12の中の銀メダル
「こっちの方がラクそうだったから
こういう理由じゃダメ?」
「どっち行っても大変だよ。」
「やっぱダメなんだその理由じゃ..」
仲が良い訳では無いが何か近いものを感じてた。地味で目立たず、しかし獣は目立ち屋で出たがり。常にくたびれた顔をして下を見ている。そんな共通点が共にあった。
「カズキ言ってやれよ!
おれ達はデカくなんだって!」
「何で言うのよ..何デカくって?」
「デッカクなんだよ!
誰も文句言えなぁような強い奴だ!」
「今でも誰も言ってないじゃん..。」
「ケッ!なんなんだよソレ!」
冷めた口調で後ろ向きな発言はネガティブでは無くあくまで正論。自称での判断ではあるが。
「やっぱりだ、おかしいよ。
同じ感覚の筈なのにウチのライオンは外に出ようと言わなかった。そもそも知らなかったってのもあるけど」
「ソイツは意気地無しなんだよ!」
「チガウ、行く意味がナインダッ!
ミーは12星座、外にイッテモ12星座!
トゥエンティ中のトゥエンティ、なら何処にイッテモスターの筈サ。」
行かなかった理由はバカだったからだ
バカ中のバカだったのだ。
「もしかけしてさ、連れ帰ろうとか
思ってる?」
「いや、別にそれは思ってないけど。
そっちにいても多分良い事ないよ?」
「じゃあ戦おうか。」
「何でそうなるのさ?」
「コッチが勝てば無視、そっちが勝ったら戻るよ。それでいいでしょめんどくさいし」
やる気を出さない為の手っ取り早い選択として戦闘を選ぶ。根性論や感情論は存在しない。効率の良い選択肢としての決定だ。
「いいよねケープ」
「勿論だ、あの獅子公を殴れるならこれ程嬉しい事は無ぇ!」
「勝手に決めてるし..」
「オッケー!レディーファイだぜ!」
ゆるりと始まった戦闘は一体化すらせず背後の獣をぶつける喧嘩。テイマーはただ立ち、上の方で羊と獅子が殴り合いをしている。
「ウモウヨウモウお前とスモウ!
スモウといってもヒラテウチだゼ!」
「うるせぇんだよ少し黙れ!」
「ダマレナイナイ!
ミーが黙るとタダの獅子!
盛り上がらないとイミガナーイ!」
だからうるせえってんだ!」
シープの毛皮が腕に付着し凝固する。
「ナニコレッ!?
左腕がイシミタイ!ストーン!」
「少しは黙る気になったかよ?」
「でも大ジョーブ!吠えろ!
ハウリングクリーニングッ‼︎」
手に握るマイクから伝わる声が腕の毛皮を剥がし壊した。
「だからイッタロ黙れナイト!
ミーの歌はワールド掴むゥっ!!」
外に出ない獅子は世界志向だ。
コアなファンなら付きかねない。
「舐めてくれんなよ!」
毛皮で拳を形作り、飛ばす。同じ要領でマイクで伝わる不快な声がそれを弾き壊す。
「カバーソングをくれてヤルゥ!
パンチングミトン、イヤァッ!」
声の音波により同じ形の拳がシープ目掛けて飛んでいく。
「クソッ!」
大きな毛で拳を包み、結ぶ。中で音が広がり毛を轟かせる。
「ラチが開かねぇ、カズキ!
力貸しやがれ!」
「おい、ちょっと..」
「ジョージ〜?
ボディプリプリプリーズ!?」
「はぁ..マジでやるの。」
一体化をするとテイマーが主軸となり獣は一部になるが、武器や見た目のイメージは獣が先行する。つまり余計なイメージをもって召喚獣側がデザインを施せば、その通りになるという訳だ
「これかっこいいと思ってんの?」
「ダサいよ、少なくもこっちのは。」
腹に大きくLeo《レオ》と書かれたピチピチのコスチュームに、黄金のマントとヘルメット。一体化というより私物化である。
「メルヘンスタイルだね..」
「嫌になるよ本当..。」
これから戦うのだから尚更だ。
メルヘンカズキはハープを用いて毛玉を飛ばす。毛玉はハープとなったケープの意思感覚で形作られ飛び道具として使われる。対するヒーローもどきジョージはラジカセのスイッチを押し歌声を飛ばす。音波の形は毛玉と似通い歌われている歌詞の内容によって変わる。
「ロケット」「ロボット」
「ミサイル」「バズーカ」
「サメ」 「恐竜」
「ウミガメ」「メガマウス」
「スイカ」 「カモメ」
「メダカ..しりとりになってない?」
「石ころ」「まだ続ける?」
テイマーは出しているだけ、閉じた世界では恐らくふざけた獣がギャハギャハとはしゃいでいる。
「ルーレット」「回す」
「すごろく」「回す」
「コーヒカップ」「回る」
「観覧車」「回転する」
「何これ..ちゃんとやろうよ。」
「サイコメトリック砲T-80-3!」
かつて一国を鎮めたというあの兵器を歌った歌声が、カズキを追い詰める。
「え、急過ぎない?」
「ごめん、これが現実だわ。」
エネルギーを溜める。勝利の為に、栄光の為に。
「砕けろ、世界の為に!
みんなの未来の為にっ!!」
「何でそんな熱くなれるの?
ユルい感じだったじゃん今までさぁ」
「……」「おい。」
「………」「..おい」
「…………。」「おいっ!」
「発射ァ!!」「うわあぁぁぁ...!」
戦地に残るのは、つねに悲しみのみ。
わかってはいるが、慣れはしない。
「ほら、立てよ」「..いい。」
差し出された腕をふるい払う。
「かえって..くるか?」「.....うん。」
「カズキ..。」
➖➖➖➖
乙女座はロマンチストであり女らしいと聞かされ続けた。しかしそれは星座の話でありテイマーでは無い。ならばそのテイマーはいかなるものか。幼い頃からトレーニングを受け、格闘技に精通した強靭な女。女性らしさやロマンティックといった可愛げのあるモノからは程遠い、確固たるファイトスタイルを誇る人物であった。
「なんでアタシの相手があんたらなんだよ、シルマでも出せよ!」
「文句言うなよメスゴリラ!
こっちだって本意じゃねぇよ」
「誰がメスゴリラだオラァ!
だいたいテイマーどこいったんだよ」
天秤リブラスは変わった獣だ。
一体化といえばテイマーに重きを置き展開していくのだがてんびん座はまるで逆。テイマーであるジョロウがリブラスへ取り込まれる。リントとピューマの関係とはまた違い、テイマーが完全にいなくなる仕様だ。
「怒られたね」「うん、怒られた」
双子座の場合はまた異なり、一体化している間だけ意識が星座に取り込まれる。意識のみで体は残るので、足元に二つ程生気の無い人間が転がることになる。
「気持ち悪りぃんだよテメェら!
エンジェル、やるぞ」
「あら、戦うのね?
いいわ。虜にしてあげる」
カスミの一体化武器ラブ・アゲイン。ハート型の形、名前共に本人は酷く嫌っている。
「ララ、ルル、腕に乗れ!
丁度いい値の力を分けてやる。」
「うん!」「わかったよ!」
小柄な少女が左右の皿に乗る。腕は大きく傾き徐々にバランスを取り、中心で止まる。こうする事で二人のスキルは共に平等、同じ数値になる。
「いくよー?」「とんでけー!」
羽を器用に使い空を飛んで攻め込む。
通常であれば赤子のパンチだが、力を分けた両者の連携は計り知れなく向上しており、不意を突くのに長けている
「ララいくよー?」「ルルも!」
「させっかよ!」
ハート型の刃がルルを一撃。切り傷が赤く点滅し、身体の力が制限される。
「お前の体はアタシを好きになった!
もう危害は加えられねぇ。」
「ルルちゃん!」
「ララちゃんお願い!」「わかった」
ララがパチリと指を鳴らすと、ルルが気を失い倒れ同時にロンが目を覚ます
「あ〜..」「なんだよアレ?」
「そしても一度パチン!」
再度指を鳴らすとロンが倒れルルが目を覚ます。目覚めたルルの傷は癒え、赤い線も消えていた。
「どういう事だよ!」
「ローテーション制か、獣を寝かすとテイマーが起きる。逆にテイマーを起こすと獣が目覚める。」
「知らねぇよ、何だソレ!」
「え、知らないの?」
「はっ倒すぞ!
〝ご存知の〟みたいに言ってんじゃねぇ、誰もが知ると思うなよ。」
リブラスはわからない作業をどうやるのかと尋ねたとき〝普通に〟と答えるタイプだ。だから友達が少ない。
「感違いするなよ?
二つの力の同一化は双子座だから出来る事だ。力強く共鳴する二人じゃないと中々に出来るもんじゃねぇ」
「知るかよ!
聞いたときに話せ!」
「ワガママな女だなホントに。」
「お前が焚き付けてんだ!
もう許さねぇ、ならお前が受けろ!」
ラブアゲイン銃形態に変換、銃口から放たれる愛の放出「ギブミーラブ」。
「くお..!」
「当たったぜ、お前はもうアタシの支配下だ。言う事をよく聞きなぁ?」
ラブアゲインは基本的に傷を付ける武器じゃない。ただ一方的に、エンジェルを害する事が出来なくなる。
「さぁてと、ボコるとしようか」
暴力は専らカスミの所業。武器に頼らなくとも拳で充分モノを壊せる。
「大変だ、動かない」「動かせよう」
「邪魔だガキ共、殴られたいか?」
「助けなきゃ」「救わなきゃ」
「どきなよ、痛い目見るよ。」
見た目は筋肉の塊だが、チョコレートパフェと子供が何より好きだ。冗談でも子供を殴る事などしない。
「いつまでそこにいるんだよ!
さっさとどきな、邪魔なんだよ!」
「うっ..ごめん。」「許して...。」
余りの怒声に泣き出す少女達
「.....ごめん、言い過ぎたよ。
だけどここは闘いの場なんだ、子供が平気で来ていい場所じゃないんだよ」
「うんごめん、パチン!」
「だからあとは、パチン!」
「オレが相手をしてやる。」「な!」
他者の毒や異常を吸い取り、二つに分けて取り除く事が出来る。後は指を鳴らして再度戻せば元の状態にリセットされる。
「お前さっき、子供泣かしたろ?」
「うるせぇ!..勝手に泣いたんだ。」
「何だっていいけどやってみろよ
お前のクソパンチ、自信あんだろ?」
「上等だ..!」
異例のテイマーと獣のスパークリングが始まった。とはいってもカスミのパンチをリブラスが受け止めているだけ一方的な攻めに腕を返しているだけの動きだ。
「どうしたんだよ口だけかぁ?
それとも女は殴れないとか!」
「それも無くは無ぇ、お前顔は結構良いしな。」
「えっ..?
テメェ、バカいってんじゃねぇよ!」
自分の顔を余り意識して見た事が無かった。女扱いをされてこなかったからだ。
「あ、アタシ、可愛い..かな?」
「ああ、ブスでは決して無い。」
「う、嘘だっ!
アレだろ、腕を鈍らせようって嘘付いてんだろ!そうだ!絶対そうだ!」
「嘘は付かねぇ。
オレは口は悪いって言われるが、ホントの事しかいわねぇよ」
「あ..ありがとう...。」
「ほら、お返しだ!」「え?」
体中に衝撃が走る。巡るような痛み、刺激は徐々に強くなる。
「テメェ..何した?」
「お前から受けた打撃を纏めて身体に返した。本来ならばオレも同様に傷つくが、パンチは換算がしやすくてな、
自分へのダメージを中和できた。」
格闘家として膝を落とした事は一度も無かったが、初めて痛みを感じさせたのが自分自信の腕だとは。
「結局、嘘だったんだな..さっきの」
「よく確認してみろよ。」
「....!
顔に、痛みを感じない!」
ダメージを返す際、ランダムな箇所に与えられるが、それを意図して顔から避けた。
「言っただろうが、嘘は付かないってよ。良い女でよかったな」
「う、うるせぇよ..バカ...!」
正反対の星座に、意図せず近付いた。
しかしこれは性質ではなく本能、元より備わっている女の
「ガキは寝かしとくか。
てんで役に立たねぇし、置いてこ」
正直者は正義では無く人でなしだ。
➖➖➖➖➖➖
「オカエリナサイマセー!」
留守用アンドロイドキャサリンには手を施されていない。家にいる唯一の良心ともいえる。
「オウ帰ってキタカ新人ドモ!」
「うるさいわよインディアン達。
よく生還したわねあの傷で」
「オレたちゃ無敵ナノヨ!」
「ソウソウ無敵無敵、アハハハハ!」
「ハハハ、ご機嫌だね..」
「疲れを知らないんだな。」
少しは減るかと思ったが家の形態が変わる事で一人残らず息を吹き返した。
作業員には効率が良いが、戦力にはまるでならない。質より量のインディアン座、しかし何故か憎めない。
「コースケ一人で大丈夫かな?」
「彼女がいるから大丈夫でしょ。」
「まず命の問題は無いだろうな..」
偏見と憶測で話題を広げていると、入り口から賑やかな声が響く。
「ただいまー!」
「あの声って..」「来たわね」
「思ったより早かったか?」
カメレオン、及びとかげの殲滅。
街の残党処理、地域保全、様々な案件をこなしただいま帰還。
「オカエリナサイマセー!」
「おつかれさまです、キャサリン」
「コチラコソー!
ソトハアンゼンデスカ?」
「うん、多分もう家を襲う事は無いと思うぜ。」
「タスカリマスー!」
あとは星座の使い達、戻るか散るか流れるか。
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