戦闘狂は快楽を求む
ハマネコ
第1話驚異の新生
「よくぞ来ました、勇気ある若者達。私はヘーラ・ワールクロイス、この国家特別機関リパルションの代表です。あなた方のこれからの働きに、大いなる期待と信頼を込めて言葉を送ります。この国、ひいては世界の為にその身を奮い、栄光を掴み取りなさい! これにて挨拶を終わりとします」
仰々しく盛大な挨拶が行われたここは連合国家アルベルト。4つの国家によって成り立っている大国、その首都リギュールの一際大きな建物の中だった。
国家特別機関リパルション。
対人間ではなく、対魔獣、魔人、魔物。通称『魔の眷属』と呼ばれる世界の脅威となりうる存在を打倒すべく設立された国家公認組織である。
そして、その本部で今日はリパルションの第15期生の入隊式が行われていた。
隊服である黒いシャツにシルバーのベスト、そしてそれらを包みこむような襟付きのシルバーのロングコートに袖を通した初々しい顔が、先程のリパルション代表ヘーラ・ワールクロイスの挨拶に感化され、奮い立ち、会場内は殺気にも似た歓喜に満たされていた。
ただ1人の少年を除いて。
その空気感の中で完全に浮いている1人の少年。
淡い桜色の髪を肩まで伸ばし、前髪が若干掛かっている大きな紅い瞳が特徴的な小柄の少年。
一見しただけでは少女にも見えるほどの愛らしい顔をしている。しかし。
「眠いな」
せっかくの顔が勿体ないくらいに気怠げな顔をしていた。
「それでは! 入隊時ランク、トップ10を私カエラ・スウィルから発表させていただきます! 呼ばれた方は壇上に上がってください!」
「やっとか」
先程までとはうって変わって、少年が不敵に笑う。
挨拶を終えて入隊式は次のプログラムに移行する。リパルションには階級が存在し、その階級ごとに任務の難易度の変更や規制、待遇などが変わってくる仕組みである。
「第10位! リュウヤ・カブラギ! 武具種;ナイフ! 魔力測定値720!」
会場からおおっ! という感嘆の声が漏れる。
その理由は魔力測定値だ。通常、新規入隊者はランクFのエージェントとして入隊する。そして、新規入隊者の平均魔力測定値は100前後である。その約7倍の数値ということはもはやランクFのレベルではないのだ。
まだ10位だというのに。
「第9位! エイン・ウォル! 武具種;
「第8位! エイル! 武具種;
「第7位! ナルミ・コウカク! 武具種;
再び会場から歓声が上がる。7位にしてすでに1000オーバーの魔力持ちが出たからである。階級ごとの平均魔力測定値でいえば1000はランクEになるのだ。
リパルションは強制ではなく有志制度であり、15歳以上であればだれにでも入隊資格が与えられるため、大抵の者は15歳になったら入隊する。そして、魔力発現も丁度その時期からになるので15歳で100以上ある事ですらかなり珍しいのだ。
「第6位! カイル・アグエロ! 武具種;
「第5位! ラーシャ・ランビリス! 武具種;
「第4位! ゴウガイ・イザヤ! 武具種;
「第3位! アルティネア・エル・ウィシャール! 武具種;
発表者さえ驚くレベルの魔力測定値。会場の新入隊員はもちろん、入隊式に参加していた本部の上層部も驚きを隠せていなかった。2500以上はランクD相当だ。はっきりいって異常である。
ウィシャールといえば連合国家アルベルトの4大王族の1家。
王族は生まれ持って魔力が発現する為、平民に比べて魔力が高い、が、それでも入隊時に3000を超えていれば素晴らしいと褒め称えられるレベルである。にもかかわらず3500オーバー、それでいてまだ3位ときている。
魔力もさることながら、その順位も異常なのだ。
「き、気を取り直して発表を続けます。第2位! ヤヨイ・クジョウ! 武具種;杖! 魔力測定値3700!」
「第1位! サクヤ・クリュウ! 武具種;刀! 魔力測定値……え? これ本当の数値? 故障じゃないの?」
カエラが焦り、測定した者に確認を取る。マジで⁈ という声を聞くかぎり、どうやら本物の記録らしい。
「し、失礼しました! 発表の続きを行います!サクヤ・クリュウの魔力測定値は────5700!」
先程までの歓声が嘘のように静まり返る。会場の誰もがその数値に言葉を失い、絶句する。
有り得ない。
先程の2人も大概な数値だが、サクヤの数値は次元が違う。
5700、これはランクで言えばCに相当する。それ自体は普通であり、在籍中に至る可能性は十二分にある。
問題は、彼がまだ15歳の新入隊員であるという事。
クリュウもまたウィシャールと同様にアルベルトの王族なので、魔力測定値が高いのは周知の事実である。
だが、そのウィシャールよりも2000以上数値が高いことに加えて、この5700という数値はこのリパルション創設以来、歴代1位の数値なのだ。
リパルションのランクカーストの最上位に位置するランク
その驚異的な数値を叩き出した少年が今、ゆっくりと壇上へと上がっていく。
誰もがその少年に畏怖と敬意、相反する2つの感情を絡め合わせて凝視する。
淡い桜色の髪、紅い瞳、華奢な身体。一見したらとても愛らしい少女のような出で立ち。
まだ幼い風貌なのに、少年からは優雅さと凛々しさが感じられる。
そして、先程の畏敬を含んだ好奇の視線は消えていた。
会場にいる者全員が今はただ、単純にその魅力に目を奪われていた。
少年は壇上に着き静かに前を向き、悪戯っ子のような笑顔と共に一言。
「俺が1位って事でOK?」
その一声に会場が沸き、先程までの静寂はこの日1番の歓声へと変わった。
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