遅れた実験結果

 サンプルというものは多ければ多い程得をする。様々な角度の検証が出来多様な実験をこなす事が可能となるからだ。


 「ん?」

焼け焦げた身体を引きずり歩く緑の男が息を荒くして土を踏んでいる。

 「あの子は何かな」

「ったくやベェ、散々やられた..どこまで飛ばしヤガッタんだブラザー?」

ある程度地の利のある男ですら分かりにくい秘境に辿り着いてしまい、知っているものは何も無く、遠くを見渡すと一応は人がいる。


「ありゃァテイマーか?

..まぁイイワ、無視して過ぎレバ」

「すみませーん!」「うおっ!」

円状の刃物がスレスレを通過、確実に当てるつもりの一太刀だ。

「チッ!」「チッてなんダヨ!」

「ブーメランカッターだ、フリスビーみたいに軽く投げられて自動的に戻ってくる。便利な器具だよね」

「コイツ、殺傷武器を〝器具〟と呼んデル...イカレてるのか?」

答えは簡単だ。

科学者が殺傷武器を持っている、まともならばそんな事はありえない。


「僕は正常だよ?」

これが答えだ。

「ならヤルしかねぇか!

狂ったヤツは好きだガヨ、お前はドーモ好きニャなれンゼ!」

「カメレオンの個体に興味は無いけどな〜、でも聞きたいことくらいあるかもね。収穫、あればいいけど♪」

 カメレオンは擬態すると言われ、身を守る為に景色と同化すると思われているが実際は異なり、その度の気分により姿形を変えているだけだ。

「チェンジンッ!」

主な力は姿を消すこと。

あとは変化し人の力で、器用に動き罰が悪ければ逃げ惑う。


「オレっちはずっとソウしてきたゼ」

「知らないし興味ないよ?」

「だったら持てモテ興味モテッ!」

 変色し、体毛が生える。

鋭い爪と牙が猛る獣を思わせる。

「おおかみ座のヴォルフ!」

 独りでに輝く孤独な星の獣であった力を滅びたときに吸い出した。こうして徐々に力を増やし、カメレオンはやがて「擬態の星」と呼ばれるようになっていった。

「モノマネが好きなんだねぇ、他人の名前をこれから幾つも聞くことになるんだろうけど、君の名前は誰も覚えられないだろうね」


「何イッてんだよオマエ?

さっきッから名乗ってンゼ、オレっちは、カメレオンだってヨゥ!」

「安易だね〜君も。」

 初めは己の名があった。しかし星の獣だと認識してからは常にその名を名乗っている。

「オレという名は一番星!

他に名前なんてナイってモンヨ!」

「君もとかげ連中と変わらないね、結局は他の星の寄せ集め。ボツのキメラみたいものだ」

 「ナンだと?」「ンフフ!」

軽快な彼にもポリシーがあった。今まで力を吸って崩れていった星々を自分自身が照らすのだと。


「オレはみんなのスポットライトッ!

照らされ続けるスターなワケよ!?」

 「イイね、実験体に使おうか」

「サセルかよっ!」

研いだ爪と噛み締めた歯から斬撃を飛ばす。それを更に区分けにし、無数の刃が隙間なく放射される。

「スコルピオー?」「....ウン。」

毒の霧により浄化。

辺りには毒素が漂い蠢く。

「こりゃマズいゼ」

「死肉に群がる狼ですら悶えるだろう僕のスペシャルブレンドだよ?」

「ならこれだ、タイムクロックッ!」

 とけい座のタイミールは一定の間刻を操作し、動かす事が可能。

「毒霧の時間を早メテ無いコトニ!」

 毒の無い未来の世界へジャンプした大地は綺麗な土色をしていた。


「なかなかだね、面倒なくらいだ」

「なんだソレ、認めテンのか?」

「..ある種ね。」

 スコルピオの力はソルドが多彩なイメージを持つ為富んだモノが備わっている印象があるが実際は毒のみ。サソリとしての特徴的な武器が一つあるだけの獣だ。能力だけを見れば、誰よりもシンプルで単純だという事が解る。

「次は成長系っテのを見セテやる」

「知ってるよ?」

こぐま座→おおぐま座のように小さな過程から成長する星座の獣が幾つか存在する。


「イキナリ成長態から見てイイゼ?」

いきりたつ狂犬、おおいぬ座のゲイル

健在し、走り回る頃は手のつけられない暴れ者だった。

「オオカミと何が違うの?」

「ソレを言ったなオイ!」

以前から明確なタブーとされてきた疑問を軽々と口にした。科学者は真実を暴く人々、つい結果を急ぎ過ぎる。

 「噛むぜ強クナ!」

「モーションも同じ、何も変わりない

つまらないな...おすわり!」

ソルドの前でお預けをくらう。身体の自由が効かず、姿通りに従順となる。


「なんだオイこれェ!?」

「神経毒だ。

霧を晴らせば平気と思ったみたいだけど、外気に触れた時点で感染済みだよ

微量だから死にはしないけどね」

どうしても〝お座り〟をさせたくて、動きを止める程度の量に調節をした。

 「クソぅ..動けネェ。」

「さてここからは尋問タイムだ」

ソルドの質問コーナー!

 ソルドが聞きたい事を詳しい人に無理矢理聞いて一方的に納得する、超絶良心的な企画です。

「まず一つ目!

君たちが従っている存在は何?」

「答エルと思うカ」

「答えないと1分毎にアバラ骨をへし折っていくけど?」

「...大きな星座みたいなモンダ。」

 牡牛のケビンが言っていたように、急速に成長する星座。それが彼らの従う存在。


「2つ目!

それが最大になる時、何が起こる?」

「……。」「スコルピオー?」

滴る毒が地面を溶かす。

「待テって!

...多分、世界が終わる。」

「適当に答えてる?」「違ウッて!」

「正しくは、終わりの始まり。

新しい常識が始まるって感じだ」

 持ち前の不快なチャラ味は薄れ、毒に怯える爬虫類と化した。これも何かの擬態だろうか?

「..3つ目。

何でそれに、君たちは従ってる?」

先程までとは違い、これに関しては渋る事なく直ぐに答えた。迷いの無い、明確な答えがあるのだろう。

「アンタ達テイマーは知らないが、オレたち野良の獣ってのは散々でよ。いつ消えてなくなるかわからねぇし、何処で壊れるかもわからねぇ。」

 星座の獣は住処を決めて、そこに住み着く。それは性質によって大きく異なり、水の中や森の中、なかには土に住むモノだっている。


「みんな必死に生きている。人と共存し、協力して暮らすいいヤツだって大量に居る。」

だからこそ争いが絶えない、住処を確保し家族を守り、常に何かの為に命が削られていく。

「そんな生活を続けてると、皆思い始めるんだよな。〝こんな世界無くなればいい、消えてしまえ〟ってな」

 廃れ過ぎた世界はもう修復できないならば一度0にして、リセットしてやり直すしかないと。

「アンタらの味方もそうだ。

テイマー通しの触れ合いが窮屈に感じてたんじゃないのか?」

「..それが、従う理由かな。」

「ああ...そうだ」


「なんか、ありがちだね!」「は?」

口を掌で押さえ、ニタニタと顔を歪め笑いを堪える。

「一度世界をリセットしてやり直す!

今の世界で上手く生きれない奴らが新しい世界で何やるの、稲作?農家?」

 古い世界の思考停止亡者が求める新たな世界の展望が明確で無い為、笑い話にしかならないと冷笑する。


「だいたい皆って誰?

自分の以外の誰の事、連れてこいよ。

〝己の意見は皆の意見〟ですって?」

容赦ない罵倒、さんざめく悪口、気持ちいい程潔く性格が悪い。

「テイマーに拾われれば幸福だと思ってたりする?

..悪いけど、獣なんて道具としか思ってないよ〝みんな〟ね。」

生き地獄か人の道具か選べという話、

どちらも頭は働かず、思考は止まったままだ。

「なんだよ..ソリャあ...」

 カメレオンは擬態する。地面と同じ土色に、終わる前の世界の色に。


「思った通りだ、良く毒が回る」

微量な毒は、時間を掛けてやんわりと延ばしていく。

「ならイイゼ..お前のいうミンナの力

存分に使わワせて貰ウ」

部分変換、一部のみを擬態させ一度に複数の姿を借りる。

「逃げ場はナイゼ?」

 右腕に牡牛の槌、左腕に鳳凰の剣、尾が生え先端にはハート型の銃口が備わる。

「..これは本当にキメラだね。」

「ふんっ!」

ブルハンマーの地響きが足場を脅かすバランスを保たぬ内に炎の斬撃。

「単純だね。

折角のフルコースなのに」

「避けるツモリなのカ?」

銃口から放たれるLOVEが胸を射抜く

「くっ、動けな..」

斬撃は緩まず進み続ける。

「スコルピオ!」「....ウン。」

すんでの辺りで毒を帯びた尾によって蹴散らし、無傷を留めた。

「厄介だね、どうも」

「毒を、注入シテルのか?」

「...栄養薬みたいなものさ。」

 ラブアゲインの制限を毒で解除し、解毒剤を打つ。仕込んだ栄養源で体力を向上させ、毒は捨てる。

「最近研究室に篭りっきりでさぁ、ゴンゴン筋力落ちてるんだよね。だからいつもより、解毒に時間掛かっちゃったよ。ンフフ♪」


「知ルカよ!」地面を這い迫る斬撃。

「スコルピオ、やろうか」「....ウン」

 直線的な斬撃を素早く避けて一体化尾を銃として的を狙う。

「ロングスコープ・デスソルド」

サイレンサーに目を通し、遠距離からの毒放射。鋭く殺傷性を増し、威力は物理的にも弾丸に匹敵する。


「ブルハンマー!」

振り回す槌にヒットすると、毒は柔らかな液体に戻る。

 「反射」

フワフワと舞う液体がレーザーの様に細く素早く動き回り、角度を付けて周囲を走る。

「何だコリャあ?」「固まれ。」

反射する毒が一点にて収束し、一本の槍となる。

「...ん?」「いってらっしゃーい♪」

 槍は真っ直ぐにカメレオンの腹目掛けて飛んでいく。

「そういう事か..!」

シープの毛皮コーティングにより槍を包み凝固する。毛は徐々に色を変え、毒に侵されていく。

「キメラ相手に毒はキツいか...。」

複数の個体に同じ毒素は効かないと、配合を考える段階で解りきっている。

ならば残るは肉弾戦か、神経にアプローチを掛けるしかない。


「そうなったら僕一人じゃ無理だなぁ

あの子呼んじゃお♪」

このご時世にトランシーバーを取り出し何やら通信を掛ける。

「もしもし?

僕だよ、そう、僕。ちょっとこっち来てくれないかな、待ってるから。うんはい、は〜いじゃね〜。」

「……」

「今くるから」「友達カよっ!」

フランクに助っ人を呼ばれると危機感はまるで無い。そもそも危機だとは思ってないのだと思うが。

「そんな簡単に来るヤツはどんな..」


「お呼びてしょうか?」

「オマエかよっ!」「早いね。」

 真上から登場のストロングスタイル控えめだった頃が懐かしい。

「コーリンちゃんに格闘を任せるよ。

僕は姑息な手口が好きでね、ンフフ」

「了解致しました」

 コーリンバトルスタイル起動、キメラ相手という事で複数の常備。右スラッシュ左バルカン。脚は最速設定の上小回りの利くスナップ式。

「参ります、戦闘開始」

「結局相手はアンタかよ..!」

 ブルハンマーが唸る、武器のセオリーは「一撃必殺」。極限までに重さに特化し、打撃力に磨きをかけた。これは牡牛座の獣ブルモスの性質によるもので〝戦闘は悲惨なもので長引いてはいけない〟というあくまで穏やかな感性の元成り立った形である。


「フンッ!」「ブルハンマーですか」

 片手で軽く槌を支えて受け止める。元々ソルドは12星座をステータスにコーリンを改造したので扱われる武器は対策されている。

「使い方を教えて差し上げます」

 槌を取り上げ、腹を叩く。コーリンの腕力も相まってより重みを増す。

「ぐほっ..!」

「もうこれはいりませんね」

ブルハンマーを放り投げ、左腕にエネルギーを溜める。


「バルカン発射」「ヤラセるかよ」

とけい座の時間操作によりコーリンの動きを遅らせる。弾は発射されるが、カメのように緩やかだ。

「ここの対策はできてるか?

鳳翼剣、燃え潰れな。」


「デスバレル・ショット」「痛っ!」

 高速で放たれる毒の銃弾が燃えたような煙を上げて左の剣を腕ごと汚す。

「やってくれるな、バットボーイ」

「やっぱりだ。一度に時間を弄れるのは一つのみ、使いにくいよねそれ」

 遅れた時間が今戻る。弾は通常の速さで、叩いた腹を再び貫く。

「あっ..オチそうだわ、コレ」

己の酒に酔い過ぎた。騒いだ後の祭りの始末を考えないのがパリピの悪い所


「さて、色々と抜こうか。

コピー能力は情報の宝庫だからね♪」

 土に漸く膝を突き、首を垂れる男に液体を満たした注射針を向け首にあてがう。

「甘く見るなバットボーイ..」

「何?」「一角獣座」

掌から突出した長い角が、科学者を射抜き貫く。

「オレっちがキメラなの忘れたか?」

「..そうか...ンフフッ!」

不適な笑みはカラダを溶かし紫色の液体に変える。液体は角を伝い、キメラの全体を満たし覆う。


「なんなんだよ..コレェっ!?」

「毒分体って奴かな?」

「どっから話してる..オイ!」

さっきまで背後にいたスコルピオが割れ、中からソルドが現れる。

「ふぅ..」「お前、バケモノかよ..?」


「科学者だよ、見てわかる通りね」

「わかるかよ..。」

「さて、ここからが本番だ、ンフフ」

長らく溜めた情報を、残らず絞られる気の毒な話だ。

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