調査開始2

 「それでは頼みました、二代目アンドロメダ座キャサリンさん。」

 「ハイ!ドウカおきをつけテ!」

コーリンと共に外へ出た。向かったのは賑わう街道の商店街。


「人が住む街なの?」

「はい、テイマーではない一般人が住み楽しむ地域なのですが、少し違和感を感じるのです。」

「機械でも感じるのね、これを」

「僕達はずっと感じてるよ」「狭..」

ひしめく人々に敷き詰められ、顔を変形させ悶えている。機械もびっくりの人混みというワケか。

「違和感って何だよ?

どう見ても普通の街だと思うぜ。」

違和感を感じない猛者が一人、無理もない。挑戦的なバカは全環境を領域テリトリーとする。

 「普通、つまり綺麗に残り過ぎてい

  ると思いませんか?」

周囲は獣がわんさか、整備や保全など皆無で危険と隣り合わせ。にも関わらずこの街は一切被害に遭っておらず、賑やかで平和なままだ。

「それに街の方々はどう見ても、作り物の笑顔が顔に張り付いています。」

「アナタ、そういうのわかるんだ」

「以外にドライだよね..。」

真実を判別する機能に、どうしても感情が乗っているように思える。


「集団でこの辺りに待機し、数人を櫓へ送り込む。だとしたら都合よく尚且つ姿も隠しやすい。」

「だけどそれだと..ここが基地だって態々教えているようなものだ...。」

「確かに。」

「流石野生児、見方が違うわね」

「ここに来ればよかったのか..」

「もしかして

砂漠にいた事後悔してる?」

あれ程欲しかった豊満なリンゴがずらりと並んで売っている。場所が違えば価値観は、大きく変わるのだ。

「あの先どうなってるんだ?」

少し先に目をやると人混みが切れる箇所がある。線で区切ったかのようにすっぱりと、その後はまるで音がしない

「..やはり何かありそうですね。」


「あれ、見ない顔じゃん?

お客さんでしょ、じゃなきゃこんな静かなトコまで来ないよね!」

「誰よアンタ?」

人混みを完全に抜けた先で陽気な男に声を掛けられる。軽快だが酔っている素振りも無く、素面の状態で全開に崩れきっている。

 「オレっちは...まぁ名前はいいじゃ

 ないか、気にならないでしょ?

ちょっとした案内人みたいなもんでさ

皆んなで泊まる宿なんて必要でしょ」

「宿..あぁ成る程。」

言われてみればそこかしこの建物の前に「Hotel」といった看板が。

「寝床がある...嬉しい」

「やっぱり砂漠を後悔してるのね。」

「宿泊先の確保は有り難き気遣いです

 感謝致します。」


 「いえーえ〜..いいって事よ、この街にいる時点でお前らはブラザーだ」

派手な色の歯を見せながら拳を突き出す。理解し難いが、ここに拳を重ねると、事実上兄弟になるらしい。

「ありがとうな、おじさんっ!」

「おうよ、元気なマイブラザー!!」

拳を合わせ名字は同じ。

➖➖➖➖

 「ご苦労エミュール。」

 水瓶座の獣エミュールにより会議室に空いた穴が修復された。


「治したっていっても壊れる前の状態に戻しただけだから、次壊れても元には戻らないからね?」

水瓶に移した壊れる前の状態を、今に移し替えた。映る状態は更新されていく為今水瓶に映るのは、無様に壊れた壁の姿。

「ああわかってる、一度治せば充分だ

手間をかけさせて悪いが他の四箇所もお願いできるか?」


「え〜..。」「いくぞエミュール」「真面目だなサイ、行くんだ。」

エミュールはサイとの一体化を嫌がる規律を守りテキパキと動こうとするからだ。

「直ぐに終わらせるぞ」「マジで?」

「修復は一先ず済んだ。

あとは対策だが、どうする」

「..いちいち何故俺に聞く?」

「ああすまん、ついな。」

歩み寄るほど距離を詰めないシルマは余り周囲に言葉を返さない。だからこそ背後に蟹が居る。

「アノ野郎に頼むシかねぇンじゃネェのカ?」

「あの野郎ってまさか..でも確かに」

「一発勝負ってのもアリだよな?」

「アローズ..君もそう思うか。」

射手座の召喚獣アローズが勝負師の感性を研ぎ澄ます。


「それは良く考えた方がいいなぁ..」

「リブラス、なんだ怖いのか?」

てんびん座はバランサー、危険な話に疑問を呈し、滞りなくする調節士。

「櫓全体を任せたら巨大なアイツの研究所になっチまう。もし力を借りるなら、アンドロメダに一工夫でもして貰ってセキリュティを高めた方がいい」

 「成る程な、流石てんびん座。

  間を取った解決策が思い付くな」

「ま、相手がド変態だから何されるかはわからねぇが。反吐が出らぁ」

「お前クチ悪いナ!」

舌が毒の風呂に浸かっているのがたまにキズだ。

➖➖➖➖➖➖

 ホテル・ベガスター

 「よしチェックイン終わりだ、ここ

 なら快適に寝られるぜ?」

借りた客室は二部屋、エリンは女性という事もあって始めは駄々をこねたが

同部屋をエントにする事で落ち着いた

理由は〝そういう文化が確実に無いから〟らしい。


「それじゃオレっちこれでオサラバ」

「色々ありがとう!」

「気にすんな、困ったら声掛けろぉ」

親指を立て挨拶をした後スケボーをはしらせ、人混みへ消えていった

「良い人だったね。」

「そうかしら、わたしは苦手

さっさと寝ましょ、移動で疲れた。調査はその後よ、日没頃にまたね」

日中は街を見て廻ったが、違和感のみでこれといった収穫は無かった。

 「..ピューマ、部屋にいこう」

「ああ、私は姿を閉じておく。」

「あれ待てよ、四人で二部屋っていうと..コーリンさんはどうするんだ?」

五人では数合わせが悪く、既に四人で部屋を取っている為確実に余る。

 「私は結構です、眠るという機能は

  備わっておりませんので。」

ロビーに待機し、起床を待つという。

「それでは皆さん、おやすみなさい」

➖➖➖➖➖➖

 シルマが森へ行ったのは気まぐれだった。鳳凰など興味は無かったし、テイマーを増やす意味合いでもない。コースケは偶然に過ぎずついでの増加でしかなかった。

 「それが一体化までするとはな」

「なんだ、アイツが心配かヨ?」

「..逆だ。

一体化まで覚えれば最早伸び代は無いただの一般テイマーだ」

「なんだソれッ!」

「行くぞ、面倒だが何が起こるかわからない。」

「はいヨ!」

この男は何故パートナーに蟹を選んだのか...。

➖➖➖➖➖➖

 日没、テイマー達は召喚獣をしっかりと閉じて眠りにつく。

「…さて、いきましょうか」

明るい月に機械音が映える、起きる素振りの無い味方を置いて、向かうは賑わいを失った夜の商店街。

 「この辺りでいいでしょう」

あかりの灯る店の外壁に手を当てて範囲を設定する。

「少し、情報を頂きます..。」

電子知能から、中の音声を映像の様にデータとして流す。


「これは..何の音でしょう。

 札束、いや...カードゲーム?」

トランプのカードらしきものを配る音と僅かに液体の流れる音。どうやら酒を飲み、博打に耽っているようだ。

「他に何か情報は..?」

耳を壁に当て、より鮮明な情報を受け取る。何かを大声で話している。


 「勝った方が酒を奢る、いいな?」

 「タダ酒は美味ぇからな!」

貧乏くさい賭け事のルールを語り、その後ゲームに入ると話題は近況へと変わる。

「そういえば余所者が来てたな、アイツらどうだ。」

「ダメだ、櫓から来たテイマーだとよ

下手に相手すりゃオレ達が脅かされる

また隠れて飛ばすしかねぇよ」

〝隠れて飛ばす〟何かの隠語だろうか

そのままの意味であれば色々と分かりやすい解釈ができる。

「何枚か噛んでいそうですね..」


「あともう一つ気になる事があってよ

言ってもいいか?」

「なんだよ」

「外からオレ達の話聞いてる奴、一体何処のどいつだよ。」

「...!?」

気付かれていた、注意を払ったつもりだが既に筒抜け。ホテルから出た段階で、隠密など可能は箇所は一つも無かった。

「出てこいよオラァッ!」

拳一撃で壁を粉砕、盗み聞きの姿が晒されコーリンは硬直する。

「女一人?

テイマーじゃあ無さそうだなぁ。」

「……」

日没の街人とは初対面だが、驚くべきは〝人では無い〟ということだ。

「爬虫類に近い体表、生物、それがあなた達の正体ですか?」

「..お前こそ何もんだ。」「...!」

博打をしていた酒場は完全に展開し、同じ顔をした大勢の緑の爬虫類がコーリンを囲んでいた。

「とかげ座の群生、成る程

 しかし変化する力は無かった筈。」

「よく知ってるじゃねえか。

喰われて壊れちまいなぁっ!」

「戦闘態勢、モード阿修羅

 獣を除去致します。」

メイド服が収納されスマートなフォルムに。

「夜明け前に終わらせましょう。」

月は沈んでいたが、機械は未だ音を鳴らし続けていた。

「良かった念の為に皆様を寝かせておいて。」

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