住めば要塞

 「そりゃっ!」

鳳翼剣がペガスス座の天馬を斬っているのは訳がある。


〜数日前〜

「また遠出!?

一体何度行かせるのよ。」

「文句を言いたいのはわかるが基地を移動する箇所を確保したくてな。前のように街一帯が敵の住処という可能性もある。」

便利になろうと技術で出来ない事もある。労働などという太古の遣り方をするのは不本意だが、一時的な気の迷いだと割り切るしかない。

 「今回は実働隊に加えエミュールと

 サイが同行する。」

「余り頻繁に傷を負うなよ?

正式には治療ではないからな」

「12星座が同行かぁ、緊張するな。」

「そう?

アンドロメダのお姉ちゃんの方が強そうだけど。」

「治療なら我が可能だがな..」

「多い方がいいって事だろ?」

万能な鳳凰だが、一星座の獣という事で軽い扱いを受けている。

「お前も主人公なのに目立たんな..」

「ん、何か行ったかシエン?」

「いや、何でもない。」

不都合は炎で隠し、燃やすに限る。


「それでは出発だ、竜に乗ってくれ」

地域別の色分けはやめた。

脳波変換器を設置し、行くべき場所を感覚で暗記させ効率を効率を高めた。

この装置の便利なところは、例えば設定を「未開拓の地」とすれば、新たな場所に踏み込めるところだ。

「コースケ、これを」「なにこれ?」

腕にはめるバングルのようなモノを手渡される。

「そこからコーリンの通信を受けられる。何かあればここでやりとりしよう用があれば連絡する。」

「おう、わかった!

じゃあ行ってくるよ、射手座の人。」

バングルを光らせ竜に飛び乗る。目指すは未開拓の新天地へ

「...射手座の人って。」

仮にもテイマーの指揮者なのだが。

➖➖➖➖

 

 「はやっ!」「超加速機能だ。」

振るい落とされる焦りを待つ程勢いの滑空をみせる竜になんとかしがみ付きながら目的地を目指す。

「あの男、どこまで弄っているの!」

「僕たちも弄られてたりして。」

「...大正解だ」

エントには執拗に竜が懐いた。同じ匂いがしたのだろう。心なしか少し穏やかに飛んでいる気さえする。

『到着致します、下方を確認してくだ

 さい。』

「お、バングルから通信か!

なんか大地が見えてきたぜ?」

厳つい地面が足場として迎える、ここが「新天地」か。


 「何も無いわね。」

 「広いね、引越し先にはいいかも」

「有難う..また頼む。」

テイマーを送り届けた竜を一度帰還させ、調査へ入る。

「よっしゃ、行くかぁ!」


「何処に行く気だ?」「うん?」

前方に見える三つの岩の柱、その上に乗る影が声を発した。

 「進めば進めど大地が続く」

 「新しきかな品は無し」

 「オレは...特にない」

〝いきなり敵か〟特に嘆くのはエリン

実力に自信を持つ分余計に力を振るいたがらない。

「なんであんなとこにいるんだ?」

「目立ちたいんでしょ..下らない」

「やるか..」

「無視してもいいんじゃないか?」

「取り敢えず降りてきてくださーい」

何も無いと豪語する割には、目立つ高台を見つけたものだ。結果的にあだになり、手間になっているのだが。

 

「今いくぞ」

「待っていろ」

「そゆこと..」

素直に降りてくる。性格が良いのか馬鹿なのか、敵に回せばどちらとて厄介なあいてになりそうだ。

「ペガスス座」

「いっかくじゅう座」

「ケンタウルス座」

馬を模したものばかり、脚が多く合計で12本。星座に合わせてきたのか、煩わしい拘りを持つ。

 「よし、いくぞ!」

「早めに済ますわよ?」

「馬が相手かぁ、速そうだ。」

言葉を使われる前に戦闘準備を整えて口を塞ぐ、三竦みの獣がどれ程面倒か体現して心得ているからだ。


「鳳翼剣!」

「赤い翼の剣か愉しい余興だ」

天馬は空を駆ける。地を統べることは無くテリトリーは空、風を纏い脚を動かす。

赤翼一閃せきよくいっせん

 炎熱空羅」

斬りつけた斬撃に焔を帯び、飛び道具として飛んでいく。しかし相手は主戦場、翼で起こした大風が掻き消した。

「こんなものか、鳳凰とやらは?」

「まだ一発目だよ!」

「他の連中も苦戦気味だが..」

並びにケンタウルス、一角獣とエリンユウヘイが交戦中。


「すげぇ跳ねるなあの女..履いてるアレはなんだ?」

ローラーシューズなど、四足歩行の人もどきが履く訳も無い。

「まぁいいや、分身っと..」

「嘘でしょ増えた、まぁいいわ。相手をしてあげる」

ケンタウルスは何故か分身が出来る。暇を持て余し荒野を走り込んでいたところ徐々に増えていくようになったらしい。

「いち、にっ、さんし!」

「頭踏んで飛び跳ねてるよ、嫌な奴」

群れをなすケンタウルスを踏むことでヒット数を稼ぐ。一体化したエリンは跳んだ回数、距離によって蹴りの威力を増加させる事が可能だ。

「..なんか元気になっていってない?

マズい事したかもなぁアレ。」

変わって一角獣はぶつかり稽古、シンプルな取っ組み合いを繰り広げる。


「立派な鉤爪だ、惚れ惚れする。」

「君の角も相当だけど、ねっ...!」

おおぐま座の爪はコンクリを紙の如く斬り刻む力を有しているが、ユニコーンの角はいとも簡単にそれを弾く。少なくとも、コンクリ以上の硬度を持つ角を携えている。


「赤翼十字炎筒!」

十字の斬撃が対象物に触れると拡散する。しかし当たったのはやはり風、中々肉を裂く事は出来ない。

「ラチが空かん、そこにいろ!」

一体化では及ばないとシエンが身を晒し風の中へ。

「お前が鳳凰か、初めて見る。」

「初めで最後だよく拝め」

焔を集め、放出。一帯の風は赤く燃え上がり熱を噴き上げ天馬を裏切る。

「焦げろ馬もどき。」「甘いな」

熱波の竜巻が断ち消え、青い空を見せた。豊富なコントラストが良く翻弄をかましてくれている。

「風は支配下、生かすも殺すも自在なり。勝ち星は消えたな」

「くっ..やりおる。」

悪循環は更に連続していき..

「162ヒット!あとは本体に一撃よ」

「マージかよ..。」

オリジナルの姿が消える。落とされたかかとの一撃は止められる筈も無く、硬い大地に打ち当たる。

「嘘..?」

「残像でも分身が作れてさ。結構手間かかるんだけど、上手くいったわ」

足を損傷し、ウサギの根源を失った。

「エリンサマァ〜!!」

「しくじったわね..」

圧倒的に威力が足りない、機転が足りない、しかし工夫の仕様が無い。


「穿て!」「ハーイ!」

「ベアクル、大丈夫っ!?」

鍛錬はしたが実績が少ない、ならば解決は簡単だ。

『コースケ様方交代です』

「は、交代っ⁉︎」『送信します』

電波を送るように、三つの情報が転送される。


「強くっ!」

「優美にっ!!」

「潔くっ!!!」

三バカ修行パックお助けエディション

と書かれた段ボールの中から見覚えの有る振り切った個性の厄介者達が声高らかにポーズを決める。

「なんで急にコイツらな訳?」

『人数も丁度良いですし、タフなので役立つかなと。戦闘は彼らに任せてお三方はリント様とサイ様の後を追い環境の保全に努めて下さい』

事前に二人は戦闘を預け調査に向かっている。際立った連絡が無い事から異常は生じてないとは思うがそれよりも此処を奴等に任せて無事かという事。


「コースケーッ!」「う、何!?」

振り向くと満面の笑みでサムズアップのポーズを取っていた。

「いつからオレの名前知ってんだ?」

「さぁな、気に入られているぞ」

共闘など間違えてもしたくは無い、戻れば親友のように扱われる。

「行こう、シエン」「いいのか?」

遠くから自然と他の二人も距離を開けるのが見えた。同じ理由だろう、相手の三竦みも厄介だが、味方を名乗る三人は規格外。拳を交えたが最後二度と顔を見たくなくなるだろう。

彼らの名はオリオンズベルト、揉めに揉めたがオリオンが無理矢理名前を組み込み完成させた。故に本人たちは余りこの名を名乗りたがらない。


「何者だお前たち..」


「オレたちはっ!」

「何者であってっ!!」

「何者でもないっ!!!」


「..だからなんだ」

「答えになってねぇよ。」

➖➖➖➖

 「異常なしだ。」

 「こっちも特に..」

サイは地質調査を、リントは安全確保にそれぞれ勤しむ。

「リント、これを見ろ」

ピューマが脚を走らせた先に、人のものではない足跡が付いていた。勿論ピューマやエミュールの足でも無い。

 「何かいたのかな..?」

「わからない。だが形跡はここに」

「エミュール、調べられるか?」


 「時間かかるよ。」

水瓶座の水面に映した場所やモノの時間を過去に限定する形で変化させる事が出来る。足跡をスキャンし数分前を映像で、水面に表示。

 「出来た、ほら」

「これは...獣か?」「大きいな..」

尾の生えた大きな顎の獣の影が人らしきものを肩に乗せて歩いている。

「テイマーなのか、まだ此処にいる」

「それは無いと思う。

もしまだこの地にいるのなら、派生してこのデッカイのが詳しく映るから」

映像として残す場合、一番新しい記録が再生される。残されたのは足跡、映るのは足跡の新しい過去だ。

 「地面の質は随分と硬い、足型が付

 くとすれば相当な大物だな」

「拠点を置くなら..早めがいい。」

➖➖➖➖➖➖


 「ジャンピングキーックッ!」

跳び上がり蹴るだけの攻撃。風に飛ばされ当たらず着地。

「ローリングチョーップッ!」

回転し、手刀を打つだけの攻撃。風を巻き込み飛ばされ終わる。


「馬鹿にしているのか?」

「するわけないダロッ!

リスペクトしてるわっ!

尊敬は別に全然してないケドッ!」

否定、肯定、否定のリズム。

真に受けて聞けば不協和音だ。

「もういい、鎮まれ」

風が渦を巻き槍のように鋭く穿つ。

「え、なにすんのっ!

なにすんのそれでねぇっ!」


「大栄の連牙たいえいのれんが

回転を加え、風が一斉に貫く。

「ギャアッ〜!」「終焉だ」

「でもそのくらいっ!」「...何?」

身体をパンプアップさせると風の槍が掻き消える。傷は多少付いてはいるが悶える素振りはまるで無い。

「牙を向いてもかじれないっ!

オリオンさんは苦いんだぜぃっ!」

オリオンは無能力。

強いてあるとすれば、何をしても死なない事だ。


天馬と似て非なるもの、いっかくじゅう座のユニコーン。硬く鋭い角を持ち破壊を止める事は出来ないという。

 「サメという生き物は四億年という

 長い間形を変えていないという。」


「...それが何だ?」

「つまりっ!!!

四億年の間形を変えるほどの天敵に遭遇しなかったという事だっ!!!」

備えずとも勝てた、故にそのまま過ごし続けた。こんなにも簡単な事を、彼は大声でしか言えないのだ。

「その鮫の進化論とやらが、今後に影響するとでも言いた気か?」

「かかってこいっ!!!

その角で変化をさせてみろっ!!!」

ラグビーのブロックをするように手を広げ深く構え、無防備に突進をせがむ


「馬鹿も大概だな..後悔するなよ?」

「こいっ!!!」「ふん!」

鋭利な角の豪速突進、それを正面で待ち構える。正に「無謀」の二文字。

「砕けろ、目の痛い鎧と共に..」

「そうはいくものかっ!!!」「何」

カジキの鼻を持つように勢いを纏う角を利き手で掴み、片方の腕で胴体をがっしりと捉える。

「ふぎぎぎ..ぎいっ!!!」

握る腕を前に倒し、角を折ってやろうと試みる。

「どこまでも無謀な奴よ、我が角を素手でへし折ろうとは...。」


「へいっ、折れたっ!!!」

「うそっ..!?」

いとも簡単に折れてしまった。ヘラクレスは知恵の代わりにパワーに全振りしている。よって常識や逸話、その辺りの伝説などはまるで意味を持たない

「は、は..はんっ!」

破損口を整え改めて角を生やす。

「おお、生えるのかっ!!!

それにしても角はマズいなっ!!!」

無味無臭、硬いだけの角をかじって歯を痛めている。再び生えた角は硬度を増し、強くなるという。

「さぁて二回線といこうっ!!!」

「額が痛む、お前だけは許さん。」

◾️◾️◾️

 「そいそいそいっ!!

 そいそいそいそいっ!!」

長く延びる蛇刀じゃとうに貫かれ複数のケンタウルスが縫われたように突き刺さる。


「全員整列っ!!」

一気に引き抜くと、気をつけを、したように同じ顔が真っ直ぐ並び、消える

「うっわキモ..。

なんでこんなんばっかり相手なの..?」


「それはお前がぁ〜っ!!」

「聞いてたのかよマジ何..?」

 「ケンタウルスだからだぁっ!!」

横暴な理由ワケにまともに付き合うべきじゃない。考えず、感じずだ。

「...痛っ。」

乱雑に伸ばした刀身の先端が頬に当たり表面を傷付けた。

「痛いの好きじゃねぇから隅にいんのに、もう許さねぇ..!」

激昂し身体の上下を入れ替える。上部が馬に、脚が人間に。


「覚悟しろよ、テメェ..?」

「...うわ、気持ちわるっ!!」

裏の顔は恐ろしいというが本当だ。鮫も変化を求める脅威を持った代物だ。

「ヒヒン」

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