カーサの森
ロックマッシュの調査の為に『カーサの森』にやって来た。
カーサの森は私が拠点としている『モルドア地方』の北西部に位置する大きな森で、マッシュ系のモンスターが多く生息している。
一番多く見られるのは『ホットマッシュ』と言われる、大きな真っ赤な傘に白い軸の体長60cm程のモンスターだ。
手足は無いが傘の下に小さな目鼻口がある。
手足が無い為飛び跳ねて移動するのだが、傘が大きい為に移動が苦手でよく転ぶ。
一度転ぶとそう簡単に起き上がる事が出来ない為、転んでいるホットマッシュに脅威はない。
ただ転んでいない活動時のホットマッシュは少々厄介で、真っ赤な非常に高温で刺激の強い胞子を飛ばしてくる。
その胞子を吸い込んでしまうとしばらくの間高熱で寝込んでしまうので注意が必要だ。
しかしホットマッシュの活動時間は曇りの日の早朝な為、その事さえ覚えていれば危険はないとも言える。
因みに晴天の日が続くとホットマッシュは萎れて死んでしまう。
森に入ってからそこら辺でホットマッシュを見掛けるが、今は日中、天気は晴れ。
何も恐れる事はない。
「博士?ロックマッシュはどこにいるんでしょうか?」
ずんずんと森を突き進んでいるマリアが振り向きもせずに尋ねてきた。
「依頼主のダワンじいさんの話じゃ森の中央部だって話だけどねー」
私はマリアに声を掛けながら、木々の枝に目を凝らしていた。
この森には『チャリー』や『ミニモリー』、『モンパー』が生息しているのだ。
チャリーは鳥型のモンスターで、体高は10cm程。
体高よりも長い尻尾羽が非常に美しい。
鮮やかな黄色い体に真っ赤な嘴、ルビーの様な瞳が特徴で、その鳴き声はまるでハープの様な美しさだ。
警戒心が非常に強く、人の気配を感じると音も立てずに飛び去ってしまうため、一昔前は幻のモンスターとも言われていたが、近年では人馴れしたチャリーが現れ始めた為そう珍しいモンスターではなくなりつつある。
攻撃力はさほど強くはないが、必ず目を狙ってつついてくるので目だけはガードしておいた方が良い。
ミニモリーは森の妖精とも言われるモンスターである。
丸い顔の1/4を占める大きな丸い目、ピンクの小さな鼻におちょぼ口、顔よりも一回り小さい体にちょこんとした小さい手、跳ねるのに適した大きな足が付いている。
体長は13cm程で、体表は薄桃色の毛で覆われており、その毛は綿毛の様に柔らかい。
4~5匹の群れで常に行動しており、木の枝に並んで座り日光浴をしている。
体毛が日を浴びる事により光り輝く為、闇夜でもミニモリーがいればランプ代わりになる。
ミニモリーの生態はまだ謎が多く、何故日光浴をすると光るのか、何を食べて生きているのか等まだ解明されていない。
ミニモリーが人を襲ったと言う報告は未だかつて聞いた事が無い程に温厚で温和な性格で、一切の危険がない珍しいモンスターだ。
しかし絶対数が少なく、昔は各地の森で見られたが今ではカーサの森でしか見る事が出来ない絶滅危惧種でもある。
一説ではミニモリーの毛皮の乱獲でその数が減ったとも言われているが、その毛皮は加工が困難な為、私はそれが原因だとは考えていない。
絶滅危惧種である為捕獲、狩猟等の一切が禁じられているので当然研究も進まないのである。
モンパーは猿型モンスターである。
猿型モンスターの中では最小の8cm程のモンスターで、顔と腹と手足は真っ白い毛で覆われているが、その他は真っ黒い毛で覆われている。
つぶらな瞳と若干大きめな口に長い手足、体長の倍はある長い尻尾が特徴で、非常に俊敏である。
手先が器用で幼児並みの知能を持っている。
器用な手先を活かして作り上げる巣は実に芸術的で、どれ1つとして同じ形の巣は無い。
木の実や木の葉が主食で、見かけによらず鋭利な牙を持っている為、固い木の実でもバリバリと難なく食べる。
友好的な性格だが、怒ると鋭利な牙で噛み付いてくる。
攻撃力で言えばミニマムモンスターの中でもかなり高い方だと言えるが、噛まれても無理に振り払おうとせずにじっとしていれば5秒程で離してくれる。
噛まれた箇所には深さ3mm程の小さな穴が開くが出血量は大した事はなく、怪我的にも大怪我には至らない。
ただ噛まれた時に無理に引き剥がそうとすると皮膚が牙により裂けてしまい、縫う程の怪我に発展してしまう。
その点さえ踏まえて、噛まれてもじっとしていればダメージは限りなく少なく済む。
「ミニマムモンスターに会いたいなぁ…」
「博士!ミニマムは忘れて今は仕事してくださいねー!」
地獄耳のマリアが私の呟きに素早く反応した。
3m以上は離れているのに聞こえるとは何とも恐ろしい。
「そろそろ中央部ですよ。」
結局、ミニマムモンスターには1匹もお目にかかれないままロックマッシュの元へ着いてしまった。
ロックマッシュが今回大量発生したカーサの森中央部は不気味な程に静まり返っていた。
木々の根元の至る所に30cm程の、どう見ても岩にしか見えないロックマッシュが群生していて、ざっと見ただけでも100体以上はいる。
「全く可愛さの欠片もない光景だな…」
「調査に可愛さは必要ありませんから」
マリアが冷たく言い放った。
同じ女性の筈なのにマリアは可愛い物に一切反応を示さないのが謎だ。
まぁ、可愛い物は老若男女問わず万人に愛される存在なのだが、マリアは可愛いには興味が無いらしい。
マリアの好みはドラゴン系モンスターと言うのが不思議でならない。
ドラゴン系の話をさせたらマリアは止まらなくなる。
どこに魅力があるのか私にはさっぱり分からないのだが…
「とりあえず現状何匹いるのか数を数えるとしようか」
正確性を高める為に私は右から、マリアは左から数を数える。
総数を数えた後に互いに数えた数を照合し、数が合わなければ今度は逆位置から互いに数え直す。
これを繰り返す事で総数を違える事無く数えられるという訳だ。
「…206、207、208、209」
209匹。
多すぎる個体数だ。
「209匹ですね」
マリアと私の数値が合致したので、ここにいるロックマッシュは209匹で間違いないだろう。
「多過ぎるな。」
「いつもならせいぜい100匹前後ですよね?」
「200を超える事はまずないんだが…」
数年おきに大量発生するロックマッシュだが、その数は1つの地域に100体前後。
200を超えたという報告は聞いた事がない。
「この数は異常だな。それに…静か過ぎないか?」
「そうですね、やけに静かですね。入口付近に沢山いたホットマッシュもこの辺では全く見かけませんし、他の小型モンスターもこの辺にはいないようですし」
ホットマッシュが沢山いるとは言え、この森は常に鳥系モンスターが囀り、ミニマムモンスターがチラホラ姿を表すのだが、この一帯ではその姿も声も聞こえてこない。
何か異常が起きている事は明白な気がした。
「とりあえずロックマッシュに気付かれないようにここで観察してみよう。」
私達はロックマッシュから5m以上離れた茂みの中で観察する事にした。
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