世界詩箱２

イメージ試作 1

黒く線を引く天才の少年

頭上のプロペラ

砂糖の時間

鍵盤を眺めて　洗って　沈めて

水面を切って二分される

空気と水　意味と具象

あはれ　泡がうく

水着で泳ぐ　少年と少女

かれら兄妹が上から眺める

「なんで　こんなところに　ピアノがあるの？　お兄ちゃん」

「そのむかし、ここで　聖戦の行われたとき　神さまが沈めたとされてるよ」

ピアノを部屋に使う魚が　顔をだす

天才の少年は　紙の下まで書き終わる

頭脳の丸写し　数字文字記号の羅列と

滲んだ文字　几帳面な形

立ち上がって

かれは紅茶をのんだ

ミルクの含んだ甘ったるいティー

窓から庭を見下ろす　犬が寝ている

丘の上より

少女は足もとを見つめる

月へと昇る階段　白い板

深い黒に吸い込まれる

途方もない雪のような道

カワウソのぬいぐるみ

ウサギのフード帽

短編小説と小さな水筒

祖母から言い伝えられていた

昔話を思い出す

「数字はお好き？」

背後から声がした　女の声

天才の少年は背中を伸ばして

口をつむって

眼鏡をあげた

ふりむくと、背の高い女　青いコート

粘土のような空気がただよう

白砂青松　空も似ている

水晶が浮かぶ

松の間にすりぬける　明るいこどもの声

背景に聳える　天を衝くビルは冷えきり

かすみに姿を薄く隠す

小さな足あと

仮眠の森　鉄屑のベッド　古の城跡

輪る　映像記憶

かすれた断片