災い巡って龍と化す

 「はぁ..ふぅ...あった。」

 城のように肥大化した大地の塊その奥は、未だ小さな鍾乳洞の名残が残っていた。


「おいナァ旦那!

助けてクレよ、オレっちのコト!」

眠るシルエットにすがりごますり下手に周る術を余す事なく使って媚びる。

 「……」

「お、イイって事カ!?

んじゃあ触れルゼ〝龍骨座〟様ァ!」

 龍は総ての災いの元、触れれば悪意が絶え間なく溢れ取り込まれる。

「ヤッパしブラザーだゼ!

持つべき者はマブダチだっハァッ!」


眠る頬に拳を合わせる。

過去の伝説が、現在に蘇る。


「アァ〜こりゃスゲェ..。

みなぎるドコロじゃネェぞ!」

 緑を黒く錆びさせる程身体に拡がり染み渡る。感情とは別の擬態が芳しく行われている。

「ヒャッハァ〜!!

オレっちの時代が始まるゼ、レジェンド・オブ・キメラの誕生よォっ!!」


「随分とご機嫌だな。

阿鼻叫喚を仄めかす程なのか?」

「ソリャあナァ..色は黒くなっチまったガ、あぁレ...なんだ、コレ?」

 カラダが墨の様にダラダラと溶けていく。強過ぎる悪意に原型を留めきれず、本能が内側から体という存在を崩し始めているのだ。

「何だよコレ!

どうなっチまウンだオレァっ!?」

「阿呆が、虫螻むしけらが干渉しようとするからだ。我が長年の憎しみは貴様程度では取り込めん。」

枷の外れた巨躯を起こす。

古き伝説が、現実の景色と同化する。

「人の小僧には散々な目に遭った

これ程までに窮屈な場所に封じ込めおって....。」


鍾乳洞の亀裂は彼等にも伝わっている


「動き出したね..皆こっちに来てくれるかな、今すぐにね」

全テイマーを研究室に召集。しかし現在は形を変え「操縦室」となっている


「見えるかい?

あれが世界を滅ぼす元凶だよ」

 壁一面の大きなモニターに、洞窟を壊し突出した龍の頭が映り込む。

「なんだよアレ?」

「言ったでしょ、この世の終わりよ」

「大き過ぎるよ..あれ。」

「龍骨座、世界に生まれた初めての召喚獣。獣の始祖だ」

「あんなものを守っていたのか。

君たちは..」


「おお、そうだ!」

「威張るなよ」

「直ぐ威張るからなぁ」

「んな事言ってる場合かよ!」

 城を取り込み失ったパーツを取り戻していく。世界のリセットは恐らく、龍骨座の体の完成を意味する。

「あんなモノをどうするつもりだ?」

「みくびらないでよ。

モルモットくんならわかるでしょ」

 ソルドの実験台は何も人間だけでは無い、獣や武器、基地といった無機物に至るまで対象にはキリがない。


「見せてあげるよ、これが家の本性。

〝龍破壊の要塞〟だよ?」

丸みを帯びた宮の様な形状の基地が縦に長く展開し、面積を拡げる。

「伝説ほどのスーパーパワーは無いからねぇ、技術で補いました♪」

 ブラキオの様な長い首、ドラゴンを模した大翼に、太く垂れる尻尾。設置面は大地から離れ空へ浮かぶ。


「おい、もうついて行けんぞ..」

「だろうね、だけど進んでくよ?

じゃなきゃ世界が無くなるからさ」

 要塞櫓で牽制しつつ、テイマーが攻め入る環境を作る。至る箇所に砲台を固定的に設置し弾を込め砲撃、テイマー達は前線へ飛び、威力の高い攻撃をする。これが基本的な戦闘法となる。


「空中移動はプテラノドンが行う、それとテイマー全員にこれを配る。」

水晶のような塊が閉じられたペンダントの様な首飾りを見せびらかす。

「なんだそれは?」

「とかげの古種から生成したジュラの鉱石、首から下げておくだけでいい」

 召喚獣の力を飛躍的に増大させる秘

石を用いて一斉撃滅を狙う。

「砲撃とやらは誰が撃つ?」

「もうやってくれてるよ」


 龍撃要塞同体部砲撃台

「オマエらイクゾー!」「放テー!」

 黒い砲丸を台に詰め、蠢く脅威目掛けて撃ち放つ。

「インディアン様方、ご無理をせず」


「何イッテんだ隊長!

チヘド吐いても落とすぜオレ達ャ!」

砲撃部隊隊長コーリン

部隊員インディアン座一同。日々雑用をこなす彼らの手際はすこぶ

良く、砲丸がまるでボールの様だ。


「小賢しい!

破壊に消えよ、虫共よ!」

「マズいゾ!スゲェのが来ルっ!」

「回避します。」

 要塞の管理は変わらず繋がり同期されたコーリンが行う。だからこそ景色の見える砲撃隊に置くことで、素早い回避が可能となる。

「ふんっ!」

 放射される息吹に逸らせて要塞を曲折、外れた息吹は背後の地盤に衝突し跡形も無く地形を粉砕する。

「ウヒャあ〜..!

あそこ前マデ櫓のアッタ場所ダゼ」

「引っ越シテ良かッタナ!」

三日どころか三秒で地図を作り直させる威力を誇る。現代のあらゆる情報を取り込んだ事で、以前より力を増して強大化している。


「狭い世界だ。

暗い部屋を出ても窮屈か?

狭い世界などいらん、拡がるがいい」

 唸りをあげる長く大きい躰から、白き大翼が生え揃う。

「あの羽っ!」「まさか..。」

音を立てて羽ばたくと、渦を巻く大風が体軀を覆う。


「ペガスス座か..!」

「どうやら余分なモノを取り込んだみたいだねぇ、ンフフフ....。」

これでは接近はおろか大砲ですら届かない。過去の進化が目まぐるしく、現代を追い抜いた。

「仕方ない、アレをやろうか。

スコルピオー?」

「....ウン。」

「何をするんだ?」

「いちいち質問しないでくれる、イライラして落としちゃうから」

見て理解しろということだ。

ブラキオを模した長首の顎が開きエレルギーをチャージする。


「発射♪」

膨大なエレルギーが風を断ち、龍骨にヒット。全身を濡らし煙を上げる。


「なんだこれは..躰が、熱いっ!」

「デス・ビドムレーザー

最大強化の毒砲撃ってところかな?」

 ソルドの首には水晶の入ったペンダントが下げられていた。

「風が止んだぞ!」

「攻めるなら今なんじゃない?」

「行くぞ皆!一斉にかかれ!」

 即座にプテラに飛び乗るテイマー達ジェイビスの言葉が、初めて伝わり皆を動かした。


「一斉射撃だ!」

一体化し、最大勢力をぶつける。


「ブルブラスト!」

「リバーズアロー!」

「シープキューブ!」

「ベストアルバムあげちゃう!」

 槌による衝撃波、弓による鋭い一撃

凝固した羊毛の殴打。わかる人にはわかる声色。

「おのれ..屑共...!」

「まだまだいるわよー?」


「何処までがクズなんだ?」

「一人残らずだ!」

「だそうだ。」

 戦力は何も飛び道具だけでは無い。

「ツイン・ベルクロー!」

「シューズ・ド・クロード!」

「制裁の両天秤!」

黒豹葬裂斬こうひょうそうれつざん!」

斬撃に次ぐ斬撃、肉体強化系は皆単純に腕力や斬れ味が上昇する。


「効かん、虫螻の欠伸だ!」

長く眠っていて気が付かないのか。

欠伸あくびは思っているより長く続く。

「特に無くて悪かったな!」「な..」

 シンプルスラッシュ

彼は真面目にやり切った。


「オレ達も続ケェー!」

首元にペンダントを携えた砲撃隊も加勢する。

「容赦はいりません、射撃形態」

砲丸に乗せバルカンを連射、部隊長の威厳を銃撃へ。

 「甘く見るな..始まりの祖である龍

 の星を落とすと云うのか?」

『来るよ、気をつけてね〜』

 龍骨座の武器は大地、自らが更地にした躰の一部を破壊の権化とする。

「堕ちろ、脆弱な星々よ」


「なんだよアレは?」

「地盤の槍..薙刀か、いやあの形は..」

「なんだっていい。」

「大きいね〜」「なんで平気なの?」

 12星座防護班

強烈な反撃に備え空を滑空していた。


「いくよアンタら!」

「お前が仕切る日が来るとはな。」

行動を開始。

うお座の力で全員の回避性能を上げる

「いくよー!」「それー!」

 要塞に躱した分が当たぬよう二分割して受け流す。大地の権化を躱しつつ棄てる、これを繰り返す。

「くおぉ...かあっ!」

力を防がれれば直接攻めるしか無い。

力強い悪意の息吹が、驚嘆する。


「エミュール耐えろよ?」

 膨大なエレルギーのように光線の如く延びる息吹を水瓶に吸収する。

「くっ..!」

「大丈夫ー?」「着いてるよ!」

双子座が力を分け与え、吸収量を倍加させ負担を和らげる。

「はっ、はっ、はっ..!」

「良くやった!」

脅威を封じれば、残るは躰一つのみ。

「メガラブ・アゲイン!」

大きな愛に縛られる。

恋は盲目、愛は身も心も焦がし尽くす

「後は頼んだぜ...お二人さん。」


「ああ!」「一括りにするな..」

 初めて逢う日と変わらない。愛想は無いし他人行儀。

「いくぞ、コースケ」「はいよ!」

人のルーツは獣と違う、生まれ落ちてから暫く過ぎて分かるものだ。


「水我独尊」

 流れる水が映すのは、反射する姿そのもの。水竜とは異なる、邪の龍

「己の躰に呑まれてしまえ」

水と悪意が混ざり合い、黒く濁って苦しみ合う。痛みを伴う水になど、誰が口を付けるだろうか?


「これしきの水..何だと云う...!」

「痛むか、お前自身の悪性だ。」

 龍骨が汚れだとすれば水龍は聖水。しかし清らかに磨かれる事は無く、悪しき同士で削りあう。

「..決めろ、コースケ」


鳳翼剣焔大一閃ほうよくけんほむらだいいっせん!」

二対の龍を、鳳凰が斬る。

「いっけぇー!!」

「悪意を斬るか、無駄な事だっ!

憎しみは常に人に宿り拡大する、零に断ち切る事など不可能だ...!!」


「物語の初めが悪っていうのは悲しいよな、そんなものは終わりでいい。」

 「終わらない、それが悪意だ」

 人も獣も感情を持つ、悪い部分は確かに善意と比べものにならならない程のエレルギーを誇る。


「人が存在する限り存在し続ける!

貴様ら如き虫螻には止められん!!」


『だとしたらわかるよね?』

「何者だ..どこから話している。」

『君の中にも眠っているよ、溢れ出す善意がね』

鳳翼剣により裂かれた腹の傷口から、光が差し込む。


「なんだ..これは?」

『武蔵夜行』「...貴様何故その名を」

 かつて龍を沈め生涯を閉じた英雄の名前、憎しみを溜める原因となった諸悪の根源そのもの。

『彼は知っていた、君が自分を恨んでいる事。それによって再び目覚め、世界に影響を及ぼす事。』


「だったらなんだ..!」

『だから一緒に眠りに着いたんだ。

悪意の中の、善意の一部としてね』

〝大丈夫〟だと笑い飛ばした、皆の顔

に疑問を浮かべ首を傾げて姿を消した

『彼は、君を人間として封印したのさ

自分と同じ存在としてね。』


「そうか、だからあの時...」

 胸の奥には温もりを感じた。冷え切った表面を何かが暖めようと、常に誰かが手を添えていた。

➖➖➖➖

 「なぁ、お前愉しいか?」

 「..何を云っている。」


「わからねぇか?

俺はとてつもなく愉しいぜ!」

「下らない阿呆だ。」

〝狂った奴だ〟そんな印象を覚えた。

裸一貫武器すら持たず突然前に立ちはだかり戦を申し込まれた。


「無謀だとは思わないのか?」

「思ってたら戦わねぇさ、例え無謀でもやめねぇぞ!」

「..やはり阿呆だ、武器も持たずに決闘とは死ににきたのか?」

「馬鹿かよ、武器なんざ持ってたら相手の呼吸がわからねぇ。邪魔くせぇもんは取っ払うのが吉だろ!」

「……」

 戦いは三日三晩続き、共に下手張り限界を迎えていた。

「もういい、諦めろ!

お前の顔は充分に見た、立ち去れ。」


「顔は覚えたか?

俺はもう覚えたぜ、お前の顔。」

「...阿呆が!」「へへっ!」

気付けば自然と感じ続けていた。何故なのかと考えたがわからなかった。しかし奴と争い合うと弾けるように躰中が云っていた。

 戦いが「愉しい」と。

➖➖➖➖➖➖


 「阿呆と同じ、悪くはないか...。」

 光に導かれ悪意が消滅きえる。

龍は何故だか微笑んでいた。憎しみが浄化され、開放されるように。


「結局なんだったんだ?」

「..さぁな。」

 災いは去ったが、本当に脅威だったのか。ただ単に取り残された、過去の遺物だったのかもしれない。

 「帰ろう」

空には明るい太陽が昇っていた。

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