テイマー強化

 「砂漠でやまねこ座とは、ユニークですね..。」

「よろしく!..お願いします。」

「こちらこそ宜しくお願いします。

それではお部屋にご案内します」

癖があろうと人材が欲しい。

砂漠で見つけた貴重な資源を使わない手は一切無い。


「お三方をシルマ様がお呼びになっておりましたよ」

「俺達を?」「何の用かしらね?」

「褒めてくれるのかなぁ!」

疲れを労う暇も無く、次の事柄が待ち受ける。乾きの次は潤いだ。

「新人様をご案内後、移動を致しましょう。」

「移動?何処か行くのか?」

➖➖➖➖

 「到着しました。後はお任せ致しますシルマ様」

「ご苦労。」「どこ此処?」

櫓の敷地内から出た形跡は無いが、屋外の空き地。土が広がり少し草が生えている。

「テイマーを一人確保したようだな」

「そんな事より説明がないわよ。

何で此処に来たかがわかんないけど」

「ちょっとエリンちゃん!

相手は12星座のテイマーだよ?」

「今から何をするのシルマさん。」

「君もなんだ。

なんで誰も気負わないの?」

ユウヘイは12星座と会う事が無く緊張しているが、他の両者は多少接点があり、コースケに至ってはきっかけがシルマだ。距離感に下手な差が付き歯痒い結果を生んでいる。

 「ここは櫓に点在する演習場、ここで少し鍛錬をして貰おうと思ってな」


「ここで鍛えるのか!」

「イマドキ流行らない根性論ね。」

「トレーニングかぁ..。」

三者三様余り乗り気では無さそうだがやらざるを得ないらしい。

「..櫓には、テイマーが極端に少ない

増やすといっても一度に多量は獲得出来ないものだ。」

「そこデお前タチを強くシヨウって会議して決まったワケだナ!」

「量より質って訳ね。」

「強くなれるかなぁ..?」

「それでシルマさんと戦うのか、すごい強くなれそうな気がするな!」

「俺じゃない、代わりの奴等を呼んでおる。」

「えっ、シルマさんじゃないのかよ」

「お前一度ボロ負けシタろーガ!」

テイマーが極端に少ないというのは〝実働可能な〟という意味。様々な役割があり、櫓の管理や人員のケア、それらの補助に殆どがまわっているのだ

 「安心しろ、相手はテイマーではな

 い。櫓の獣だ。」

「但し鍛錬ヨウのナ!」

「出番だぞ、三バカ星座。」


「とうっ!」「はんっ!」「ふっ!」

空に影が浮かぶ、三つの影は土に足を付けると、おかしなポーズで名乗りを入れる。

「オリオンッ!」

「ペルセウスッ!!」

「ヘラクレスッ!!!」

数秒静止、見ると足が震えている。思っていたより響いたようだ。

「われら、力を与えっ!」

「精神を高めっ!!」

「鍛錬を施すっ!!!」


「実力を補いしものなり..」「長い」

一斉に流水が放射される。

「ぐあっ、おい、何をするっ!」

「まだ名乗りの途中だぞっ!!」

「最後まで、言わせてっ!!!」

オリオン、ペルセウス、ヘラクレス。

大概がこうして途中で言葉を止められる。特にシルマが丁寧に待つ筈は無い

 「..まぁそういった所だ、好きな奴を選べ。もしくは決定して貰え。演習場は三つある、選び次第自然と移動が完了する。後は任す」

深く三星座と関わりたくないので、役目を終えたと切り上げてよそよそしく櫓へ戻り他人のフリに徹する。


「選んでいいのかっ!

なら君だ、活発そうな男子!」

「オレ?

よっしゃ、鍛えてくれ!」

「ならば私はそこのガール!!

存分にかかってくるがいい!!」

「いいのね、わたしで?」

「よし、君でいこうっ!!!

消去法じゃないぞ、初めからっ!!!

そう、初めから決めていたっ!!!」

「うん、頑張るよ。」

各々が相手を決め、準備へ入る。

「それではいくぞっ!」

「それぞれの演習場へっ!!」

「ワ〜プッ!!!」

➖➖➖➖➖➖

 「ではごゆっくり。」

野生児であるエントには部屋の用途と使い方を教え込む必要があり、通常のテイマーよりも少し時間を掛けた。

「どうだ、様子は?」

「シルマさん

...酷くお疲れだったようで、直ぐに眠ってしまわれました。」

「砂漠ヨリ眠れルだろナ!」

「だと、宜しいのですが。」

冗談を情報として処理する、つまらない性質ではなくアンドロメダ座の在り方である。

「起き次第初めていいぞ、本人に話はつけてあるしな」

「はい..ですが、大丈夫でしょうか」

「何だ、AIも危険視するか?」

「それは、相手が相手なので..。」

位を超えて恐れる者、獣は皆護る者。

しかしそれを操るテイマーは様々な思想を持ち、中には悪用するものも。

「まぁ無理もネェナ!

アイツはオレでもオッカねェ!」

「だがそれ程に、あの子どもの力は歯止めが効かん。」

「〝彼〟には、何と話を?」


「..研究の材料が見つかった、と。」

➖➖➖➖➖➖

 第一の間オリオン庭

「..ワープとはいったが、ここが我が

フィールドなのだっ!」

「……。」「....え、何、不満げ?」

「鍛えるんだろ、なら戦おうよ」

「この子やる気だっ!

なんだいい子なんだっ!

選んで良かったほんとにっ!」

「はぁ..シエン、いくよ。」「ふん」


ところ変わり第二の間、ペルセウス庭

「エレガンツッ!!

君は金持ちのお嬢様なの!?」

「前はね、逃げてきたけど..。」

「ドォーリで優雅なワケだねぇっ!!

ワタシの鎧も、似合うかもっ!!」

「誰が着るのよ、ラビー!」

「オヨビデスカー!」

「おお、話がはやいっ!!」

➖➖➖➖➖➖

 第一第二の間はあくまで鍛錬を目的として腕を振るうが第三のヘラクレスは少し異なる。


単純に云えば、力の加減が出来ない。


「お前の力を教えろっ!!!」

「..えっと、右手が熊に変わります。」

「右手がクマ!?

なんだその力はぁっ!!!」

ざっくりと説明したつもりだが脳筋には理解が及ばぬ段階であった。

「いいか?

他の二人と違ってそれがしは本気で立ち向かう!」

「え〜..生きて帰れるかな。」

「ハーイ!」

「あ、ベアクル駄目だよ戻って!」

目を離すと直ぐにこぐまは歩いていく確実に戦いに向いてない。

「覚悟しておけよ?

どんな事があろうと加減などせず全力でお前を根絶やしに...」

「ハーイ!」「ベアクル戻って!」

「……」 「ハーイ!」


「何このクマちゃん超カワイイ!!!

どうしたの、何しに来たの〜?」

「あぁれ、可愛がられてる..。」

一つだけ弱点がある。

カワイイモノにすこぶる弱い。

➖➖➖➖➖➖

 「ンフフフッフフッフ〜♪

  ンフフフ〜♪」

薄暗い静かな部屋で、鼻歌交じりで愉しげに薬品を混ぜる怪しげな男。

「よし!

毒の調合はこのくらいかな?」

「失礼致します。」「ん、来たかな」

扉がノックされ、機械音声が響く。


「準備は宜しいでしょうか?」

「当然、できてるよぉ。

久々の実験だからね、身震いが止まらないよンフフッ!」

「では、フィールドにご案内を..」

「いいよ、必要ない。

移動するなんて手間だろう?

だからさ、造ったんだよ。研究室の中にトレーニングルームを!」

「...はい?」「見てなよ」

電子パネルを数回弾き、システムを起動する。灯り一つの研究室は、白く物の無い殺風景な四角い空間に変わる。

「どう、アンドロメダもびっくり?」

「これを..いつから?」

「出来上がったのは昨日かな。

毒の調合と片手間でやっちゃった♪」

天才というより変態、彼の言う実験は

しっかりと生死を弁えているのか?


 「で、言ってた被検体は?」

「今、入り口の方に。」

「あー、外で待たせてる子がそうか。

ダメじゃない、丁重に扱わなきゃさ」

扉を開け、入り口をつくる。

「入って。実験を始めよう」

「……」「どした?」

「いえ、なんでもありません。」

「わかってるよ、心配なんでしょ?

彼の存在が。」

「......そんな事は」

「いいよ隠さなくて、そんなに見えるかな。僕が心無い狂人に?」

「.....。」

〝見えません〟とは言えなかった。

アンドロメダに心は無いが、上辺のみで危険だと判断が出来る。

「どうかお気をつけて..。」

➖➖➖➖➖➖

 「熱いっ!

 けどそのくらいっ!」

「なんだアイツ、全然元気だ。」

「なら火力を上げてみるか」

纏う焔を出力し、噴き掛ける。

「ふん」「アッつーいっ!」

「なんだ、効いてるじゃん。」

「けどそのくらいっ!」「ダメか..」

特別な力を使っているようには見えない。ただ受けて、感想を言っている。

「厄介な相手だ。」

「そろっそろ..反撃するかっ!」

「くるぞ」「わかってるよ」


 「ジャンピングキーックッ!」

跳び上がり、蹴るというだけの攻撃。

「ただの力技じゃん!」

「まだまだっ!

クラッシュパーンチッ!」

両腕を合わせ、拳を落とすだけの攻撃

「舐め腐るな!」

盾として使用していた焔で体を包む。

オリオンは赤く光り、火達磨になる。

「アツツツツツツッ!

 だぁ〜けぇ〜どっ!」

一度離れ廻転し、火を払っていく。

 「そのくらいっ!」

「なんで効かないの!?」

「どうやら量では無いらしいな。」

「その通りっ!量じゃないっ!

やり方の問題だっ!」

「やり方?」

「君たちは他のやり方で炎を出さないといけない、そのくらいだっ!」

シンプルな戦い方ではいけないと、オリオンは言う。

「他のやり方ってなんだよ」「.....」

➖➖➖➖

 優雅と優美は異なるようで、似通ったものほど対立は激しい。特にどちらかが優れていると、隙間が生じてまるで違ったものになる。

「ホイホイホイホイ!」「次右ね」

「結構遠くに飛ぶのだなっ!!

 ワタシは一歩も動かないっ!!」

蛇のように長く伸ばした剣の刀身で、跳び回るエリンを追撃する。


「ヒィィー!

ドコマデモオッテクルーッ!」

「仕方ないわね、アレやるわよ。」

「ムリヲシナイデクダサイネ?」

「わかってるわよ。」「リョーカイ」

背後に付いていたラビーは一体化の形を変えエリンの脚にローラーシューズを履かせる。

「ふぅ、さぁ!

 追うなら追ってくれば?」

「一体化を習得済みかっ!!

 なかなかやるなっ!!」

持ち手を無造作に振り回す、揺れる刀身が動きを翻弄し延びて隙を撃つ。

「刺されっ!!」「甘いわよ。」

剣とは逆の方向にくるりと回転し身を躱す。

「見事だっ!!」

「褒めないでくれる?

 昔習ってたスケートがここで奴立つとはね、考えたくないわ。」

「エリンサン、テキニシュウチュウ」

「...そうね。」

➖➖➖➖➖➖

 「ふんなぁっ!!!」「重た!」

斧に近い形状の剣を叩きつけるように使用するヘラクレスに受け身を取るのがやっとのユウヘイ。

「そんなものかっ!!!」

「さっきと態度が変わりすぎだよ!

これベアクルなんだよ?」

変形した右腕を指差して言う。


「形が違うなら関係ないわっ!!!」

「嘘でしょ...。」

カワイイとはあくまでも〝物理的に〟という意味で、存在では無い。

「それよりお前っ!!!

一体化が使えるのかっ!!?」

「一体化?

何それ、ベアクルは初めからこうだったけど..これをそう言うのかな。」

「初めからこう..だと?

 成る程、そういう事かっ!!!」

「何が..」「ふんっ!!!」

「ちょっと!」

「戦えばわかるっ!!!」

脳筋に言葉は要らない、言っても伝わらないからである。

➖➖➖➖➖➖

 『ようこそトレーニングルームだよ

ここではトレーニングは勿論健康管理やその他諸々沢山出来る素敵な施設』

などと白々しく書かれた看板が貼り付けてある。貼ってあるのは内側の壁の為中に入らなければ確認は出来ない。

無意味な看板、集客は0だ。


「あぐっ!」「ダウン、二回目だね」

「毒の性能を調節したつもりだけど、これでも少し強いのかな?」

倒れ込み苦しむ少年を気に留める素振りも無いまま分析を始める。

「少し毒性を下げよう、試作サンプルの余りがあった。あれなら多少は下がるかなぁ?」

電子パネルを素早く弾き、小さな瓶を取り出し確認する。

「うんこれでいこう、スコルピオ?」

「......ウン。」

ぬるりと紫色のサソリが現れ瓶鋏で割り、中の液体を取り込む。

「さて、やろうか。」

「うぐっ..!」『エント!』

倒れるエントに憑依し、毒を抽出する

「へぇ、解毒も出来るんだ。」

吸い出した毒を口内へ溜め、外へ吐き出す。

「おかしいと思ってたけどそうだよね

..そういうの無きゃ、砂漠じゃ生き残れないよねぇ。」


「舐めるなよっ!」

「スコルピオー?」「....ウン。」

跳躍したガラ空きの土手っ腹に、尾を突き立てる。先端は腹を貫き背に延びている。

「あっ.....!」「どうだろうなぁ?」

尾を引き抜くと、腹に穴を開け床に落ちる。

「うぐぅ..!」「まだ強いかもね。」

傷が増える度、関心が深まる。彼は恍惚の症状で実験を愉しんでいる。

「あの男..悪魔か...?」

「もう少し過程を見ようか。

スコルピオ次これ〜」「....ウン。」

毒が切れるか命が消えるか。

「ンフフ」

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