
「あら、そう」と満足そうに階段を下りていく女性教員を見送った。
タンチョウは早速、その蔵書の本が保管されているという部屋へと向かった。そこもやはり鍵がされていて入る事は出来なかった。
鍵を2つ手に入れなければならない。この部屋と図書室の2つの鍵を。
そのどちらも職員室にあるだろう。だが、こうした活動をしているタンチョウにとって職員室とはまさに虎穴だった。
入らなければ虎児は得られない。
どうしようかと頭を悩ませている内に2時限目の始まりを告げる鐘が鳴った。
≪あのさ、贈られる事になってる本は図書委員会の顧問の町田先生の机の傍に置いてあるみたいだよ。確認してないから分からないけれど。正確だと思う≫
≪その情報はどこから?≫
≪図書委員の子。1年生の子に持って行くようにお願いしたんだって。段ボールの中に15冊入ってるみたい≫
≪多いな≫
≪贈るのも明日みたいだねー。明日の放課後に町田先生が郵便局に持って行くみたいだよ≫
≪明日か。ギリギリだな≫
≪この前もそうだった。今回も乗り切れるさ≫
≪段ボール箱ってのはありがたい。見た目を偽装できる。取り換えやすいからな。それで行こう≫
≪今も段ボール箱の中にあるのか確認しなくちゃいけないぞ。あと町田先生の机の傍にあるのかも≫
≪そうだな。昼休みにやろう≫
≪私がやるよ≫
≪頼めるのか?≫
≪任せといて≫
≪まあ、計画が立ち始めたところを邪魔しないけどもうひとつ考えなくちゃいけない事がある。分かるかなー?≫
≪なんだ?≫
≪もったいぶるな≫
≪分かんないよう≫
≪蔵書のデータがあるはずだよ。そこでその本を戻してもデータ自体を書き換えないとまた処分に回されちゃう。記録も破棄しないと同じ事だよー、って事!≫
≪なるほどな。処分したはずの本があっちゃいけないか≫
≪本の確保の実行班とデータ書き換えの実行班で分けよう≫
≪鍵が必要になるのはデータ書き換えの班だからタンチョウは書き換えの班だねー。前にピッキングの経験があるし≫
≪ああ、構わない。あとは本の確保だが、キセキレイはやる気はあるのか?≫
≪え、無いよ。あるはずないしー。キセキレイはちょっと拗ねてるの≫
≪なんだよ。ヤマセミに言われた事を気にしてるのか?≫
≪ノーコメント≫
≪伝染ってるぞ笑≫
≪うるさい、タンチョウ≫
≪ヤマセミに頼もう。キセキレイは嫌がるかもしれないがな≫
≪受けてくれないだろ≫
≪きっと、大丈夫だ≫
グループを閉じたタンチョウはすぐにヤマセミにメッセージを送った。
≪計画が立って来た。リミットは明日の放課後まで。協力してくれ≫
返事はすぐにやって来た。
≪分かった≫
≪ミュートを解け≫
タンチョウはヤマセミとは付き合いが長い。かれこれ10年ほどの付き合いになる。タンチョウもヤマセミの事を分かっていたし、ヤマセミもタンチョウの事を分かっていた。
いずれにしても二人は互いの頼みを無下にはしない男たちだった。
一息ついて黒板の内容に目をやった。ノートは最初の数行を書いているだけだ。消しカスのない机の上は汚れひとつなく綺麗なままだった。
タンチョウは急いで黒板の内容をノートに記し始めた。
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