第14話 二年生


 あれから数日が経ち、ついに春休みが終わってしまった。すなわち今日から新年度だ。

 九条さんにとって初登校となるわけだが、気を使ったのか葵がウチまで迎えに来ていた。

 制服姿の4人が揃ったものだから、例の如く桐生さんが写真を撮ると言い出した。晴れの日だから悪くは無いけどな。


 一通り写真を撮ったあとは、少し早めだが登校することにした。初日くらいはそうしてもいいだろう。


「君達も高校2年生か、友達と遊んで、勉強をして、青春を謳歌して来ると良い」


 ちょっとその発言はどうかと思うよ、桐生さん。


「ちょっと年寄り臭いぜ、桐生さん」


 明、お前は良い親友だった。だがその発現は迂闊だよ。俺も似たようなことを考えはしたけれど、決して口に出すつもりは無かったんだ。桐生さんの方を見てみろ、俺は見たくない。

 だが仕方があるまい、新年度だ。幸先良くいきたいしフォローしておくか。


「そうだよ、桐生さんだって制服着たら俺達に混ざってもバレないのに」


 まぁ絶対あり得ないけどな。高校生の頃から大人っぽかったし。今の桐生さんが制服を着たらコスプレ感が出てしまうんじゃないだろうか。数年前まで着てた筈なのに。


「ふむ。大和くんはそんなに私の制服姿がみたいのかい?」


「なんでそうなるの」


 くそ、フォローしたら矛先がこっち向いただけじゃないか。幸先悪いな。


「ふふ、冗談だよ。皆気をつけていってらっしゃい」


 ったく、絶対判っててからかってるよな。


「いってきます」


 俺に続いて、他の3人も挨拶をする。そうしたらさっさと出発だ。



 新年度、学校に着いてまずしなければ行けない事と言えばクラス替え発表だろう。仲の良い奴と同じクラスになれるか、他のメンバーは誰がいるのか、担任は誰なのか。まぁ、学科や成績の兼ね合いもあるからあんま融通は利かないらしいけど。


「大和は1組だな」


 俺より先に明が俺の名前を見つけた。1組の方を見れば確かに俺の名前があった。そして明に葵、九条さんも1組だった。


「全員同じクラスか、良かったな」


「良かったね、撫子」


「はいっ学校でもよろしくお願い致します」


 九条さんは胸のつかえがとれたのか、ホッとした様子だ。やはり健気にしてはいたものの不安だったんだろうな。俺達が同じクラスにいる事で安心してもらえたのなら嬉しい。


 4人全員同じクラスと言うのは出来過ぎだが、普通科でクラスが半分まで減ってさらにコースで分かれるからな。同じクラスになる確率は割りと高かっただろう。変に期待をさせて外れたら悲惨だから九条さんには言わなかったが。


 少し涙ぐんでいる九条さんとそれを支える葵、青春っぽい。桐生さんから預かったデジカメで撮っておこう。


 その後は教室に行きSHRを済ませ体育館で始業式を終え、再び教室でSHRを始めた。担任の教師が今後の説明をしている。この辺はもう完全に作業だな、何の面白みもない。内容は大事だからちゃんと聞くけど。

 だが、担任が最後に一つ、と付け足すと。


「九条、ちょっと前に来てくれ」


「はい」


 九条さんが教壇に呼びつけられた。転校生だから自己紹介させるのか。クラスの皆も何が始まるのか気になるんだろう、ちょっとざわざわし始めたな。


「こちらの九条さんはご家庭の事情で今日からウチの生徒となりました。何かあったら助けて上げて下さい。九条、簡単にでいいから自己紹介して」


「はい。只今ご紹介頂きました九条撫子と言います。実家の都合で引っ越す事となり、こちらでお世話になる事となりました。皆さん、よろしくお願い致します」


 言い終わり、九条さんが頭を下げるやいなやと言った所で葵が拍手をしていた。ちょっとタイミング早いだろ、と思いつつも俺も続き、他も続いた。次第には九条さんに対して挨拶や質問を投げかける奴も出てきたほどだ。男はやはり彼氏の有無を聞いている。顔覚えたからな。


「はいはい、まだホームルームだから質問は後にしろ」


 担任が手を叩きながらその場を納め、九条さんは席に戻された。これ、ホームルームが終わったら質問責めなんじゃないか?



 案の定、教師の話と共にホームルームが終わり、放課になった途端九条さんの元に何人かが駆け寄っていた。人垣が出来ている。早速色々聞いているようだ。

 度が過ぎるようなら注意するけど、これもコミュニケーションだろう。明や葵も気にしてはいるみたいだけど割って入るつもりはなさそうだ。


「いやぁ、九条さん凄い人気だねぇ」


 俺が自分の席で人だかりを眺めていると、藤岡がやってきた。


「また同じクラスだな」


「そうだね、またよろしくね」


「あぁ、こっちこそ」


 去年も同じクラスだったけど、改めて言うと少し気恥ずかしいな。前回会った時もちょっとゴタゴタしてたし。


「ところでさ、九条さんって高崎くんが言ってた転校生?」


「そうだよ」


 そういえば藤岡にはちょっとだけ話したな。あの日の事は忘れる約束だった気がするんだけど、聞かれたら答えるしかないだろう。


「ふーん?」


 何か探るような目で見てくるんですけど、自分から聞いておいて忘れてないとか怒らないでくれよ。


「なに?」


「知り合いなら、助けてあげなくても良いのかなって」


「確かに……」


 言われてチラりと目をやれば九条さんは矢継ぎ早に繰り返される質問に一つずつ丁寧に答えている。大変そうだな。でも俺が助けるとそれはそれで面倒な事になりかねないんだよなぁ。


「どうするんだ、大和」


 悩んでたら明までやってきた。


「ん~これをきっかけに九条さんに友達が出来るかも知れないしなぁ」


 今日この後放課後に遊びに行ったりすれば、それだけである程度グループは固まるだろう。そのきっかけを九条さんから奪うのも違うような気がする。


「まぁ、そりゃぁそうだけどな」


「とりあえず、落ち着くまで待ってるさ」


「もっと男らしくかっこよく助けてあげればいいのに」 


「本当に俺の助けが必要なら、躊躇せず助けるさ」


 俺の選択は男らしくなかったようなので、男らしさを稼げそうな事を言っておいた。

 そんな事を言いながら見守っていると。



 あまり九条さんを困らせるなと葵が突撃していた。見ていられなくなったのだろう。あいつはただでさえ顔が整っていて、パーツのせいかキツい印象があるのに格好もギャルでヤンキーっぽいからな。あの言い方だと皆怖がるだろう。

 九条さんの周りに集まっていた生徒たちはおざなりな言葉を残し、その場を去っていった。


 多分、葵としては解散までさせるつもりはなかったはずだ。九条さんが困らない程度に抑えてくれればそれでよかったのだ。だがそれは伝わらず蜂の子を散らすに皆逃げていった。

 やってしまった、って顔してる。俺が動かなかったから葵にあんな思いをさせてしまった。見守るとか言ってないでさっさと動けばよかった。


 取り残された二人の下に慌てて駆け寄ると。


「遅い……」


 ジト目の葵にダメだしを食らった。返す言葉もないです。素直に謝るしかない。


「ごめん」


「うん……」


 俺が謝れば素直に受け入れてくれたけど、結構ショックを受けてるんだろうな。


「撫子、ごめんね」


「え?」


 今度は葵が九条さんに謝ったのだが。予想外、と言わんばかりに呆気にとられている九条さん。まさか自分が謝られるとは思っていなかったのか?


「せっかく皆から話しかけられていたのに、邪魔しちゃったから」


 俺が説明すると葵もうん、と頷いている。


「そんな、私を思っての事だったとわかってます。私が感謝こそすれども謝罪なんて必要ありません!」


「そっか。よかったな、葵」


 九条さんはわかってくれてたのか。


「それに……その、私も少しだけ困っていたので。助けてもらって嬉しいです」


 少しだけとは言うけれど、九条さんがわざわざ言うって事は結構困っていたのか? だったらもっと早く助けるべきだったか。


「そう? なら良いんだけど……」


 葵さん、嬉しそうですねぇ。自然に振舞ってるつもりかもしれないけど、喜びを隠しきれていませんよ。急にそわそわしてるんだもの。


 ふぅ、丸く収まってよかった。なんて安心していたら解決した事を感じ取ったのか明と藤岡がこっちに来た。もっと早く来いや。

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