調査開始

 「ふぅ..」

「おはよう御座います。」「うわ!」

扉を開けたら不意のコーリン、悪戯という機能でもついているのか。

「お迎えにあがりました」

「お迎え?」「どうぞこちらへ。」

説明もなく、一度見たシンプルな廊下を歩かされシルマと別れた分岐点で止まる。


「誰この人?」

待っていたのはシルマじゃない、見た事の無いテイマー数人。

「昨日の会議で決まりました、12星座より下の星のテイマーで幾つかのチームを組み、外へ赴くと。彼等はあなたのチームメイトです。」

「よろしく..」「弱そうな奴ね!」

「チームメイトか。」

三人一組のようで一人は控えめで大柄な男の子、もう一人は強めの小柄な少女。背後にはどちらも動物の召喚獣を携えている。

「あなた召喚獣は?」「鳳凰。」

「ほ、ホウオウ!?

すごいなぁ、よく手懐けたね」

「何か裏があるのよ。」

「シルマさんが助けてくれて..」

「え、シルマさんと知り合いなの⁉︎

12星座となかなか仲良くはなれない筈だけど。」

「やっぱり裏があんのね?」

一概に鳳凰を扱うというと、だれも素直には信じないようで面倒な反応をクッションとする必要がある。

「挨拶はお済みですか?

それでは御三方には〝渇水の砂漠〟へ行って頂きます。」

「厳しそうな場所だね」

新たなテイマーとなり得る人物が、そこにいるかもしれない。

「でもどうやっていくの?」

「ご安心ください、脚は揃っておりますので。」

コーリンが手を叩く。

すると天井が騒がしくなり、羽を持つトカゲが数匹現れる。


「うわっ、なによコレ!」

「砂漠行きの竜です。」

「これに乗ってくのか?」

「楽しそうだね!」

櫓に飼われる竜座の獣は主に移動手段として使われる。場所ごとに色分けをされてあり砂漠行きは緑色をしている

「はしごを降ろします

直ぐに乗り込んで下さい。」

竜の背中の座席から、ゆるゆるとハシゴが垂れる。

「お気をつけていってらっしゃい。」

➖➖➖➖

 「...浮浪者?」

カラカラの砂の上で寝転ぶ新鮮な死体の荷物を漁り食物を口に運ぶ。

「ぺっ!

しなびてる..。」

腐りかけ味のほつれたリンゴを砂へ渡しげんなりとして去っていく。

「今日もダメか..」

太陽の照りつけによるものか肌は浅黒く、ボロボロの布を纏っている。

『諦めるのか?』「くっ!」

頭の中に声が響く。

『もっと動け、死んでしまうぞ』

「やめろ、入ってくるな!」

尋問に頭を抱え追い出そうとするも声はより一層深くなる。

『私が助けてやろう』「う..あっ!」

声が止み、意識が遠のく。


「いこうか。」

➖➖➖➖➖➖

 渇水の砂漠

正式な名称はわからないが、水分が皆無で物が直ぐに乾く事からそう呼ばれている。キャンサーは特にこの場所を嫌う。

「よっ!」「あっぶないわね!」

移動中は義務としての動作の竜だが、着地の直前は野性に戻るので仕上げが少し雑になる。


「ありがとうね!」

役目を終えた竜は一旦櫓へと帰る。

「すっごいなここ、砂ばっかりだ」

「当たり前でしょ砂漠なんだから。」

「テイマーいるかな?」

熱気もさる事ながら足場が安定せず、常に踏み場を考える必要がある。

「それじゃあ行こ..」「待って!」

「...何?」「何じゃないわよ」

小柄で強気な少女が不満げに言う。

「名前!

まだ教えてもらってないんだけど。」

「いやオレも聞いてないよ」

「アンタが名乗らないからでしょ!」

「喧嘩しないで。

僕から名乗るよ、ユウヘイっていうんだ、よろしくね。」

「よろしく」「アンタの名は⁉︎」

「オレは..コースケ。」

「そう、わたしはエリンよ。」

「よろしく..」

名を名乗り合うだけで幾つもの喧嘩が起きる、砂漠の道端で。

「あとアナタ!」「今度は何っ⁉︎」

「いつまでその〝鳥〟出してるのよ!

はやく閉じなさいよ!」


「え?」

背後で鳳凰が未だ寝ている。傷が余程深いのだろう。言われてみれば他の二人の背後には獣がいない。

「閉じるってどういう事?」

「アナタねぇ..!」

「あーわかった、僕が教えるよ。

テイマーは獣を目立たないようにしまう事が出来るんだよ。ほら、街とか行ったら驚かれるでしょ?」

ユウヘイがどうにか静止する。温厚な人物が一人いて助かったが今後面倒な役回りを担いそうだ。

「シルマさんに認証されたとき、肩を叩かれなかった?」

「...あ、叩かれた。」

「そのときみたいに、左肩を弾くように叩いてみて」

言われたように肩を叩くと鳳凰が引力で吸われるように縮まりカラダの一部に馴染んだ。

「え、何処いった?」

「閉じた召喚獣はテイマーの体にタトゥーの様に刻まれる。君の位置なら、背中辺りかな?」

「え、嘘。」

上着を脱いで背中をはだける。

「アッハッハッハ!

背中に羽が生えてるわ、おかしい!」

「.....」「ハハハ。」

閉まった位置と形がはっきりと分かった。背中に、羽のタトゥーだ。

「..これでいい?」

「そうね、行きましょ。

 こんな所にずっと立ってたら干上がっちゃうわ。」

「勝手だな、本当に」

「自由なんだよ、早く行こ。」

➖➖➖➖

 櫓内廊下

「良かったのカ、一人でいカせてヨ」

「一人では無い。」

「そうダけどヨ!

チームくんだっテモにタようナ奴らバっかリだゾ?」

「..知るか、俺はあいつの親じゃない

どうなるかは自分次第だ」

「そうかヨ、ならイイワ!」

➖➖➖➖➖➖

「熱ちぃ〜!」

「分かってる事いわないでくれる?」

「いや、言っちゃう程熱いよここ」

歩くだけで消耗するこの環境では、息をする度に熱を帯びる。

「それにしても何も無いね、歩けば歩く程見つからない。」


「だからって止まったら死ぬわよ?」

「進むしかないって事だな。」

「...ん、あれ何かな」

「..浮浪者?」

積もった箇所の砂を手で掘り何かを探す人がいる。

「何やってるの..あれ?」

「さぁ、探し物...かなぁ。」

「声かけてみるか、おーい!」

「あちょっコースケくん..」

こういった行動力には長けている。鳳凰との出会いもこうだった。

「いいじゃない、いくわよ」

「あ、ちょっと!」

見ず知らずの浮浪者よりも、恐れ知らずの知り合いの方がおそろしい。止めるより加担するのが安全だ。

「ないない..」「おーい!」

「...何だ。」「何探してるんだー?」

砂漠と元気は余り結びつかないが、目の当たりにするとよく目立つものだ。


「..誰だ」「オレ達はテイマーだ」

「テイマー?」

「少し調査に来たんだ、君背中に獣が付いた人を見た事無いかな?」

「背中に..獣...!」

「何、心当たりあるの。」

自覚は無い、背中に付いていた事は無いからだ。

「はっ..はっ、はぁ...!」

「どうした、すごい汗かいてるけど」

「砂漠で動けばかくわよそりゃ。」

一度人に戻した。

開放では無く、更なる拘束の為に。

「あの..た、たっ...」「た?」

『奴らから奪え、己の糧として!』

「たすけっ..あ、あぁっ!」

「様子が変だね。」

悶えているようにも見えるが頭を抱えている。何かの感染症か、砂漠の獣にやられたか。色々な要素を考えたが、結果は全てちがかった。


『奪わせロ、全部ッ!』

「豹変した⁉︎」「成る程わかったわ」

「わかったって?」

「ええ、あの子はテイマーよ。

逆に飼われてるみたいだけど」

『ゴチャゴチャ抜かすな!』

爪を立て、真っ先に狙うのはエリン。理性すら失ったようだ。

「あーら弱い者イジメ?

残念ね。一番強いわよ、ラビー!」


「ハイハイこんにちワ!

力をお貸し致しますよー!」

ハキハキとしたウサギが出現し、少女の腹を背後から抑え両脚で跳ぶ。

「高っ..!」「さすがウサギ」

「どう?

うさぎ座のラビーは凄く跳ねるの。」

『それがなんだ?』「ウッソ..!」

高らかと跳んた空中で、既に追い付き爪を立てる浅黒い少年がいる。瞳をよく見ると、怪しく紫色に輝いている。

「ラビー!」「ハイハイハイ!」

空を蹴り、横に跳ぶ事で距離を開け逃げ道をつくる。

「違う」「何がデス?」

「彼はテイマーじゃない。知らない獣に、一方的に操られてる」

「ナンデストーッ!」

砂漠の孤児に目をつけた獣が、飢えを凌ぐ為利用している。

「ユウヘイ、コースケ協力して頂戴!

あの子獣に乗っ取られてるわ!」


「本当?

直ぐに助けなきゃ!」

「テイマーじゃないのかよっ?」

「ラビー、そのまま急降下」「ハイ」

『逃すか..』

真下へ落ちるエリンを追いかけ爪を穿ちつつ落下する。

「今よ!」

「よしいくよベアクル!」『ハイ!』

こぐま座のベアクルがユウヘイの右手にしがみ付くと大きな熊手に変貌する

「横からごめんね!」『ぐうっ!』

操られた少年の落下を防ぎ弾く事に成功する。

『これで終わりか?

 ガラ空きの隙間を忘れるなっ!』

「コースケくん!」「..えっ?」

体制を立て直し、距離を取り一連を見ていたコースケに突攻する。

「何やってるのよ、アイツ..!」

『斬り裂かれろ、愚か者。』

「ホウオウ..起きろっ!」

『....ふん。』

爪の圧で砂を巻き上げたとき、砂漠のものとは違う熱を感じた。

『何だ、お前...!』


「騒がしい故目を覚ませばなんだ。

こんなケダモノが吠えていたのか?」

「鳳凰!」「待たせたな、コースケ」

「ヒィィ〜デカァーッ!」

「ていうか熱すぎよ!」

「確かに、砂漠で炎はキツいね..。」

パートナーは燃やさない、基本的に炎や水といった自然系の力はテイマーに被害を及ぼさない。その分周囲は迷惑を被るのだが。

『邪魔だ!』「ふん。」

炎を纏い爪を受け流し、よろける体を尾で捕らえる。

『ぐっ、離せ..!』

「お前が離れろ。

その行いは、その者を傷付けている」

『な...に..?』

「そんな事をしても、餓鬼の飢えは治らんと云っている。」

『ぐっ...。』

「鳳凰、どういう事?」

「我々獣達は、何かを〝護る〟為存在している。でなければテイマーに仕えしとき、背後には着かん。」

「ナルホド、確かにソウデス!」

環境なら環境、味方なら味方、危害を加えるつもりは無く〝危害を加えられない〟ように威嚇をする。ケダモノと呼ばれるそれはあくまで、少年を護る為に動いていただけなのだ。


『傷付けていた..私が...?』

「自覚がないか、そんなものだ。」

「飢えを凌ぐ方法が一つあるよ」

『...本当か?』

「テイマーになる事だ、そしたら飯いっぱい食えるとおもうぜ?」

『何をすればいい』

「取り敢えず、その子から出るのが先ね。話はそれからよ」

『わかった..』

下手に素直に言う事聞くが、確実に裏は無いと言える。悪意があるのなら、とうに少年を餌食にしているだろう。

『これでいいか?』「寝てるけど。」

『じきに目を覚ます』

数分後、少年は目を覚ますと酷く怯えていた。

「ひ、ひいっ!」『待て、怯えるな』


「やめろ、来るなっ!」

「落ち着けって、な?」

「誰だお前たち...離れろっ!」

聞く耳を持たない、静まる様子もなく子どものように暴れている。

「うるっさいわね..まったく」

「どうにか落ち着く方法ないかな?」

改善を模索していると、熊手が剥がれ

ちいさなテディベアのような獣が少年の元へ歩いていく。


「ハーイハーイ!」

「あ、ちょっと..ベアクル。」

「ハーイ!」「....クマ?」「ハーイ。」

こぐま座の獣は膝に乗り、少年の頬に

顔を寄せる。

「やるわね、あのクマ。」「ははは」

「かわいい...」

「本当はそうしたいんだよ、君と。」

『……』「嘘だっ!」

「今まで何をされた?」

「沢山こわいことをされた!

体に入ってきて、何度も何度もっ!」

「その度に腹は膨れてた..違うか?」

「そう...だけど。」

『お前が心配だった、砂漠の中を、常に一人で..。』

護るやり方を知らなかった。結局恐怖を与えたが、必死で動いていた。

『テイマーになろう。』

「テイ..マー?」

『私を召喚獣として使ってくれ』

怯える必要は無い、必要なのはお互いの名前と、認証のみ。


『やまねこ座のピュールだ。』

「エント・テリー。」

(コースケくん、肩触って!)

「あ、わかった。よいしょ認証..!」

背後に黒く凛々しい猫が、右の手首に爪のタトゥーが、見事認証は成功だ。

「え、えっ!?」

「気にしないで、みんなそうだから」

「後ろに獣がいる人は絶対普通じゃあないわよ?」

「まぁでもこれで調査は終わりだね」

「ハーイ!」「ベアクルおかえり。」


「ありがとう、鳳凰。」

「容易い、それと我の名は鳳凰では無い。..紫炎しえん、そう呼べ。」

「鳳凰じゃなかったんだ、そういえば名前聞いてなかったかもな。」

森の主の名を今日まで知らなかった。教えなければずっと知らないままだ。

「私も初めて名前を知った。

よろしくなエント」


「よろしく..ピューマ。」

新たなテイマーが、此処に誕生。

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