侵攻の予兆

 「そこっ!」「ふん。」

「当たらないっ!

 燃えないっ!

 そして熱くないっ!」「なんで?」

焔の大きさを絞り、尾に乗せて撃ち込んでみるも効果なし。工夫や形状では無く、何か根本の部分が違うようだ。

「焔じゃダメだって事か?

だけど普通熱がってたしな。」

熱い以外のプラスアルファが必要なのは理解出来た、問題はその先だ。


「わかんないっ?でも教えないっ!

自分で考えるんだなっ!」

 「..ふむ。」「何、シエン?」

「一つ疑問に思っていた。

 奴は何故武器を持たない?」

「馬鹿にしてるんだよ。

〝武器がなくても勝てる〟ってさ!」

「本当にそうか?

奴は鍛錬の獣、何かの暗号では..。」

「暗号...ヒントって事か?」

単純に素手が強いなら、既にシエンらを倒している筈。それをせず煽りを見せているという事は、少なからず無駄な猶予を持たせている事になる。

「一度考えてみろ、コースケ」

「考えるったってさ、何をだよ?

相手は武器を持ってないんだろ..。」

蹴りや殴りの打撃を炎で防ぎつつ、コースケに考える時間を与える。


「ほいさっさっ!」「ぐう..!」

「武器を持たない..武器を...ん?」

「わかったか!」「いけるかも。」

閃きを動きに変える。

「シエン、今と逆の事をして!」

「逆だと?」

防御の焔を攻撃へ、鳳凰の火は再生を施す程守りの力が強い。それを全て、攻めのイメージに変換させる。

「焔を攻めへ、シエンを..武器へ!」

オリオンを斬る、紅き刃。

「なんかでたっ!」

「コースケ、これは..」「ああ。」

鳳凰の尾を持ち手とし、翼を模した刀身のつるぎ

「オレ達の武器、鳳翼剣だ!」

➖➖➖➖➖➖

 第三の間

 「脆い脆い脆いっ!!!」

「無理言わないでよ..。」

汗だくになるほど体力を消耗し、腕は重工な斧によりズキズキと痛む。壊れないだけ健闘している方だ。


「ベアクル大丈夫かな?

凄く痛いと思うけど。」

「お前の強さはここまでだっ!!!」

「..当然なに⁉︎」

ずっと馬鹿なので、真面目かおふざけかもわからない。だが嘘が付けるほど高尚だとも思えない。

「何度か殴ってわかったぞっ!!!

お前の獣は成長型だ、だからっ!!!

殴ってみたが無駄だったーっ!!!」

「……。」

苛立ちと関心の7/3、全力で殴ってやりたいが体と力に余裕が無い。

「はぁ、はぁ..」「ハーイ!」

「ベアクル、やっぱり痛かったんだ」

蓄積した痛みに耐えかね、身体中を震わせ泣きじゃくる。

「クマちゃんっ!!!

泣いててもカーワイッ!!!

...だけど後ろの飼い主は、邪魔くさいから斬ってもいいかっ!!?」

「えっ⁉︎」「ハーイ!」

斧の影が見えた、それで同時に頭上に落ちる事もわかった。鍛錬と聞いたのに、得るものが無いと死ぬのだと今知った。

「割りに合わないな...。」


「これでさよならだっ!!!」

「ハーイ!...グルルル..!」

死を覚悟して、目を閉じた。

➖➖➖➖➖➖

 「うん、良くなってきたかな?

それにしてもそれ便利だね、毒排出」

「..嘘をつくな...。」

「何、褒めてるんだよ

良くないなぁ〜それ、素直に受け取りなよ。〝気難しい〟と思われるよ?」

「ゴチャゴチャ言うな!」

「おっとストォップ。

そのまま、いいねその調子だよ」

痺れる薬品を散布しストッパーに掛け固定する。標本のように隙だらけのエントを憑依したピューマごと観察する

「..あぁ成る程、そういう事なのね」


「離れろ!」「静かに、うるさいよ」

腹に指を這わせ、データを取って調べ上げる。

「面白いね。ンフフ有難う、お陰でいい情報が得られた。」

ストッパーを外し、自由を返すと直ぐに襲ってきた。しかし爪は眼前で止まり、再び身動きを封じられる。

「かはっ..!」

「危ないねぇ、少し遅れてたら眼を抉られてた。ナイスだよスコルピオ」

「....ウン。」

尾が爪よりも先に体を射抜き、ギリギリの位置で固定した。

「あ、は...。」

「これで何度目だろうねぇ。

床におねんねするの、カラダもつ?」毒が抜けても傷は癒えない。

「甘く..見るな...!」

「フフン、いいね。

中々どんどん良くなっていってる君」

➖➖➖➖

 12星座会議

 本来は頻繁に行う必要の余り無い会合だが櫓には異変が起きていた。テイマーが足りず、立地も完全では無いこの建物を脅かしかねない存在が表にはゴロゴロといるのだ。


「会議を始める!」

「だから仕切るなって。」

「またリーダー気取ってるよ」

「リーダーいないのにな。」

いつもの緩めの導入から始まり、お茶を濁して会議が開く。

「..少し、いいか?」「シルマ⁉︎」

「発言するんだ。」「珍しいな」

普段口を閉ざし、会議を忌み嫌うシルマが席を立ち中心へ。

 「お前が声を発するとは..余程の議

 題があるのだな?」

「..あぁ、今から少し話す。

その間は耳障りだ、一言も喋るな」

「なんだソリャ..?」

「黙ってられるかな〜」

意見は要らない、話し合いではなく独演会をするらしい。


「先ず既存のテイマーを育成、強化する点は賄った。どこまで飛躍を見せるかは連中次第だが、マシになる事は確かだ。続いて外部の脅威については、正直足跡程度も手掛かりは無い。」

 遣り口としては、物音を立て外を出ると何処かを壊しているといったもの。抉れた傷は櫓に付いているものの

人や獣の姿が一切無い。破壊だけを与えて去っていくのだ。

「そこで頼みがある、不本意ではあるが..。突発的な進撃に対して常に戦闘態勢でいて欲しい、下手をすれば、12星座に匹敵する相手かもしれん。」


「以上か?」「..あぁ。」

「簡単な話しだ!

ようは召喚獣を常に出し、戦に備えよという事だな?」

「まぁ、そんなところだ」

「わかったか、皆のもの!」

集まったテイマーが一斉に獣を背後に付ける。

➖➖➖➖➖➖

 「おや、立てるようになったねぇ」

幾つもの穴を開け、息荒く睨みつける

「フラフラだけど♪」


「フゥゥ...!もう、倒れない!」

「それはどっちの意思の言葉かな?」

青黒いオーラがエントを覆い両腕に爪を、尻には尾を生やし瞳は紫に輝く。

「スコルピオ、二枚刃出来る?」

「....ウン。」

尾を二つに分割し、二本の先端から毒を垂らす。動きは一辺倒、飛び掛かり爪で斬り裂く。お陰で腹は土竜の巣だ


 「かはっ..!」「これ何度目?」

 二つの針が毒を注ぐ。痛みを与え、意識を朦朧とさせる。

「ああっ...‼︎」「傷が痛む?」

『エント、聞こえるか』

「....ピューマ?」「...!」

実態の無い相棒と交信している。気が狂ったか、毒の影響を強く受けている

『このままでは、死んでしまう。

 お前は毒を受け過ぎた、私でも吸い

 出しきれない。』


「じゃあ..どうすれば。」「来た!」

『同化しよう。

 精神を合わせ、一つになるんだ』

「わかった..やって、みる...。」

「ンフフフフ、アハハハハッ!!」

少年は言葉通り、倒れる事は無かった

腹の傷は塞がり毒は消え、浅黒い容姿は完全に黒く、野性味を帯びている。

「……。」

「喜びなよ、実験は成功だ。

毒は使いきっちゃったけどね♪」


「何度も死にかけた。」

「生きているじゃないか、それに死にかけて貰わないと意味ないの。君たちの一体化は完全な憑依型だからね」

「..成る程、そういう事か。」

毒を何度も投与し、健康な精神面を弱体化させ、同じ値にする必要があった

「結局何度やっても同じだから。

二枚刃にして別々に毒を投与した..」


 「悪魔め..。」

 「それって褒め言葉?

 だとしたら全然嬉しくは...何だ。」

微かに響く物音が、トレーニングルームから伝わる異常は、緻密なレベルで

ソルドのみに送信されるようになっている。

「少し遠いね..会議室の方か。

まぁいいや、僕には関係ないから」

「行かないのか?」

「研究室の中ならまだしも外の事だよ

どうなろうが知ったことじゃないさ」

「外道が」「人それぞれだよ?」

「行きたければいけばぁ。

扉開けといてあげるよ、ンフフ!」

入り口を開け、元の研究室へ戻す。薄暗く強い薬品の匂いが充満する。

「いってらっしゃいモルモットくん」

「...力をくれた事、感謝する。」

変わり果てた一体化の姿で礼を言う。


「……僕頭までイジったっけ?」

➖➖➖➖➖➖

 会議中の天井に穴があいた。

 これは12星座をものともせず、宣戦布告ともとれる暴挙である。

「酷いなこれは。」

「コーリンちゃん、敵は?」

軽めの軟派な男が問いかける。

「...四名、疎らな方角に。」


「居場所がわかるのか?

おかしい、何故突然姿を..」

「敢えての挑発かもしれないぞ。」

「...ジェイビスか」

射手座のテイマージェイビス、冷静かつ的確で12星座の中でも珍しいマトモな人物。

「此処に危害を加えたという事は、俺達に用があるという事。その上で気配を晒すのであれば目的は恐らく..12星座の分散か何かだろうか?」

「..どうだろうな。」

 一つの意見を纏めて決定するのが目的だが、話が収まる訳がない。12の星座を扱うテイマーは余りにもバラつきがある。


仕切りたがりの牡牛座ケビン

自我の強い魚座ルータス

適当軽薄やぎ座のサジロウ

負けん気リアリスト乙女座カスミ

「物騒ですね..備えないと..。」

「そうだな、警戒を怠るな」

常に敬語の天秤座ジョロウ

「ロンちゃん大丈夫かな..?」

「どうだろ〜わかんないな〜。」

双子座は二対で一つ、気弱で控えめな眼鏡を掛けた少女アキコ。頭をフラフラさせへなへなとしたロン。


「アオ!見てみろよジョージ!

天に穴あいて空がピカピカしてる!」

「あ〜そう..。」

「ナンダ釣れないお魚チャンダナ〜!

嫌な事でもあったかいカイ!?」

「いつもこうでしょ..頼むから静かにしてよ、てか勝手に出てこないで。」

12星座とテイマーは性質が正反対になり易い。真逆の星が重なり合うからだ

 「迷惑野郎とっちめるか!

  そしたらオレ達も株上がるぜ?」

「余計な事しなくていいよ、12星座になれてる時点で凄いじゃん。」

「それでいいのかよカズキ!」

「いいんだよケープ。」

あとは愛の無い蟹の飼い主、マッドな科学者。マトモな射手座。まったく纏まりの無い強者達だ。


「いいのか?

こんなところで話してて、侵入者を誰が相手するんだ」

直ぐに結論を出す口煩い水瓶座のサイ

「既に動いている。

丁度四人、実働が可能でな..」

➖➖➖➖➖➖

 「通信を送ります。

  侵入者、東、西、南、北にそれぞ

  れ穴を開け逃走の見込み」

アンドロメダ座は基本的に管理システムとしての役割だが、それに伴う力を持っている。

 「南の穴発見、外へ出てみるよ?」

範囲を絞り、その管轄内だけでなら情報を送ることが出来る。今のシグナルは〝櫓内の四人とシルマ〟。


「北も見つけた..」「東もあったわ」

「西は...うん、みっけたぜ!」

「よし。」

「ユウヘイ様エリン様、エント様、そ

 してコースケ様、引き続き調査をお願い致します。」

同時に穴の中へ入り、外へ出る。

その時点で櫓の外にいる事になり、通信は途絶える。これからは、見たもののみが情報になる。


「待ってたぜ!」「え待ってたの?」

南の侵入者は堂々と待ち構え姿を晒していた。

「オレはみなみのさんかく座の獣、サウスデルタ!」

「みなみのさんかくだから、南に..」

「何笑ってんだ!」

吹き出すユウヘイに怒り進撃、比較的気が短いタイプだ。

「ごめんごめん、つい笑っちゃった。でも駄目だよ生身で向かってきちゃ」

「ハーイ!」「なんだこのクマ!」

「グルルル..」「え!?」

小さなこぐまは肥大化し、獰猛な獣となり大きく拳を振る。

「ぶっ..でかくなった...」

「ベアクルは成長型の星座、こぐま座からおおぐま座になるんだ。ねっ?」

「バーイ!」


 「なんで当たらないの?

  長さは充分足りているのに!」

「大した事ないのね、かみのけ座ってそんなものなの。」

「くぅっ、そんな筈ないっ!」

「ちゃんとゆうべ洗った?」「く!」

槍のような形状に固く延びた髪をゆるゆると避け煽りをきかす。

「もういいわ、仕上げよ!」

「え、ちょっ..何するつもり!?」

「脳天チョップよ。」

頭上からのかかと落とし、たまらずダウンのかみのけ座。名をファニー。

「ふぅ、終ーわり」


 「おれの名前はろくぶんぎ座!

  櫓にまんまと侵...聞いてる?」

明るく輝く目立たない星、それがろくぶんぎ座だ。

「話をしてる暇が無いんだ..」

やまねこの脚が素早く動き回り、黒い影の残像をつくり敵を囲んでいる。

 「なら話さなくていい!

  見ろこの光を、何よりも強く明る

  く輝いて..」

胸の輝きを見せた瞬間、残像が消えた

「確かに良い輝きだ..お陰で目印にする事が出来た。」

「そうか!ならよかっ..た...。」

「..砂漠の太陽はもっと明るいぞ?」

六分儀乙。


西

 「私がみなみのかんむり座だ!」

 「ここ西だけど。」

「南の..かんむり座だぁっ!」

「西なのに?」「えぇいうるさい!」

みなみの連中は気が短いのか直ぐに怒り向かってくる。武器を持たずに我が身一つだ、西なのに。


「鳳翼剣!」「なんだそれはっ!?」

「受ければわかるよ、炎斬焔えんざんほむら!」

焔を纏った熱破の剣撃、斬跡からは炎が噴き出す。

「私は..みなみのかんむり...座。」

「だからここ西なんだって」

東西南北全ての気配が消えた。

コーリンが少し範囲を広げ、通信を行き届くようにする。

「お戻り下さい、シルマさんからご報告があります。」

「シルマさん?

 なんだろ、一体。」

シルマの声が櫓内に拡散され、全員に伝わる。

「若いテイマー共、よく追い払った。以前より力を付けた証拠だろう。」

「敬うつもりないわね」

「褒められてるん..だよね?」「....」


「以前よりあんなゴロツキどもが危害を加える事は度々あった。しかし今回は極端過ぎる、より一層深刻な事態を招く可能性も充分にある。」

頭角を現し、あからさまに牙を剥き始めている。

「こうなれば、出所となる元を断つという決断に至るが、12星座は簡単に櫓を出るべきじゃない。」

拠点を伽藍堂にしては、攻め入られて終わる。戦力として残すべきという守りの判断もいる。

「そこでだ。

お前ら四人には実動隊として、奴等の出所を探って貰う。詳しい事はコーリンの情報から会得しろ」

音声が途絶えた、次なる仕事の依頼だ

報酬は無く、褒美も見当たらない。

「少ないヒントで見つかるかしら」

「よーし頑張るぞー。」

「砂漠以外の場所は知らない..」

「探検かぁ、何と出会うかなぁ!」




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