第2話国家特別機関リパルション
連合国家アルベルト。ここは、
かつては戦争を繰り返していた国家間だが、各国の世代交代を機に和平を結び1つの国に統合し、今ではマステリア大陸の中でもジェーニッヒ帝国に並ぶ大国として君臨している。
そして、アルベルトにはどの国にも歴史にもない全く新しい機関が設立されている。
それが国家特別機関リパルションである。
この世界には『魔の眷属』と呼ばれる人類に対する脅威が存在する。
『魔の眷属』とは、魔神王が生み出したとされる尖兵。人類を滅ぼし、この地を魔の大陸へと変えようとする絶対悪なのだ。
つまり、この世界では他国間との戦争と『魔の眷属』との戦争、2つの敵と戦っていかなければならない。
従来通りのやり方であれば、各国には騎士団と魔法師団という機関が存在していて、その2つの機関が両方の敵を相手取るのに使われていた。
しかし、戦いの概念が根本から異なる2つを相手にするのは分が悪く、騎士や魔法師の教育が追いつかず需要と供給のバランスが崩れつつあったのだ。
そんな状況を打破すべく、立ち上げられたのがリパルションである。
対『魔の眷属』特化の組織。騎士団、魔法師団とは別の戦闘組織なのだ。
戦う相手をそれぞれ定める事で、アルベルトは問題を解決し、他国の一歩先を行ったのである。
「と、いう事でここまではよろしいですか? 咲夜様」
「ん〜、大丈夫……じゃない」
リパルションの入隊式が終わり、新入隊員達はそれぞれの寮へ戻る事になった。
ただし、上位10名に関してはそのまま待機命令が出ている状況にある。
その時間を使ってゴウガイがサクヤにリパルションの成り立ちを説明していたのだ。
「どこかご不明な点がございましたか⁈ 申し訳ありません!」
180を超える長身が凄まじい勢いで頭を下げる。
黒い髪を短く切り揃えており、肉体美とも呼べるレベルの美しい筋肉は隊服の上からでもその恰幅の良さが分かるほどだ。たくましく、大人の色香も折り込まれているその顔は女性も放っておかないだろう。
サクヤと並ぶと兄妹に見える。
とても屈強な戦士に見えるこの男だが、性分からか面倒見がかなり良い。
サクヤはゴウガイの主人であるが、そのだらしなさと普段のボーっとした様子が相まってゴウガイの兄気質な心をくすぐる様だ。
だが、それ以上にゴウガイはサクヤを尊敬し、忠誠を誓っている。サクヤの為ならば喜んでその身を捧げるだろう、実に忠犬のような男である。
「だってさ、3つも武力組織を作ったらそれぞれに厚みが無くなるだろ?」
サクヤの考えは戦力を分散して大丈夫なのかという事だった。
確かに、筋は通っている。騎士団、魔法師団、リパルション、この3つに戦力を投入し続けるのはいくら大国といえ限度がある。特に魔法師団あたりは才能が大きく関係する分、やつれていくのは早いだろう。
そこを他国に狙われでもしたらヤバい。サクヤはそう言いたいのだ。
「それに関しては」
「それに関しては問題ねーさ、この国は他国の
サクヤの問いに答えたのはゴウガイではなく、1人の男。
話を遮られて敵意を放つゴウガイをサクヤが収めながら声の主を見据えて問う。
「誰だ? お前」
「ひどっ! さっき一緒に壇上に並んだだろ⁈ カイルだよ! カイル・アグエロだ!」
(カイル・アグエロ? 知らないな。いや、待てよ? 確か知り合いの魚屋の息子がそんな名前だったか?)
「サクヤ様、この男は入隊時ランキング6位の男です」
(おっと、魚屋の息子じゃなかったか)
「何か用?」
「いや、用ってほどでもねーがあんな化け物みてーな数値出した男がどんな奴かと思ってね」
サクヤの素っ気ない言葉に笑顔で答えるカイル。
サクヤのカイルに対する第一印象は思慮深い、だった。
金色の髪をカチューシャで上げていて、立て髪の様なシルエット。
全体的にヘラヘラとしている男だが、彼の青色の瞳は真意を探るような、どこか知的で態度とは裏腹にとても落ち着いた瞳だった。
「ふーん、まぁ丁度いいや。さっきの話の続き教えてよ」
ひと通りカイルの分析を終えたところで、サクヤが話を戻す。
カイルは満更でもなさそうにそれに答えた。
「おう、いいぜ。そもそもこの国の武力っつーのは他国とは練度のレベルが桁違いなんだ」
カイル
1つめは、大なり小なり戦争を続けてきたアルベルト以前の4カ国はその過酷な環境故か、自国の兵士の練度がかなり高いらしい。戦力を分散したところで、1人1人のレベルが高い為他国とは十分にやり合えるのだとか。
2つめは、リパルションの存在そのもの。相手からしてみればリパルションが戦争に介入して来ないという保証がないのだ。
仮に攻め込んだとしても、リパルションが投入されれば終わりだ。
普段から『魔の眷属』とかいう化け物を相手に渡り合っている奴らもまた化け物。1度かちあえば瞬殺されて終わりだろう。
という理由から、アルベルトは戦争相手としてレベルが少々高いらしい。
「まぁ、そんなウチらを相手にする奴はよほどのバカだろうな」
ヘラヘラと説明を終えたカイルをよそに、サクヤが呟く。
「俺なら『魔の眷属』を利用して落とすかなー」
カイルはもちろんゴウガイさえも目を見開きサクヤを見る。
『魔の眷属』を利用するなど通常では考えられない行為だ。それを、澄まし顔で言いのけるサクヤに2人は心底驚いたのだろう。
「そんなこと、できっこありませんわ」
サクヤの呟きに反応したのは少女の声だった。
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