第7話セカンドラウンドの前触れ
「えぇーっと、では皆さん遅れてしまい大変申し訳ありませんが上位者の皆さんの今後について説明をしますので、少し場所を変えましょう」
ある意味でカイルに助けられたカエラは気を取り直して本題に戻ろうとしていた。
そして、その話をするにはどうやら場所を変える必要があるらしく、カエラを先頭に上位者達は移動を始める。
リパルションの本部施設は、広大な敷地に囲まれたピラミッド型の高層の建築物になっている。
階層で言えば一階から十階のフロアと屋上だけとなるが、1つ1つのフロアの天井が高く設計されている為、建物自体の高さもかなりの高さとなっていた。
そして現在、カエラ達は1Fの大訓練場から同じく1Fの講師室に向かって歩を進めているのだが────
「ねーねー、まだー? 歩くの疲れたんだけどー」
若干1名がとても不機嫌である。
「咲夜様。まだ歩き始めてから5分も経っていませんが?」
「違う、違うんだよ剛鎧。これは時間とか距離とかの問題じゃなくてね? 気持ちの問題なんだよ」
どうしようもない程の我儘を至って真面目な顔で言いのけるサクヤに対し、今日何度目になるか分からない溜息を吐きながら黙ってしゃがむゴウガイ。
「さすが剛鎧、分かってるね!」
そう言ってサクヤはピョンとゴウガイの背に乗りこんだ。
ゴウガイのこれまでの経験に基づく知識の1つ。サクヤがグズったら
なんだかんだ言ってゴウガイはサクヤにとても甘い男だった。かと言って、別段そんな自分が嫌というわけではないようで、今だってサクヤをおんぶしながら少し微笑んでいる。
頼られるのが嬉しいのか、自分の存在意義がある事が嬉しいのか、はたまたサクヤに関する事ならなんでも嬉しいのか。
なんにせよ、この男が損をしやすい体質であるのは間違いないようだった。
それでもこの世と理とでも言うべきか、損をする人間が必ずしも報われるとは限らない。
そう、例えば────
「あぁん、もう! 咲夜様ってば可愛いわー!」
「いつまで経っても子どものままね。でもいいわ、えぇ、許してあげる。この程度の事にムキになるのは妻として失格だもの」
などなど。楽をしているだけのサクヤにかかるのは美女2人の黄色の声。
そして一方で、本来する必要のない
ゴウガイもそうゆう扱いには慣れてしまったらしく、2人の声を鬱陶しそうにしているサクヤを背に感じながら苦笑いをするだけだった。
「なぁ、アレか? ゴウガイはいつもあんな扱いなのか? 見ててスゲー悲しいんだけど」
「あー、そっすね。昔からあんな感じっす」
「うむ! 剛鎧殿はいつもあんな感じだな! とても優しく忍耐強いお方なのだ!」
サクヤ達の数歩後ろを歩く3人は、完全な他人事として今のゴウガイの様子を話の種にしていた。
下手に刺激すると再びヤヨイが悪女モードに転身するので、少し自重しながら。
だが、こうゆう扱いを見てみぬふりをできない不器用な人間も中にはいる。
「ちょっと! 貴方たちいい加減になさい! ゴウガイ様をなんだと思っているのかしら⁈」
ラーシャである。先導しているカエラの後ろをピタリと張り付くように歩いていたラーシャが我慢の限界だとばかりに会話に入ってきた。勿論、かなりご立腹である。
そしていつの間にか、ゴウガイに敬称が付いていた。
「うるさいわねー。貴女は大きな声でしか話せないのかしら? とても耳障りなのだけど?」
「っ! そうゆう貴女は毒のない発言が出来ませんの⁈ それに! 今のサクヤとゴウガイ様の関係は対等のはずですわ!」
サクヤとゴウガイの関係は王族とそれに仕える貴族であり、サクヤはゴウガイの上に立つ存在なのは確かだ。
しかし、それはあくまで自国、具体的に言うならばリパルションの職務を全うしていない状況での間柄である。
リパルションの規則の1つに一般市民の優先保護というものがある。これは大事の際、つまりは『魔の眷属』との戦闘になった際にリパルション所属のエージェントは他のなによりも、一般市民の命を優先しなければならないという規則である。
だが、立場上どうしてもそれを良しとできない立場の者達もいる。
それが自国の王族に付き従う者達である。サクヤに照らし合わせると、ゴウガイ達がそれに当てはまる。
もしゴウガイの目の前に、ピンチのサクヤとピンチの一般市民がいたとして、ゴウガイが助けるべきはどちらか? 答えは勿論一般市民でなくてはならない。
いくら王族といえどリパルション内においては1人のエージェントだ。エージェントがエージェントを助ける為に一般市民を見殺しにしたとなっては本末転倒もいいところ、組織の存在意義が消え失せるだろう。
それを防ぐ為にリパルションではエージェントの立場を平等にし、王族やら貴族やらの身分階級制度を特例として撤廃しているのだ。
つまりは現状サクヤはゴウガイに命令する権利を有さず、ゴウガイもサクヤの命令に従う必要性は皆無なのである。
おそらくラーシャは先の騒動の時にこの事を言おうとしていたのだろうが、ヤヨイの出現により話の方向性が逸れてしまっていたのだろう。
ここにきて再び糾弾するチャンスが回ってきたせいか、ラーシャの威圧が凄まじい事になっている。
さしものサクヤも自分が所属する機関の規則を破るわけにはいかない。はずなのだが────
「お前はさっきからキャンキャン煩いな。かまって欲しいのか?」
サクヤは全く気にしていなかった。
そして、サクヤが反応したからには当然あの女も黙ってはいない。
「貴女も物好きねー。そんなにさっきの続きがしたいのかしらー?」
ラーシャVSヤヨイ。セカンドラウンドのゴングが鳴り響きそうな予感に、1番近くにいて尚且つラーシャに擁護される形になっているゴウガイは異常な冷や汗をかいていた。
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