惑星墜ちれば..。

 帰還後、報告と共に多くの衝撃に駆られた。作業の獣は大幅に減り、活気よく飛ぶ竜もいない。茶色い基地は、古ぼけたゴミ箱のようだった。

 

 「シルマさん、これは。」

「..見ての通りだ

行っている間に狙われた。」

侵入者がいた事、12星座の内5人がそれを追いに外を出た事、全てを知らされた。

「向こうで..とかげに襲われた」

「...そっちでも足止めを食らったか」

「コースケ達三人は眠ってて、アンドロメダのお姉さんと二人で戦った」

「コーリンが戦闘を?」

「珍しいナ!」

「もういい、静かに休め。

寝室はなんとか使える」

エミュールがせめてと寝床だけは作ってくれた。治ったのは、本当にそれだけだ。


「コースケ、奴は今どこにいる」

「コーリンさんか?

途中までオレと一緒に居て、会議室ここに来る前に白衣を着た男が是非治療したいってさ。」

「白衣の男?本当か!?」

「うん、肌の真っ白な変な匂いの人」

「やったな、お前..」「え?」

「原型留めネェヨ」


研究室

「ン〜フッフ〜♪

ンッフフッフンフン〜♪」

いつもと異なる工具の音が響き、暗い部屋に明るく火花を散らす。

「立て続けにモノを〝イジれる〟っていうのは嬉しいなぁ、ンフフ!」

鼻歌をいくらうたおうと、器具に紛れて聞こえない。独壇場で絶好の場所。

 

 「ねぇどうする?」「なにがよ。」

「居ない間にこうなっちゃって、僕たち行かない方が良かったかな」

自責の念に駆られ、還ってからというもの反省を繰り返すユウヘイに呆れ気味のエリン。

 「行けって言ったのはアッチでしょそれに残ったところで何ができんのよ

そもそもわたし達関係ある?」

「わかんないけど..。」

12星座の分散が目的だとすれば、邪魔な余分を削いでおいた程度の事だろう

しかしこれでも行くべきでは無かったと頑として言い張る。


「あぁもう煩い!

今言っても遅いわよ、おやすみ!」

しっかりと眠ったのに、道中で疲れているのだ。

「ああ、ちょっ..!

行っちゃった。あんか言い方しなくてもいいのになぁ...」

「ハーイ!」「ベアクル。」

環境や状況が変わっても、こぐまは呑気に踊っている。

「お前だけは味方だな」「ハーイ!」

頬に寄り添い無邪気にじゃれつく。

➖➖➖➖

 一足先に部屋にて休むエントはピューマを解放し、壁を見つめていた。

「どうしたエント。」

「...信じられるか、ピューマ。

この壁の向こうは抉れて傷が付いてるんだぞ。」

「さっき見てきただろう?」

「確かに見てた、だけどこうして壁を隔てるとそうは見えないんだ。」

「ああ..そうだな」

はたから見ればおかしな会話だが、砂漠で生まれ育ち飢餓に苦しんだエントにとってそれは新しく、新鮮な事柄の一つだった。ピューマはそれらをエントが触れ、知っていく事を嬉しく感じている。


「エント、言われた通り今は眠ろう。

目覚めたとき、外は綺麗だ多分な」

「そう..だといいけど。」

問題は時間が解決するという事を、今は静かに覚えている。

➖➖➖➖➖➖

 「まさかここを訪ねる日が来るとは

 な、考えたくも無い。」

「サッサと終わらせチまオうゼ」

白い扉と壁は嫌な顔を連想させる。同じ色をしているからだろう。


「キャンサー、やってしまえ..!」

「はいヨ。」

扉に向かって流水攻撃、しかし傷一つ無い。さすがの変態。12星座対策もバッチリという訳だ。

「なに〜?今忙しいんだけど〜?

ていうか宣戦布告なのそれ。」

上部に設置されたマイクから声だけが響く。

「頼みたい事がある、早急だ」

「..様子がヘンだねぇ。

長引かせると面倒そうだから聞いてあげるよ。そこで待っててくれるかな」

数分待ち、扉が開くと含んだ笑みを浮かべる科学者の姿が現れる。

 「なに?」

「玄関対応か、好待遇だな。」

「普通自分の家に人なんて入れないでしょ、モルモットなら別だけど」

「下衆が。」「どうとでも♪」

言葉を増やせば増やすほど苛立ちが募る。これ程効率の悪い男もいない。ここに来たのはズバリ櫓の修理及びセキュリティ強化の要請なのだが大きな難が存在する。


 「嫌だ。」「何故だ」

 興味を持った事柄以外は手を付けない自由で身勝手な性質を持つ事だ。

「どうせまた攻め込まれるんだ、リフォームなんてしたって無駄でしょ?」

「今必要な事だ。」

「僕には必要ない、やりたい事だけやるって決めててね。君だって押し付けられて嫌々頼みに来たんだろ?」


「仕方ない..」

「やめときなよ

僕のテリトリーの前だよ?」

最終手段召喚獣を使う事も考え試みたが、先に潰されてしまう。

「久し振りジャねぇカ、蠍ィ..」

「......ウン。」

並んでいると、よく似ていると揶揄われた。それから両者は犬猿の仲だ。

「櫓は嫌だけど..セキュリティは可能かも。まぁ焦らず待ちなよ、このままこうしていたら...君が僕を壊しかねないからさ?」

挑発のつもりか注意喚起かどちらにせよ「はやく帰れ」と言っている事に違いは無い。

「..嘘はつくなよ」「考えてみるよ」

マトモに相手をするべきでは無いとわかっている分信用が出来ない。しないのが正解なのだろう。

「ふぅ..さて、続きやろ!」


元会議室

 「...あ、シルマさん。」

 「お、帰ってきたか」

星座が減少してから指揮者は正式にジェイビスとなり、崩壊した現状を嘆いていた。

「どうだった?」

「想定通り、だがセキュリティは引き受けた。」

「引き受けたのか..!

充分な収穫じゃないか。」

「そいつ、大丈夫なのか?

コーリンさんも、そこにいるんだろ」

「..わからないが今は頼れる技術者が彼しかいない。」

「……」「どうしたシルマ?」

シルマにはずっと疑問があった。侵入者に襲われたときの事だ。

「一度カメレオンの様な男と争った事を話したな」

「ああ、聞いた。それが何だ?」

「奴を追い払おうとしたとき、放ったキャンサーの流水を避けた。その時に穴が空いて外に逃げられた」

「シルマさん家壊したの?」

「気にするな、戦闘中の事故だ。」

「違う、疑問に思わないか?」

別の箇所に空いていた穴もそれと変わらず殆ど同じ形状だった。つまり櫓に出来た傷跡は〝全て内側から付けられた〟という事になる。


「内側..⁉︎

複数の敵が既にいたという事か?」

「エミュールが修復出来ない訳だ、記録の無い傷跡を治せる訳が無い」

「カメレオン、とかげの仲間かも。」

▲▲▲▲

 「ウエェ..派手にやったなぁ!」

 延びるとかげを蹴飛ばして派手な出で立ちの男が感心する。

「さっすが、ブラザーだぜ..!

オレっちも頑張らねぇとな、お友達も増えた事だしヨウ!?」

人の姿を剥がし、カメレオンの姿を晒す。ポリシーかサングラスは付けたままだ。


「さぁて行くぜぇ?

モノホンのアァジトへ..!」

▲▲▲▲▲▲

 テイマーは困惑していた。悲惨な現状にでは無く新たな実験結果に。

 「見たまえ

 これが新しいアンドロメダ座

 コーリンオブザデッドだっ!」

死人のような名前、怪しげな雰囲気。見た目は全く変わらないが、確実に中身がヤバい。


「お前..!

 お姉さんに何をしたっ!?」

「おや、モルモットくん。

久し振りだね、生きてたんだ」

デリカシーが無い、モラルも無い。

「治療してくれたのは有難いが、おかしな真似はしてないだろうな?」

「本気で言っているのかな、僕が人道に反した男に見える?」

「見える。」「まんまよ」「外道。」

満場一致で下衆認定、人気者だ。


「目で見て確認してよ。

 ほら、挨拶して?」

アンドロメダが、今一度息を吹き返す

「皆さん、おはようございます。

 ご迷惑を..ガガッ...おかけ..し...ガ」

体調が余り優れないのか咳をしている季節の変わり目は気をつけたいものだ


「それと、セキュリティの事だけど」

 ちょっと待てぇっ!」「何?」

「何じゃないだろ変な音鳴ったぞ!」

「不具合よね、今の不具合よね?」

「やっぱりお前何か施したな!」

やいのやいのとノイズに群がる蝿がうるさい。羽音が不具合を超える。


「落ち着いてくれるー?

今近くの磁場を拾ってるんだよ、彼女は新しい守護設備だからね。」

「守護設備ってもしかして、コーリンさんをセキュリティにしたのか!?」

「うん、そうだよ♪」

デリカシー無し、モラルは皆無。

「面倒だからざっと説明するよ」


チンパンジーでもわかる

コーリンオブザデッドの性能。


情報提供の適切な範囲を自動設定可能

不備なく全てを教えます。

弾丸、危険な飛び道具等は判断の上レーザーで撃墜。

戦闘スタイルが正式にセットアップ。

連射タイプ、斬撃タイプ多種多様


「その他諸々新たな機能が充実してるけど、みんな猿でもわかる仕様だから凡人の皆様でも簡単に..」

「……」「何?」

「まるで別モンじゃねぇかっ!!」

新機能に群がる蝿たち、新しいものを認めない古い感覚も尊敬し難い。

「お前、こんなものの為に櫓の修復を断ったのか..?」

「違う、それはもう出来てる。」

「出来てるだと。

エミュールでも治せないんだぞ?」


「治すんじゃないよ。

言っただろう〝出来てる〟って」

コーリンの背側でタッチパネルを動かすと、完全に櫓が打ち壊れ、原型を無くす。

「家が無くなったぞ!」

「自爆スイッチ?悪趣味過ぎます!」

「黙って見てなってうるさいなぁ。」

まっさらな床から合金が延び、壁をつくり屋根をつくり建物を形成する。

「はい完成。どう?」

「すごっ..」「ワオ!ミラクル!」

「びっくりだ。」「わ〜い」

「..こんな事が、嘘だろ?」

「いいじゃないか!これなら崩れなら多少じゃ崩れない。」

超合金製、硬度抜群、防御性を最大に捉えた要塞基地だ。

「..ふん。」

「気持ち悪いけど、僕の研究室と同じ素材だよ」

守備に関する事は完璧だ、だが問題無くなった訳では無い。


 「だけどこれ目立ち過ぎねぇか?

 直ぐにバレちまいそうだが..」

「いい質問だねてんびんのカイブツ、

そこは安心していいよ。中の人員についてもね」

外部にばれ目をつけられた場合、基地を丸ごとコーリンに収納する事が出来る。テイマーや獣が中に居る間、外部の者だと判断されない限り傷や容体は死に至る致死量では無い場合、修復され続ける。

「傷を癒してバレたらしまう。どこでも住める移動式基地という訳さ」


「スッゲー!

シエン、もう寝込まなくて済むな!」

「余計な事をいうな。」

「キミイイネ!

イカスよそのアカイ翼ッ!」

「こーらレオキン絡まないの..」

「何スル離せジョージ!

彼とはナカヨクできソーダッ!」

「頼むから目立たないでよ

..ごめんね。」

地味な青年がパリピライオンを引き摺って謝る、ライオンは泣きながら抵抗している。

「なんだあいつは..」「面白い奴!」

見渡せば色々な奴がいる。12星座はシルマ以外接点が無かったが、全員と付き合うと疲れそうだ。

「ハーイ!」

「あクマさん」「ホントだクマさん」

「ベアクル待って!」

はしゃいで走るこぐまは良く前を見ず前方の眼鏡の少女にぶつかった。

「あ..」「あ!」

「ハーイ!」「ベアクルこらぁ。」

しっかりと叱りつけ、少女に謝罪する

「あ、いや..こちらこそ...」

「かわいいね〜。」「ハーイ!」

直ぐに傍のフラフラした少女がこぐまに気付き頭を撫でる。

「あ、ロンちゃん..」「わ〜い。」

まさか彼女達が12星座だとは思わないユウヘイは少なくとも気付かない。


「そうか、君が実働隊のリーダー!」

「そう、エリンとバニー!」

「ワレラガリーダーデアリマスー!」

「平気な顔して嘘付いてる..」

「君は誰かとつるまないのかい?」

「余計なお世話だ、外道..!」

「こちらこそ♪」


「全員馴染んデるナ!」

「..知った事か。」

➖➖➖➖➖➖

 とある鍾乳洞

 「チッチチーチッチチーチッー!

 おら着いたぜお前らサン!」

「だだの洞窟だっ!」

「これからどんどんデカくなるって言ったろ。」

「これで三度目だぞ」

「ちゃんと話聞けっての!」「暗...」

獣が大きく口を開けたような洞穴は、月を巡る度大きく城のようになる。

 「まったくビビるぜ、アンタらがコ

 ッチ側来るとはナ!」

「元々誰の味方でもないわ!」

「リーダー気取ってた癖にずっと。」

「今でもそうだろ」

「リーダーなんかいないだろが!」

「それにしてもバラバラだなオイ。

見ろよ、オレらのボスだ。まだ眠ってるけどな!」

鍾乳洞の奥で寝息を立てる大きな何か暗がりでよく姿は見えないが、忠実を誓う程の存在らしい。


「やっぱりコッチについて良かったなカズキ、凄い事ンなるぜ?」

「ホント..大変な目に合いそうだよ」

群れを離れたヒツジは此処で新たな群れに迎合する。

「そういやぁアンタら名前が付くぜ?

 竜骸護衛団りゅうがいごえいだん、新しい組織の名前だ!」

拳合わせずブラザーに。

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