風の向くまま気の向くまま
様々な戦いがある。相性の悪い組み合わせ、因縁のある二人。それぞれ思惑や力が重なり深まっていくが、同じ組み合わせ性質の場合、戦いは浅く、脆いものになっていく。
「戦闘向きじゃないのが残ったな。」
「残るべくして残ったんだろ」
12星座にも役割がある。
戦闘向きの星座、正確な指揮者。バランサーや体力調和、多様に存在する。
その中でも水瓶・うお座は受け身の星座と呼ばれ、活発な役割では無いとされている。
「瓶に情報を入れて使うだけ、確かに戦うに適した力じゃないよな」
「お互い様だ、衝撃や刺激を避けるだけでは何も起こらないだろ?」
誰かあっての頼られ役が、前線に立つ事などあっただろうか。
「やめだ、ちと休もう!」
「だな。
お前と争っても何も得はない」
戦意はゼロ、部屋にあぐらをかいてまるで連れの家だ。表は遂に歩むのをやめた。ならば閉じた世界では...
「なんか久しぶりだね」
「そう思うならそうなんだな」
よりユルかった。テイマーと正反対という規則性でさえあやふやに漂う。
「さっき聞いたんだけどさー、どっちか勝たないとここから出られないらしいよ?」
「そうなんだ、じゃあどっちか勝たないとな。」
「どうやって勝てばいいのかね?」
「知らないけど、運だろ。」
「そうなんだー...思い出見る?」
「思い出?」
「そう、今まで瓶に映した映像とかモノとかそういうの。」
「あ〜見せてくれるなら見るわ。」
「ホント?
じゃあ見せるわ、ほらこれ」
瓶の中から恐竜が出現し、無空間を足踏みする。
「何コレ?」
「これね、デカいとかげ。」
「あ〜成る程、はいはい」
大した関心は無いが見せてくれるから一応の相槌、慣れたものだ。
「ナントカの大地ってところにいたんだけどー、なんだっけな恐竜?
っていうのになったんだってさ」
「へーすごいじゃん、へー...。」
〝早く終われ〟の意思表示なのだが相槌は相手を気持ちよくする。悪い奴では無い手前摩擦を生みたくない。
「あ、そうだ。
新しい基地あるじゃん」
「あうん、あるね。」
「あれ変形するんだって」
「え、マジで?」「うん、本当に。」
偶に本気で気になる情報をくれるから退屈はしない。知り合いの集まりは近くの噂や下らない話で3時間はイケるものだ。
「あの人結構やるんだな」
「科学者の人ね、凄いよねなんか」
「人ってみんなああなのかな?」
「どうだろうなぁ、水瓶の中には無いけどサイから聞いた事はあるよ」
「あ、マジで?
どんな人達なの?」
「なんかね〝思春期〟っていうのがあるらしいんだよね。」
「思春期?
そんなのがあるんだ。」
「うん、親に乱暴になるんだって」
「そんなんなるんだ、ヤバイな」
「だよねー。
洗濯物別にするんだって」
「洗濯物...ってのがよく分からないけど別にされるんだ、酷いなそれ。」
うお座のフェイシャルは結構人に気を使える。誰よりも強い能力だ。
「あとね、ピアスの穴初めてのときすごいビビるらしい。」
「あーあれは怖いよ、なんか膿むし」
「ピアスは知ってるんだ。」
魚に人の文化は無い為新鮮な話として受け取れる、しかし鮮度は魚が上だ。
「他なんかないの?」
俄然興味が湧いてきた、人の生活に。
「思春期とか関係ないけど、霊感っていうのが有ると凄い威張るらしい。霊感っていうのは幽霊が見える力の事らしいんだけど」
「へぇ〜凄いねぇ。」
知らないであろう用語を説明するという技を覚えた。エミュールもそこそこ気が使える。
「黒い影と長い髪の女って言っとけば気をてらえるんだって」
「そこまでしてまで変わった人になりたいんだな。」
「必死らしいよ、なんか。
おかしい奴に思われたいんだって」
「変わってんな、普通にしてりゃあいいのにな。」
「そうだよな〜、おかしいよねー。」
ちなみにこの二人はキャンサーとも仲が良い、同じ水の星座だからだ。
「これからどうなるのかね」
「あ〜なんかね、復活するんだって水瓶に映ってたけど。」
「みたいね、成長し続ける星座らしいからね。凄いデカいらしい」
「そうなんだ
ていうかなんでそっち側ついたの?」
「うーん..それが良くわかってないんだよねぇ。相棒が仲良い奴がそっちに多かったってだけだからさぁ。アイツは何かしら目的あるんだろうけど」
お互いに余りそういう話をしないので心の内は知らないが、特別知りたいとも思わない。自由に見えて割とドライだ、しかし拒絶もしない。
「やっぱ娯楽無いと限界あるよねぇ」
「そうだな、確かに。」
「モノがなくても遊べるのって双子座の子たちだけだよね多分」
「それはあるな。」
子供の発想は無限大、何をするにも自由というのは偉大なものだ。それの最たるが子供の力だ。
「そっち楽しい?」
「あんま変わらんかな。」
部屋が区分けされ結局個人の生活になるので櫓の頃と変わらない。
「周りの獣が壊したときはびびったよ〝そこまでやるか〟ってさ」
「あれは驚くよね、怖いもん。
楽しそうだったけどねなんか、凄い」
冷める戦いと思う者もいるかも知れないが彼等にとっては普通の事だ。そもそも戦いの概念が無い。
「みんな外忙しいのかな?」
「どうなんだろな、暇では無いだろ
うけど。」
時計も無いので時間帯も分からない朝か昼か夜かも分からないが正直のところ、今がいつだろうが何時であろうがどうだっていい事だ。
「僕らも忙しい場所に戻る?」
「いいんじゃないか。」
「あ、でも勝者決めないとな〜。
イヤーな決め事だねどうも」
「じゃあオレ負けでいいよ、別に勝敗なんかどうでもいいし。」
「あ、いい?
ごめんねなんか、煩いからさ外が。」
「いいよいいよ。
パートナーもそんなに言ってこないでしょ、大丈夫大丈夫」
話し合った結果取り敢えずうお座の負けで落ち着く形になりそうだ。
「じゃあそういう事で、ありがと」
「はーい、どうもー。」
「それじゃまた、次はぁまた結構先...になるのかな?」
「だろうね、いつになるかね。取り敢えず今はそれじゃ」
「はーい、それじゃあ。」
閉じた世界の戦いは終わった。
テイマーの背後に現れたのが、合図。
「...よし、出るぞ。」
「だな、そろそろ家に帰るかな」
確認せずとも勝敗は何となく分かる。
部屋の鍵が開けば後は帰るだけ、元の大きな家の中へ。元の形とは随分と変わってしまっているが。
➖➖➖
「……」
龍は目覚める。
幾ばくもの星を喰らい、獲得した気を吸って
かつてそれを守っていたと云う人々は瞳に見つめられただけで身体が擦り切れたという。
一人の星使いがいた。
邪な星は
星使いはそれを操り、見定める者。
獣を咎め、扱い続けた後漸くに龍の元へと辿り着く。
吠え猛る龍の瞳は睨む、擦り切れず仁王立つ猛者を忌み嫌い阻害し、広大な街を更地へと変えた。龍との戦いは三日三晩にまで長引くと、やっとの思いでその輝きを鍾乳洞にて封じ込め、長らくの平穏を築いた。
星使いは綻んだ体で云った。
「遠く未来に、奴は再び現れる」
人々は全体を震わせ怯えたが星使いは何故か笑っていた。
「心配は無い」と、根拠も無しに。
「かつての英雄〝武蔵夜行〟か。
いつの時代の噺だろうねぇ、これは」
世界で初めてのテイマーとされる古き書物に描かれた英雄、
「とはいっても過去の人物だ、今より効率の悪い戦い方って事だろうね..」
皮肉や中傷では決して無く、実際に災いと争う術は施してある。
「確かに優秀だよ、彼はね。
お陰で色々施せた。それにしてもあれだね、成長する場所っていうのは星座の影響を受けてたって訳だ」
世界の一部を変革する程影響の大きい伝説の星座は語る継ぐ者の死滅した現代ですらも脅かす悪意となる。
「僕一人でも充分だと思ってたけど、偶には凡人の腕も借りてみるものだねとかげのサンプルが随分活きたよ」
死体を結合した恐竜達が予想外のヒントを多く残した。何故とかげが結合したのか、そして古代の獣になったのか、それは総てのルーツがそうして一つのものに帰属するという意識を持っているからだ。
「スコルピオ
君も彼の一部なんだよ?」
「....ウン。」
心なしかスコルピオの顔が優れないように映る。彼のルーツは常にソルドの側、生まれた頃から常に共にいた。情や愛などの希望も無いが、感覚的にもそばにいる事が心地よかった。
「わかってるよスコルピオ、君は君だ
他の誰だと思わなくてもいいよ」
「....ウン!」
背を向けた声のみの言葉で実際はどんな顔をしているか分からないが、充分に喜んだ。彼はソルドの召喚獣であれば道具であろうが獣であろうがどうでもいい。誰よりも毒に侵されている狂ったケダモノだ。
➖➖➖➖➖➖
「なんだここは!」
「櫓だろ、流石にびっくりするけど」
「治したな」
「面影無ぇじゃねぇか!」
出戻り星座が新たな家に驚嘆する。住んでた城の数倍住みやすい高機能ハウスに度肝を抜かれている。
「アレ、アイツら帰って来てルゼ?」
「ホントだ、帰っテンな!」
インディアンは情報が早い。作業をサボってまでもトレンドを追いかける
「オカエリナサイマセー!
どの面下げて戻って来たのクズ共?」
カタコトのアンドロイドキャサリンが思わずストレートに悪口を言ってしまう程簡単に戻って来た裏切り者共はもう二度とソルドの悪口は言えない。
「アンナイするからついて来い。
私の名前はキャサリン、勿論だけど呼ぶときは〝キャサリンさん〟な?」
「この子なんか腹立たない?」
部屋に案内する側も〝無理矢理案内させられてる〟くらいに思っている。
「まぁ従うとするよ」
「早く寝たいものだ!」
「それでいいのかよ..?」
自責の念があるものと、あっけらかんとしている者極端だ。あっけらかんとしている奴は開き直っているのでは無く反省の仕方がわからないのでカッコ付けているだけだ。
「二度とメザメルナー」「はぁ..」
➖➖➖➖➖➖
「何を考えてる?」
「..いちいち聞くなジェイビス」
「いいだろう、そんなに嫌か?」
「ああ。」
「そんなに嫌か..」
ジェイビスは悩んでいた。指揮者として本当に力が発揮できているのか。
「どうしたジェイビス
様子がヘンだな。」
「アローズか、それがオレの話を聞かんのだ。やはりうざったいのか?」
「お前は前からそうだったぞ。」
「何?」
➖➖➖➖➖
七夕峠
岡の麓にあるこの場所では、毎年決められた日に祭りが行われる。出店で賑わう縁日に、獣や人間、関係無く紛れて愉しげに遊ぶ。
「なんだ周りはつるんでばっかりか?
くだらねぇな、ったく。」
射手座の獣アローズは毎年一人で訪れては射的を延々とやり続けていた。
「そりゃ!
へっへ、どうだ見たかよ?」
振り返っても誰もいない、一人で来ているので当然だ。
「はんっ!」
めげずに一人撃ち続ける。腕は果てしなくいいがどれだけやろうと自己満足称賛する者はどこにもいない。
「すごいじゃないかっ!」
と、思っていた。だが一つだけ、無駄に愛想の良い声援が響いている事に気付く。
「もう一度やって見せてくれ!」
「...仕方ねぇな。」
乗せられたのか腕が弾んだ。恥じらいは無く、子供のように微笑んだ。
「よしっ、ならオレも..」
「あー待て、それじゃあ飛ばねぇ。」
「え?」「コレはコツがあってな..」
飛び道具の打ち方はここで教わった覚えにくい名前だったが、不思議と直ぐに呼べていた。
「ジェイビス、お前いいのか?
知り合いとか待たせたりとかよ」
「あ..いや、実は一人で来たんだ。
オレ、友達居なくてさ」
明るい孤独をその時初めて見た。落ち込む素振りも無く、明るくて、だけど友達が出来ないであろう事は直ぐにわかった。
「なら俺がなってやる、テイマーになれ。そして多くの知り合いを作れ」
「..ああ!
そうするよ、先ずはお前からだ。」
➖➖➖➖➖➖
「そういえばそうだったな。」
「何も変わってねぇだろ?」
「いや、変わってるよ。
こんなにも知り合いが出来た」
性格は何も変わらない、今だに仲が良いのはアローズだけだ。それでも指揮者をやっている。
「形だけでもいいんじゃねぇか。
少なくともオレは見てるしな」
「アローズ、ありがとう。
もう一回シルマに話しかけてみるよ」
「それはやめとけ..。」
滅多に家を開けないジェイビスだが、毎年1日だけ必ず外出するという。
行先を伝えず、アローズと二人で、何処かへ出掛けて行くらしい。
「いくぞアローズ、シルマの元へ」
「だからやめとけっての...。」
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